今、最も注目すべきアクション俳優は、タイのトニー・ジャーであることは、そっち方面の人々の間では常識であると言ってもいいことであるが、このトニー・ジャーの主演第二作目の『トム・ヤム・クン』について、あーなんかそういう映画があったな程度のことしか記憶になかった。第一作目の『マッハ』は見ているが、見た当時は、今のように武術にそれほど思い入れしていない時だったので、こりゃあ、すげえアクションだ、と思ってそれでオワリであった。
最近、アクション映画でスタント専門にやっている人たちのブログをよく読んでいるけど、その中でトニー・ジャーの『トム・ヤム・クン』はとにかくスゲエと書いてあって、そーか、そーだったのかと、さっそくYoutubeで見てみると、これは確かにスゲエ、のであった。
話は少し変わるが、関節技というのは、かつての武術の中で大きな意味を持つ技である。しかし、柔道は柔術から柔道になった時に関節技がなくなってしまった(訂正します。講道館柔道にも関節技はあります)。それから、空手には関節技はない(と言っていいかどうかはいろいろあるが、とりあえずない、とする)。今の日本の武道で関節技があるのは、合気道と、その源流である合気柔術である(くどいようであるが、柔道にも関節技はある。)外国の格闘術で言えば、寝技での関節技を多用するのはブラジリアン柔術であろう。逆から言えば、今の時代に古流にあった関節技を見ることは、それほど難しいということなのである。
そういうわけで、関節技について、漠然というかぼぉーと考えているのであるが、Youtubeで『トム・ヤム・クン』のいちシーンを見て驚いた、というか感動してしまった。見事な関節技なのである。特に、相手の蹴りをああ捌くというのは、生まれて始めて見た。ここのシーンのことは、DVDの特典で、アクション指導監督がインタビューで語っている。
ここのシーンのアクションは、これまでにないものにしたいという監督の希望があって、トニー・ジャーが古式ムエタイの先生になにか技はないかと尋ねたという。そこで、今は使われていないが、古いムエタイには象の型を使った関節技があると言われ、トニー・ジャーはその型を学び、さらに自分で工夫をして新しい関節技を考え出したそうだ。なるほど、確かに、あの手の動きは象の鼻に似ている。それにしても、シャム拳法というのは、象の動きからも学ぶということに驚く。中国拳法もそうなんだけど、とにかくまあ、アジアの格闘術というのは、動物や昆虫の動きから学ぶんだよなあ。
とにかく、この40人以上はいる相手に片っ端から関節技をかけていくシーンと、1台のカメラが途切れることなく長回しで、フロアーを登りながら次々と敵を倒していくシーンは、アクション映画の歴史に残る名場面と言っていい。これほどの見事な映画でありながら、この映画のことがあまり知られていないのはタイの映画だからなのか。
この映画での中国に対する見方も興味深い。密猟、密輸、人身売買、海賊版DVD、そして珍味嗜好と、中国が徹底的に悪い連中になっている。タイから見た中国のイメージがわかっておもしろい。こんなこと、日本の映画じゃできないよなあ。
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