April 15, 2017

現実感覚を持たない国

 今朝の産経新聞の一面は、産経抄が安倍政権バンザイの内容で、「米「核実験 確証得れば先制」という記事があり、その隣に「北「いつでも実施」」という記事があって、いますぐにでもアメリカの北朝鮮への攻撃が始まるかのような論調である。

 社説「主張」はこう書いている。

「安倍晋三首相が国会で、北朝鮮のミサイル戦力に関連し、「(化学兵器の)サリンを弾頭に付けて着弾させる能力を、すでに保有している可能性がある」と答弁した。

 この懸念は以前から、政府や安全保障専門家の間で共有されてきたものだが、首相の発言は北朝鮮情勢がより切迫していることを物語っている。

 併せて、菅義偉官房長官は北朝鮮が「生産できる複数の施設を維持」していることを明かした。韓国国防省は、北朝鮮がサリンやVXなど2500~5千トン規模の化学兵器を保有するとみている。」

 と、あたかも北朝鮮が化学兵器を搭載したミサイルを保有していることが認定された事実であるかのように書かれている。さらに言えば、こうしたことを首相が言うこと自体が、かなり大きな問題なのであるが、誰もそのことに気がつかないようだ。北朝鮮に対して、アメリカが積極的な行動にでる可能性が高くなったので、日本政府はここぞとばかりに高飛車な態度になっている。そのことが、産経新聞の紙面から伝わってくる。

 その今朝の産経新聞のコラム『緯度経度』で、黒田さんが「有事感覚が後退した韓国」というコラムを書いていた。黒田さんは、こう書いている。

「いつもそうだが肝心の韓国社会にはことさら緊張感も危機感も感じられない。

 韓国社会のこの雰囲気はそんな「危ない北」と長く付き合ってきたことからくる“慣れ”と同時に、北との戦争となると韓国が真っ先に被害を受けるのだから「米国はまさか韓国の意向を無視した勝手なことはやらないだろう」という安心感(?)からだ。」

 黒田さんは、産経新聞のソウル駐在特別記者であり論説委員である。嫌韓が社是である産経新聞の中で、この人は当然のことながら嫌韓ではない。以前、東京都の朝鮮学校への補助金支給の停止について、その通りであると喝采する産経の紙面の中で唯一、黒田さんのコラムでは、かつてソウルで日本人学校を作る時、ソウル市からの援助を受けたことを思えば、東京都が援助することぐらいしてもいいのではないかという意味のことを書いていたのを読んで、なるほどこの人は平等な見方をする人なのだなと思ったことがある。そういう人である。

 黒田さんのコラムからの引用を続けたい。

「韓国社会で北朝鮮との戦争という有事感覚が後退しているのは、韓国が今や本格的な戦争はできないようになってしまったからだ。

 たとえば北との軍事境界線に近いソウルの北方は、高層マンション中心の100万都市である。この新都市開発にあたった盧泰愚(ノ・テウ)政権(88~93年)は「高層マンションは北からの攻撃に際してはソウルを守る盾になる」などといって物議をかもしたが、今や人気の住宅都市である。

 それに韓国が世界に誇るハブ空港の仁川(インチョン)空港も、機上から眼下に北が見えるほどだ。こんなに近くては戦争などできない。」

 ようするに、黒田さんの眼から見ても、今の韓国は「北朝鮮があ」という雰囲気でもなんでもないということだ。国境に接している隣国である韓国ですら、こうなのだ。このコラムでは、韓国がこうであることを、有事感覚の緊張感もなにもないのはいかがなものであるのだろうかという批判的スタンスをにおわせてはいる。だが、おそらく黒田さんは、この現実を受け容れざるを得ないと思っているのだろう。産経新聞の記者である以上、こう書かざるを得ないのである。

 この韓国の社会の姿は、当たり前の現実的な感覚であろう。 戦争になれば、日本による日韓併合から独立して以後、そして朝鮮戦争が休戦になって以後、これまで韓国の人々が築き上げたもの一切が灰燼に帰することなる。そんなことを、誰が望むのであろうか。韓国は、もはや戦争ができる国ではない。これは有事感覚が後退したのではなく、まともな現実感覚になっているということなのである。

 そもそも、北朝鮮が今後も核実験をし続けたとしても、それでアメリカが北朝鮮にミサイル攻撃をするということは国際社会のリアリズムに欠けている。これは、紛争地域のシリアでの政府軍が化学兵器を使った(とアメリカが主張している)ことへの攻撃とは本質的に違うものだ。ましてや北朝鮮の一般市民を犠牲にすることは、国際社会では通らない。むしろトランプ政権は北朝鮮に対して積極的に行動すると言われていることについて、本当にそうであるのか疑いの眼を向けることが必要である。

 仮にアメリカは北朝鮮に先制攻撃をしたとして、その次に起こることは第二次朝鮮戦争であろう。しかし、今ここで戦争などやられたものでは、中国、ロシア、日本を含め周辺国の経済的なダメージは甚大であり、世界経済は第二次世界大戦以後、最大の危機を迎えることになるであろう。その損失をアメリカが支払うとでもいうのであろうか。日本では朝鮮半島の有事を文字通り対岸の火事であるかのように思っている人々が多い。ミサイルが飛んできたり、避難民が押し寄せるのは阻止したいと思っている程度である。その程度の認識しかないのだ。

 今の朝鮮半島の情勢は緊迫しているというのは、確かにそうであろう。しかし、その緊迫の内容は、今すぐ戦争が起こるようなものではない。ましてや、戦争が起こりそうであるのならば、起こらない方法を考えるべきなのであるのだが、そうしたことを考える気はないようである。戦争について現実感覚を持つということは、そういうことなのだ。むしろ重要なことは日本が知らないところで、在日米軍が中国やロシアに対して行っていることだ。

 この国総理大臣とか、ネトウヨとか、ネトウヨ新聞とかが、この島国の中で、北朝鮮がミサイルを打ってくるとか、戦争が起こると不安を煽っているだけである。なぜそうなのかと言えば、国民が北朝鮮への不安を感じることが、安倍政権の支持につながるからだ。

 本当は今こそ、広い視野をもって自分のアタマで、日本以外の広い世界を見て聞いて考えなくてはならない時なのである。それが国際的な現実感覚を持つということなのだ。

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April 09, 2017

アメリカのシリア攻撃と北朝鮮

 アメリカは7日、シリア政府軍が北西部イドリブ県南部の空爆で化学兵器を用いたと断定し、非難するとともに、シリアの軍事施設へのミサイル攻撃を行ったという。またもや、国連安保理の決議前のアメリカの軍事行為である。もはや、アメリカは国連を完全に無視していると言えるだろう。

 シリアの化学兵器使用の有無については立証されていない。むしろ、確実に国際世論の非難を招く化学兵器の使用をシリアがするだろうかという疑念がある。

 仮にそれが真実であったとしても、では今回、ミサイル攻撃を行ったとして、この先、化学兵器を使わせないようにどうするのであろうか。このへんの展望がまったくなく、ただ、ミサイルを打ち込みました、ということをしたとしか思えない暴挙である。また、トランプはそもそもアサド政権と共同し、イスラム国を掃討することを掲げていたが、このミサイル攻撃でアメリカとシリアの関係はどうなるのであろうか。

 オバマ政権であれば、こんな愚かしいことはしなかったであろう。実際のところ、2013年、化学兵器の使用が疑われたアサド政権に対して、オバマは軍事行動に踏み切らなかった。トランプ政権になり、中東の混乱はますます深まるばかりであるとしか言いようがない。イラクに大量破壊兵器があるという捏造で、イラク侵攻を行い、今のイラクの荒廃をつくったのはアメリカであることを国際社会は忘れていない。

 これは、北朝鮮への威嚇行為なのだとする見方がある。というか、北朝鮮に軍事的圧力をかけたい者たちは、アメリカのシリア攻撃を北朝鮮への威嚇行為なのだと思いたがっている。産経新聞はこう書いている。

「トランプ米政権は、北朝鮮に対し、軍事攻撃も辞さない姿勢を見せてきた。今回のシリア軍基地への攻撃は、核・ミサイルだけでなく、化学兵器の開発にも邁進(まいしん)する金正恩(キム・ジョンウン)政権に向け、この上ない強い警告となった。北朝鮮は公式の反応を示していないが、衝撃を受けたことは間違いないだろう。」

 しかしながら、今の時代、力による威嚇は国際問題の解決にはならない。力による警告を行えば、北朝鮮は行いを改めるであろうという考え方そのものが間違っているのだ。この、力でねじ伏せれば、相手はいうことをきくという発想に基づくこの考え方は、それはつまり、自分たち自身が、力でねじ伏せれれば、相手のいうことをきくからなのであろう。

 前にも書いたが、そもそも北朝鮮は「悪い国」なのであろうかと私は考えている。

 こんなことを言うと、悪い国であることは当たり前じゃないかという声が聞こえてくる。つい最近、ドキュメンタリー映画『太陽の下で』を観たばかりだ。あの時間が停止したかのような進歩もないもない、自由がなく、人権もない国がいいわけないではないかという声が聞こえてくる。もちろん、北朝鮮の社会が「正しい社会」だとは私は思わない。

 だが、数多くの国民を餓死させ、虐待し、虐殺をしている国家体制の国は、今現在、地球上に数多く存在している。北朝鮮がけしからんというのならば、そうしたことを行っている他の国々を放っておくのはなぜであろうか。

 北朝鮮は日本をミサイルで狙っているではないかという声もあるが、何度も書くが、あんなものは兵器でもなんでもない。ミサイル兵器に必要なのは、これこれの破壊規模で、何時何分何秒にどこどこへ着弾するということであり、これができなくては戦争にならない。実験程度の打ち上げでは、アメリカはおろか、韓国や日本とすら戦争ができる国になっていない。北朝鮮の国力では、戦争は不可能である。

 北朝鮮の望みは、アメリカとの交渉であり、アメリカによる現体制の維持の保証である。以前に書いたように、この言い分には北朝鮮側にも理はある。北朝鮮を力で威嚇して、では、拉致問題はどうなるのであろうか。北朝鮮に拉致され、2002年に帰国した蓮池薫氏は、NHKのインタビューでこう述べている。

「拉致を解決すれば見返りを与えることができると伝える必要がある。例えば電力事情の改善など経済協力という形で、北朝鮮に必要なもので核やミサイルの開発につながらないものがあるはずだ」

 これは極めて重要なことだ。拉致問題の交渉には、当然のことながら見返りを与えることが必要になる。北朝鮮にとって、今の体制維持が必要なのである。仮に、軍事力により北朝鮮の体制を崩壊させたとしても、その先のことについて明快な道筋を韓国も日本も持っていない。金正恩体制は崩壊する、崩壊するといっていながら、では、実際に崩壊したらなにが起こるのか、なにをどうするのかということについて韓国と日本は現実的に考えることをしていない。実質的なことはなにも考えておらず、万事、アメリカまかせになっているのが現状である。そのアメリカは、力による安易な示威しか考えていない。となると、拉致問題の解決など永遠に不可能であろう。

 今回のアメリカのシリア攻撃で明らかになったことは、トランプ政権のアメリカは安易な軍事行動をするということであり、北朝鮮に対して力による威嚇しか考えていないということだ。つまり、アメリカが北朝鮮に攻撃する可能性が出てきたということである。軍事行動には、合理性がなくてはならない。合理性のない軍事行動は、危険以外のなにものでもない。今の国際社会で、北朝鮮やイランよりも、アメリカが危険な国になっているのだ。トランプのアメリカは、北朝鮮を攻撃することについて、韓国や日本がどうなろうと知ったことではない。アメリカは勝手に北朝鮮に軍事挑発をして、そこから北朝鮮は韓国と日本に過剰な反応をするかもしれない。そうなれば、東アジアは混乱し荒涼となった中東化するであろう。

 そうならないためには、日本はアメリカとは違う外交戦略が必要になる。アメリカがこうなった以上、北朝鮮について、日本がロシア・中国との関係において対処すべき課題であると私は考える。しかしながら、この国には、とてもではないがそんな高度な外交能力はないのである。

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March 18, 2017

朴槿恵大統領の罷免

 産経新聞によると「韓国憲法裁判所は10日、国会が弾劾訴追した朴槿恵(パク・クネ)大統領を罷免する決定を言い渡し、朴氏は失職した。」という。

 韓国、というか韓半島に住む人々の社会が、民主政治になったのは20世紀の終わる頃からである。大統領直接選挙制にすることを決定したのは、わずか30年程度前でしかない。

 古来、朝鮮の社会は、国や集団の利益と合理性で動く国王や政治集団や党によって構成されるグループと、儒教理念で動く在野の儒学者、士大夫、読書人らといった人々の二つのグループがあった。

 ここで話は、14世紀の李氏朝鮮の成立に遡りたい。高麗を滅ばし李氏朝鮮王朝を築いたのは太祖である李成桂(イ・ソンゲ)であるが、もちろん、彼一人で高麗を滅ぼしたわけではなく、彼は高麗を滅ぼした一群の集団の代表であった。この一群の集団こそ、儒学者、両班、士大夫のグループである。李氏朝鮮成立時の両班は、王権を支え、時に王権に朱子学の教えに反するようなことがあれば、それを咎め、諫めることをおこなった。まっとうな、社会勢力であった。

 後に、李氏朝鮮の後期になると、両班は退廃した固陋な階級になり、最終的には朝鮮国家を滅ぼす原因のひとつになる。19世紀、欧米諸国からのウェスタン・インパクトに対して、朝鮮は近代化を受け入れることができなかったのは、この両班、士大夫の階層が近代化に強烈に反対したことがその理由のひとつとして挙げられる。

 日韓併合により両班階層はなくなるが、この文化はなくなることはなかった。この文化が、民衆蜂起で対抗し、反日運動を繰り広げていった。日本の朝鮮統治は、このことを理解することがなかったということが言える。台湾や南洋諸島ならいざ知らず、朝鮮において皇民化政策など朝鮮側からすれば、お笑いものであったろう。

 日本統治が終わり、大韓民国になっても、軍人政権に対して学生運動をもって権力に抗議をしていったのが、この文化である。盧武鉉の弾劾を支持し、実兄が斡旋収賄事件を起こした李明博を糾弾したのもこの文化である。そして、今回、朴槿恵を罷免へと追い込んだのも、この文化である。権力を監視し、社会正義を訴え、政府に問題があれば行動する、かつての朝鮮の在野の儒学者、両班、士大夫、読書人の文化は、今でも韓国に生きている。

 朴槿恵の政治は、父親の朴正煕と同じく密室の独断政治であった。このスタイルは、当然のことながら現代の韓国では合わない。崔順実(チェ・スンシル)被告と、彼女を通しての財閥との癒着があったというイメージもまた現代の韓国では通用しない。朴槿恵政権の誤りは、韓国という国の今の時代状況と、自国の中のこれら反体制の社会勢力の存在の大きさを考慮しなかったということだろう。

 朴政権が日本と合意した慰安婦合意も、合意したのは「国や集団の利益と合理性で動く王朝や政治集団や党によって構成されるグループ」であって、この「在野の儒学者、両班、士大夫、読書人」たちではない。彼らからすれば、日本と合意したとは思っていない。

 ちなみに、戦後日本のアジア諸国への賠償は、その国の政府に対して行い、民間に対しては行われなかった。なぜならば、個人賠償になった場合、日本政府は、その規模と額が限度がない果てしないものになることを恐れたからである。さらに言えば、その国の政府に対し、賠償というカタチでの資金や技術での援助を行い、その結果、両国の親善と日本企業の市場進出を果たすという思惑があったからである。今に至っても、アジア諸国の民間レベルでは、日本の戦争責任の糾弾がなくならないのは、こうした背景がある。

 ともあれ、大統領が罷免された状態になっている今、韓国は外交的に孤立している。THAAD(高高度防衛ミサイル)問題により、中国との関係は悪化し、慰安婦像問題で、在韓日本大使は不在になり、ミサイル実験を繰り返し、金正男暗殺を行った北朝鮮に対してなんの対策を行っていない。アメリカのトランプ政権は、韓国に送る在韓アメリカ大使をまだ指名していないという。現状では、米日韓で北朝鮮に対応するなど無理な話になっている。本来であれば、日本が中心になってとりまとめるべきことなのであるが、そういうことができる能力がこの国にはない。

 実際のところ、在韓米軍に配備されるTHAADは、中国にとって国家安全保障上の脅威でもなければなんでもない。それよりもアメリカ軍がハワイに配置しているレーダーや在日米軍の方がもっと大きな影響力を持っている。これを考えれば、いやがらせは韓国にするのではなく、アメリカや日本に対して行うべきなのであるが、そういうことはせず、ねちねちと韓国をいじめるのは、とてもではないが世界の大国とは言えない姿である。かつて、順治帝・康熙帝・雍正帝・乾隆帝の頃の大清帝国は、朝貢国・朝鮮に対してこんなことはしなかったであろう。

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February 19, 2017

テロ等準備罪(共謀罪)

 「テロ等準備罪」(共謀罪)なるものが新設されようとしている。産経新聞によれば

「安倍晋三首相は17日の衆院予算委員会で、「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案に関し「団体が犯罪集団に一変した段階で(構成員が)一般人であるわけがない。組織的犯罪集団と認めることは当然で、取り締まりの対象となるのは明確だ」と強調した。」

 とのことである。

 犯罪の取り締まりが、一般人が対象であるわけがないのは当たり前のことだ。この「一般人が対象ではない」というのは、なにも説明していないコトバなのである。「一般人」と一般人ではない者」をどう区別するのかということが問題なのだ。この法案を危惧する人々は、なにをもって犯罪行為とするのか、それをきちんと明確にして欲しいと述べている。

 しかしながら、政府は相も変わらず「一般人が対象ではない」と言い続けている。なぜなら、そうとしか言いようがないからだ。この法案は、「一般人」と「一般人ではない者」の違いを「明確にしない」という法案だからである。

 ここに奇妙な弁論がある。犯罪者でないのならならば、この法案に反対するわけはない。組織的なテロや犯罪を防ぐために、この法律は必要なのだという弁論である。「一般人」と「一般人ではない者」の違いを「明確にしない」という法律であるのに、なぜ支持をするのかと言えば、政府が言う「一般人ではない者」には、自分は絶対にならないと思っているのであろう。政府は社会全体のためにやっている。政府が社会を悪くするわけはないではないか。だから、政府を信頼する、というわけである。

 例えば、政府による監視ひとつをとってみても、監視されたくないというのは、なにかやましいことがあるのであろう、やましいことがないのであるのならば、政府に監視されてもいいはずだ、という弁論である。

 この弁論は一見、正しく説得力があるように見える。

 しかしながら、なにが犯罪で、なにが犯罪ではないということが明確になっていない。時の政府の恣意的な判断でどうにでもできる、という世の中になると、人々は疑心暗鬼になり必要以上に自己規制、自粛するようになる。どこまで自己規制、自粛すればいいのかわからないため、どこまでも自己規制、自粛する世の中になる。結局のところ、国家権力に怯える世の中になるということである。

 「政府は社会全体のためにやっている。政府が社会を悪くするわけはないではないか。」と言っても、取り締まる側の現場では、そうしたキレイゴトは通らない。現場では、無制限に権力を行使することが許可されたと判断する。「疑わしきは罰する」ということが常態になる。そうした世の中を、誰が望むのであろうか。

 この法案への野党からの批判を受け、法務省は犯罪対象の枠を狭めた。NHKニュースよると、以下の通りである。

「法務省は、組織的なテロや犯罪を防ぐための「国際組織犯罪防止条約」の締結に向け、犯罪の実行前の段階での逮捕などを可能にする「共謀罪」の構成要件を厳しくして、「テロ等準備罪」を新設する法案を今の国会に提出する方針で、当初、対象犯罪を懲役・禁錮4年以上の刑が科せられる676とする案を示していました。

しかし、与野党双方から「対象が多すぎると国民の不安を招きかねない」といった指摘が出されたことから、公職選挙法違反や危険運転致死など組織的犯罪集団が行うとは考えにくい犯罪などを除外して、対象範囲の絞り込みを進めてきました。

その結果、対象犯罪を組織的な殺人やハイジャックなど、テロの実行に関連するおよそ110の犯罪や、覚醒剤や大麻の輸出入といった薬物に関する30程度の犯罪など、当初の想定のおよそ4割まで絞り込んだ270余りとする方針を固めました。」

 犯罪対象を少なくしました、というわけである。しかし、こうした新しい法律を作らなくても、今の法律で十分に対応できる。政府は、東京オリンピックのための国連越境組織犯罪防止条約に批准するために、「テロ等準備罪」(共謀罪)が必要であるとしているが、日弁連が述べているようにそうしたことはまったくない。

 また、テロについて言えば、こうしたテロ犯罪への法律を新設したり、国民へのプライバシーや人権を無視した監視を強化しても、テロはなくならない。

 ようするに、どう考えてもこの「テロ等準備罪」(共謀罪)は必要あるものではなく、また施行された場合の社会への悪影響があまりにも大きなものなのである。

 そういう法律が生まれようとしている。

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February 18, 2017

金正男氏暗殺

「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄で、マレーシアで死亡したとされる金正男(ジョンナム)氏(45)について、韓国統一省報道官は15日、「政府は殺害されたのは確実だと判断している」と記者会見で述べた。情報機関、国家情報院は、正恩政権発足直後の2012年にも北朝鮮当局が本格的に正男氏の暗殺を企てたと明らかにした。米韓当局は、北朝鮮工作員による暗殺との見方を強めている。」

 と産経新聞は書いている

 国家というものは、時に「国家のため」ということであればなんでもやる。その最たることが戦争であろう。

しかしながら、金正男氏に殺害しければならない程のなにものかがあったとはとても思えない。金正男氏が北朝鮮の体制を脅かしていたとか、金正恩の権力を奪うとかいった理由があったとは思えない。国家がある人物を計画的に殺害するということの国際社会の反発やイメージダウンのコストとリスクをかけても、やるべきことであったのかというと、とてもそのようには思えないのである。

 ということは、どういうことかというと、北朝鮮という国は合理的な判断をする国ではないということだ。実際のところ、恒例化しているミサイル実験を見ても、とても合理的判断でやっているとは見えないのであるが、今回の金正男氏殺害は、北朝鮮というのはこういう国なのであるということが、さらに露呈したということだ。

 このことで思い出すのが、全斗煥政権時代に起きた金大中の誘拐・暗殺未遂事件である。

 1973年8月8日、韓国の政治家、民主活動家で、のちに大統領になる金大中が、韓国中央情報部(KCIA)により東京のホテルから拉致されて、軟禁されて船で連れ去られ、5日後にソウル市内の金大中自宅前で解放された事件である。当初の計画では、殺害して海に沈める計画であったが、アメリカからの圧力により中止された。

 この時の全斗煥には、金大中をこの世から消したいという、いくばくかの理由があったと言えば言える。しかし、日経新聞によれば、今回の出来事は、朝鮮労働党委員長が「嫌いだ。除去しろ」と言うだけで殺害がなされたようである。

「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、マレーシアで殺害されたとみられる異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏について「嫌いだ。除去しろ」と述べ、殺害の実行命令が下ったことが分かった。韓国の情報機関、国家情報院(国情院)の当局者が明らかにした。殺害の手段を巡っては今まで使われたことがない強力な毒劇物が使われたとされ、遺体の口元には泡がついていたとの見方が出ている。」

 日韓併合が終わった後、韓国にせよ北朝鮮にせよ、政権維持のために数多くの人々を殺害してきた。今の韓国は多少なりとも、そのことを客観的に振り返ることができるが、北朝鮮はそこまでになっていない。韓国がそうなってきたというのは、当然のことながら、そういう国では国際社会では通用しないということを、韓国は身をもって実感しているからである。

 北朝鮮の問題は、ミサイルと称するものの実験がドウコウということではなく、権力者の個人的な一言で殺害をする国であるということだ。国際社会の常識的感覚では、こうした非合理な行動をする国があっては困るので、周囲の国々は、この国を排除しようとする。

 しかし、北朝鮮の場合、あまりそうなっていない。北朝鮮の周囲の国々の中の最大の国が、中国であるからだ。中国もまた、北朝鮮以上に、権力維持のために、膨大な数の人々を殺害してきた。本来は、率先して北朝鮮を糾弾しなくてはならない国が、北朝鮮と似たようなタイプの国であるということに、今の東アジアの問題がある。

 北朝鮮の政治体制は、ソ連と大日本帝国の政治体制をまねている。戦前の日本にあったある面が、今の北朝鮮にはある。カンタンに言えば、昔のこの国は、ああいう国でもあったのである。

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February 12, 2017

日米首脳会談

 産経新聞によると、

「安倍晋三首相は10日午後(日本時間11日未明)、米ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。安倍首相は会談後の共同記者会見で「アジア太平洋地域の平和と繁栄の礎は強固な日米同盟だ」と強調し、「日米同盟の絆は揺るぎないもので、さらなる強化を進めていく決意を確認した」述べた。」

 とのことである。さらに、

「尖閣諸島(沖縄県石垣市)について「(米国の日本防衛義務を定めた)日米安全保障条約5条の適用範囲であることを確認した」と明らかにした。また沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設については「普天間飛行場の全面返還を実現すべく、移設に向け日米で協力して取り組む」と述べた。」

 という。

 この、尖閣諸島と沖縄の辺野古を、ここで持ち出すというのがよくわからない。尖閣諸島と沖縄の辺野古の問題が解決すれば、日本の安全保障は完璧であると思っているのであろうか。日米関係の中で、尖閣諸島や沖縄の辺野古といったことは、些細なことであり、それよりもやらなくてはならないこと、日米の間で決めなくてはならないことは、山のようにあるのであるが、それらはどうでもいいのであろうか。

 わざわざ、ここで尖閣諸島の話を持ち出すことで、中国と台湾がどう感じるか考えたことあるのであろうか。わざわざ、ここで辺野古を持ち出すことで、沖縄の人々がどう感じるか考えたことがあるのであろうか。ここにあるのは、このことについて、相手と交渉しようという意思はまったくなく、ただ一方的に、高圧的に、アメリカの力を頼って、こちら側の主張を通すという意思の現れである。

 これを受けて、沖縄タイムズは社説にこう書いている。

「日米首脳会談では、米軍普天間飛行場の返還を巡り「辺野古移設が唯一の解決策」であることも確認された。恐らく日本側が主導し、国内向けに盛り込ませたものだろう。

 これまでも日米首脳会談、防衛相会談のたびに確かめ合ってきたことだが、それにしても「辺野古唯一」「辺野古唯一」と同じことを何度も確認し続ける、この異様さはいったい何なのだろうか。県民に対し、抵抗しても無駄だと言わんばかりである。」

 こうした国の側の態度が、沖縄との交渉をますます困難なものにしていることがわからないのであろうか。ここまで病的で虚弱な政権は、これまでなかった。

 日米安保の内容が実質的にどうこうとなったわけでもない。日本の首相は、ワシントンになにをしに行ったのであろうか。

 『ニューズウィーク日本版』(2017-2・14号)での編集長・横田孝氏の記事「トランプの「外圧」は理不尽か」は興味深い内容だった。こう書いている。

「しかし、そもそも大統領就任後のトランプの日本に関する主張は本当に過激なのか。
 大局的に過去のアメリカ政府や議会の主張と比較すると、実はトランプの主張はそこから大きく逸脱していない。日本の防衛費、為替、自動車市場-----どれもクリントン、ブッシュ、オバマ政権下のアメリカで不満がくすぶり続けた問題ばかりだ。」

「日本のメディアには総じて、トランプが「厳しい姿勢」で「対日批判を強める」ことが「日米摩擦の再燃」につながることを懸念する報道が多い。だが新政権の姿勢を並べてみると、どれも古くて新しい問題ばかりだ。」

「ブッシュやバラク・オバマが同じ発言を行ったとしたら、これほどの騒ぎになっていただろうか。現段階では、これまでアメリカ政府や議会内でくすぶっていた不満が頭をもたげている、と認識するのが妥当だろう。」

メディアが作り出した虚像に怯え、どうでもいいことを騒ぎ立て、自分から必要以上に譲歩して、結局のところ相手の有利で終わる、というのがこの国の外交の姿であることは今に始まったことではないが、病的な小心者である今の日本の首相には、この傾向が著しくある。

 NHKは、この日米首脳会談でトランプがなにを言うかに世界は注目していると言っていたが、外国のメディアはもっぱらトランプのイスラム圏7カ国からの入国制限のことばかりを報道していた。

 大局的、長期的に、論理的に、考えるということをしないのが日本の外交の特徴である。それでいて、やたらと親密な人間関係を築くと言う。親密な人間関係なるものを持てば、交渉がうまくいくと思っているのであろう。自国人どおしの方法論を、他国や他民族にも当てはめるというのも、この国の特徴のひとつだ。このことは逆に、相手はそれに応じるべきであるという思い込みを作っている。明治以後の日本人が、韓国・中国を嫌うのはこのことがある。

 しかしながら、日本の親密なる人間関係外交など通じない。それが外国であり、当然のことだ。つい最近も親密な人間関係がどうこうと言っていたロシアのプーチン大統領との日ロ交渉が、結局のところロシア側の有利で終わった。

 それでも、親密な人間関がどうこうとか、ゴルフが、とかしか言えないのは、ようするに、それしかできないからであろう。

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January 22, 2017

トランプの大統領就任演説

 20日のトランプの大統領就任演説について、ほとんどのメディアは国益最優先の姿勢を危惧し、「かつてない重大な脅威に国際秩序はさらされている」(産経新聞)という。

 そこで、トランプの就任演説を聴いてみた。

 保守思想から言えば、トランプが言っていることは間違っていない。トランプの大統領就任演説は、保守主義の思想では大統領就任演説はこうなるべきであるという「手本」のような演説であった(ただし、巨大な軍事力を持つというのは、保守思想ではない)。ようするに共和党とは、本来こういう政党なのである。さらに言えば、本来の建国時代以来のアメリカはこういう国だったのであり、国際秩序がどうこうということを言い始めたのは20世紀になってからであった。

 問題であるのは、今は18世紀でもなく、19世紀でもないということだ。この就任演説のスピーチライターは、本気でこれが2017年の第45代アメリカ合衆国大統領の就任演説として通用するとは思って書いてはいないであろう。仕事なので書きましたということであったのではないかと思う。上に述べたように、保守思想本来の姿はこの通りなのであるが、それではとてもではないが今の時代の現実に合わないので、国際秩序がどうこうと言っているのが今の共和党なのである。

 それは民主党も同じであり、共和党にせよ、民主党にせよ、やっていることはほとんど大差ないというのが「現実」の政治であった。

 この「やっていることはほとんど大差ない」というのが、格差問題について「なにもしない」というということであった。実際のところ、政治は「なにもしない」わけではない。いろいろ、やっているのである。やっているのであるが、なにをやっても格差をなくすことができないという現状がある。この現状こそ、オバマが直面したことであり、オバマにはできなかったことであった。

 その感情がトランプへの支持に変わっていってしまった。逆から言えば、ワシントンの政府が悪いと言えば一般大衆が熱狂的に支持するという状況を作り出してしまった。

 トランプの大統領就任演説には、理解し難い空虚で愚かしい箇所がいくつもある。例えば、以下の箇所である。

"We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.

We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation."

 アメリカに工場を作って、では労働者の賃金はどうなるのだろうか。メキシコ移民レベルの賃金の支払いでも良いというのであろうか。アメリカの賃金レートで支払うとなると、一般労働者が買える値段の製品ではなくなる。それこそ、さらに格差が広がるだけである。

"We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.We will seek friendship and goodwill with the nations of the world -but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first."

 アメリカ製品を買えというが、純粋なメイド・イン・アメリカの製品が、どれだけあるのであるのかわかって言っているのであろうか。また、国際社会は自国の利益を第一にするというのは当然の前提であって、その前提の上に国際協調や国際秩序がある。それをわざわざ合衆国大統領の就任演説に言う、ようするに自国の利益第一主義を露骨に出すという、このレベルの低さはジョージ・W・ブッシュ以下であり、まだジョージ・W・ブッシュの方がましだった。

 トランプの言っていることでは、中間層の格差はなくならない。トランプは、第二次世界大戦以後のアメリカの歴史の中で、始めて雇用の問題、格差問題をま正面から扱った大統領であった。しかしながら、この程度の人物しか、アメリカの国内問題を正面から扱う者がいないということに今のアメリカの不幸がある。「移民が悪い」「メキシコが悪い」「中国が悪い」「日本が悪い」とわるものを作り、指さすことで、一般大衆の支持を受ける。

 だが、これから結果が表れる。トランプが大統領になった今、それでも格差はなくならない。

 そして、アメリカがこうなったということの最大の問題は、他の国も追従するということだ。つまり、これから世界はこうなるということだ。



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January 14, 2017

続・釜山の慰安婦像設置

 この話しかないのかとも思うが、韓国・釜山の日本総領事館前に置かれた従軍慰安婦被害を象徴する少女像について、さらに考えたい。

 この騒動は、日本と韓国の歴史学的にはなんの意味もない。江華島事件や甲午農民戦争(いわゆる東学党の乱)や乙未事変等々、朝鮮の近代史において、どう考えても日本は「正しくない」ことをやっているのであるが、それらについては今の日韓の間で問われることはなく、従軍慰安婦なるものだけが騒がれている。本来、問うべきことをこの二つの国はやっていない、というか、やろうとする意思すらない。

 日韓ともに、それほど慰安婦像にこだわるのであるのならば、いっそのこと、日韓で首脳会談する席上に、日本の総理大臣と韓国の大統領の間に、もうひとつ席を作って、ここに慰安婦像を置くことにするようにしたらどうであろうか。慰安婦像は、日本にとっては過去の歴史の反省として、韓国にとっては国がしっかりしていなくては自国の民は不幸になるということの戒めとして置くべきだ。慰安婦像の視線は、日本に対して向けられるものであると同時に、韓国自身にとっても向けられるものなのである。

 日本は慰安婦以外にも、様々な労働を膨大な数の朝鮮の人々に強制的に課してきた。慰安婦だけのことで、これほどもめるのであるのならば、それらモロモロのことは一体どうなるのであろうかと思うが、なぜか慰安婦以外を政治問題にするつもりはないようである。ようするに、歴史認識がどうこうなのではなく、政治的に騒ぎたいということなのであろう。

 朴正煕政権下での1965年の日韓基本条約は、当然のことながら国民の意思は無視して締結された。また、河野談話においてもアジア女性基金においても、日本側が提起し、韓国に対して行ったことであり、日韓の双方が国民感情も含めて協議によって行われたことではない。2015年末の慰安婦問題に関する日韓合意も政府主導で短時間で締結された。つまり、このことについて、韓国の世論がまともに顧みられたことはないのである。よって、後になってもめている。韓国政府は、民主主義である以上、国民感情を無視することはできず、国が決めたことだからで慰安婦像を撤去することはできない状況になっている。

 本来、政治問題にすべきものではないことを政治問題にしているので、話がどんどんこじれているのである。例えば、日本は在日韓国・朝鮮人の軍人と軍属への支払いについて、韓国籍でない朝鮮籍の人に払わないのは不公平だとし、在日韓国・朝鮮人の軍人や軍属であった人々、遺族に特別給付金を支払っている。しかしながら、慰安婦への対応については、慰安婦問題がこれほどの大きな政治問題になってしまったので、表だったことができないようになってしまっている。

 13日の朝鮮日報日本語版にはこうある。

「旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年の韓日合意に対し、韓国次期大統領選の有力候補のほとんどが再協議が必要との立場を取っていることが分かった。両国は同年12月の合意で「最終的かつ不可逆的な解決」であることを確認したが、大統領が誰であれ、次期政権では再協議問題が韓日外交の争点になる公算が大きくなった。」

 では、どのようなものにしようとしているのであろうか。

 同じく朝鮮日報日本語版にパク・チョルヒ・ソウル大学国際大学院長がこのようなコラムを寄稿している。 

「韓国の市民団体は、日本の誠意のない謝罪に抗議する意味で釜山の日本総領事館前に少女像を設置したと言うが、在外公館の「安寧と威厳」を守るよう定めたウィーン条約に無視するこうした造形物の設置に国際社会は批判的だ。「世論が好意的なら国際条約も無視できる」という主張は、私たちの間でしか通用しない。政治家たちは、こうした感性に容易に便乗してしまう。万が一、日本と再交渉できることになったとしても、既存の合意よりも良い結果を得られなければ次の政権に重荷になるだろう。合意当時に生存していた46人の慰安婦被害者のうち、34人がすでに合意を受け入れたことも、再交渉論者たちには負担だ。」

 しかし、これを韓国の国民感情が理解するであろうか。日韓関係とは、双方とも、双方の国の国民感情が大きく事態を左右する。そういうものであるようである。

 さらに言えば、イギリスのEU離脱にせよ、アメリカでのトランプの選出にせよ、その国の国民感情が、これまで以上に政治を左右するものになっていると言える。そういう時代なのであろう。

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December 10, 2016

朴槿恵大統領の弾劾が可決された

 9日の産経新聞はこう書いている。

「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人で女性実業家、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入事件に絡み、国会本会議で9日、朴氏に対する弾劾訴追案が野党側などの賛成多数で可決された。憲法裁判所が最長180日間の審理に入り、判断が出るまで朴氏の大統領権限は停止され、黄教安(ファン・ギョアン)首相が職務を代行する。国政混乱の長期化は決定的となった。」

 次は、憲法裁判所が180日以内にこの弾劾が憲法上、妥当なものであるかどうかを決定することになる。

 今日の毎日新聞によると、朴大統領弾劾案の骨子は次の通りである。

「・崔順実被告らに機密資料を提供し国政介入を許し、憲法の国民主権、代議制民主主義などに違反
・大統領府、文化体育観光省の幹部に崔被告らが推薦する人物らを任命し、公務員任命権を乱用
・企業に資金根拠を強要し財産権を侵害。拠出資金は賄賂に該当
・セウォル号沈没事故当日、積極的措置を取らず、国民の生命を守る義務に違反」

 上記の内、最後のセウォル号沈没事故への対応はともかくとして、上の3つは、多かれ少なかれ、韓国の社会ではある種「常識的な」ことである。もちろん、正しいことではないが、これをもって韓国の大統領を罷免させられるというのはいかがなものであろうかと思う。国家の指導者たるものは、これらのことがあってはならないとするのならば、今の韓国で誰が次の指導者たり得るのであろうか。次の政権はこうしたことが一切のない政権になり得るというのであろうか。

 崔順実の国政介入を許したというが、それでは崔順実が日本や中国やロシアやアメリカなどとの関係交渉や韓国の国家安全保証に関わったというのであろうか。自分が関係する企業への利益誘導や賄賂や資金横領、対抗勢力への政治圧力、娘の大学不正入学、等々のことをおもって「国政に介入した」というのはいかがなものであろうか。崔順実は、朴大統領との長年の交友関係を使って、私腹を肥やしてきたアジュンマ(おばさん)でしかない。

 ようするに、国民の怒りがある。

 潜在的にあった朴大統領への不満が、今回の崔順実の一件で表面化したと言えるだろう。また政治的に言えば、父親、朴正煕大統領への恨みを持ち、娘が大統領であることに反感を持つグループも少なくはなかった。今の日本がことあるごとに持ち出してくる、賠償や慰安婦問題は日韓基本条約で決着しているというコトバの、その日韓基本条約を批准したのは朴正煕大統領である。朴正煕が行った全ての「悪行」を朴槿恵は背負わされている。そうした勢力に対処するためにも、より一層の身辺の整理が必要であった。

 9日の韓国の朝鮮日報は「「市民革命だ」朴大統領弾劾可決に多くの国民が歓迎」とし、こう書いている。

「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾案が9日の国会本会議で可決されたことを受け、多くの市民団体や市民らは一斉に歓迎の意を示した。

朴大統領の退陣を求める週末の大規模集会を主催してきた「朴槿恵政権退陣非常国民行動(退陣行動)」は直ちに立場表明を行い、「韓国の国民が誇らしい。弾劾案の可決は広場の偉大なろうそくが成し遂げた成果」と評価した。」

 全斗煥の第五共和国、さらに言えば日本による統治が終わった後の長い軍政時代を終わらせたのは、確かに民主化を求める国民の意思であった。しかし、今、起きていることは、あの時の国民の意思表示とは違うもののように感じる。

 1987年6月の民主化宣言以後、1988年から韓国で始まる第六共和国の国家指導者たち、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博、そして朴槿恵の中で、盧武鉉の時代から、さらに、よりはっきりとしているのは李明博の時代から、韓国の国民感情は変わっている。もともと、保守派の朴槿恵は格差の拡大や財閥・大企業優先の社会を変えることができない進歩派の李明博に対抗するかたちで国民から大統領に選ばれた。それが、結局、なに一つ変わっていないことへのいらだちと怒りがある。

 この朴大統領を弾劾に追い込んだ国民感情が、これからの韓国を造る現れになるのであろうか。

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December 04, 2016

トランプのアジア

 昨日、トランプはアジアのことなど関心がないという意味のことを書いた。

 その後、トランプ次期米大統領と台湾の蔡英文総統と電話で協議したというニュースが飛び込んできた。今朝の産経新聞は、習氏はメンツをつぶされたと大喜びである。

「習氏は米大統領に当選したトランプ氏への祝電で、米中両国が「衝突や対抗をせず相互尊重する」ことを呼びかけ、トランプ氏との初の電話協議でも「協力こそが両国にとって唯一の正しい選択」と強調していた。今回の電話協議は習氏のメンツをつぶすものだ。」

 しかしながら、かつて、ソ連と並ぶ、世界の覇権国であったアメリカ、アイゼンハワーかケネディの頃のアメリカであれば、台湾の総統と「合う」ということは国際政治において大きな意味をもっていたであろうが(実際のところ、アメリカにとって大陸中国と台湾の問題が大きくなったのは、アイゼンハワーやケネディの時代ではなく、ニクソンの時代からであるが)、この時代では、トランプと台湾の総統が電話で会話をしたというのは、アメリカの軍事産業のお得様である台湾の総統がアメリカの次期大統領と電話で会話をしたという程度のことでしかなく、大騒ぎすることではない。

 これは、大陸中国のいう「ひとつの中国」へのゆさぶりでも何でもない。そんな政治的意味などまったくない。米中関係に影響を及ぼすことでもなんでもない。このことをもって、すわ、アメリカは台湾の「独立」を支持すると思うのは間違いであり、アメリカには台湾の「独立」を支援(して、大陸中国との関係を悪化させることに)するつもりはまったくない。

 トランプのアメリカがTPPから離脱すれば、アジアの各国は中国につく。つまり、誰が一番利益を得るのかといえば、いうまでもなく中国であり、誰が一番不利益を得るのか言えば、TPPに固執する日本である。

 トランプのアメリカは、アジアにおけるアメリカの利権を脅かすことをしない限り、中国がなにをやってもかまわないというのがトランプのスタンスである。つまり、台湾の総統と電話をしたドウコウということは表面的なことであって、その本質はアメリカは(結果的に)中国の台頭を妨げることをしないということだ。

 これがこの先、何を意味することになるのか、ということを考えなくてはならない。

 重要なことは、この状況がこれから起こるとなると、、この先、中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)にアメリカが参加したり、中国の国際インフラ投資計画である「一帯一路」にアメリカが協力したりすることが起こり得るだろうかということである。さらに言えば、国連の平和維持軍の主導国からアメリカは降りて、中国が担当することになることが起こり得るだろうかということである。これらが実際に起きたら、本当に国際社会の秩序が変わることになる。

 これらは十分起こり得るということを前提として、これからの中国について考えていかなくてはならない。

 AIIBにせよ、「一帯一路」計画にせよ、その実体はとても話にならないレベルのことが数多く、今の中国のノウハウや技術では、とてもこうしたことができていないのが実情である。しかしながら、中国は日々進歩していることも忘れてはならない。トランプの顧問からは、オバマ政権でアメリカがAIIBに不参加したことは間違っていたという声はすでに挙がっている。

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