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April 30, 2018

朝鮮半島の南北の和平

「韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長は27日、軍事境界線のある板門店で会談し「板門店宣言」に署名した。」

 日本国内の意見で驚くのは「北朝鮮はまだ完全に核を放棄していない。核施設を閉鎖したというがすぐに再開できる状態になっている。」という声が多いということだ。北朝鮮は完全に武装放棄しなければならないと思っているようである。しかし、それでは北朝鮮はどうやって自国の防衛をすれば良いのであろうか。北朝鮮にも自国の安全保障を行う権利はある。金正恩の体制が自国の国民を守ることは国家指導者である金正恩の義務である。北朝鮮が自国を防衛するための軍備を持つことはまっとうなことであり、なんらおかしなことではない。

 極端なことを言えば、北朝鮮が核を持とうが何を持とうが使用しなければ良いのであり、使用する必要がない状態にすることが重要なことなのである。この「使用する必要がない状態にすること」ことが外交であり国際関係である。南北の和平、統一朝鮮の構築が最大の目的であり、核兵器の放棄はその結果でしかない。ところが、日本政府はまず核兵器を放棄せよと言っている。なにが必要なことで、なにが不要のことであるのかという北朝鮮についての方針がまったく間違っている。

 この朝鮮半島の南北和平を最大目標とする姿勢は国際社会のどの国でも同じである。今回、北朝鮮が発表したミサイル発射や核実験の中止はヨーロッパ諸国にはストックホルムで北朝鮮の外相が会談を行った時にはすでにヨーロッパ諸国には知らされていたことであり、唯一、日本政府は知らなかっただけのことであった。また、北朝鮮は核の完全放棄を言っていないとする日本政府の対応について、北朝鮮の国営メディアは「朝鮮半島と地域に流れる平和の流れをまともに感知できない」と主張し、非核化の具体的な行動を取るまで圧力を維持する姿勢を強調する日本政府を非難したという。当然のことだ。

 日本政府が目標としていることは「朝鮮半島から完全かつ不可逆な核兵器の廃棄が検証可能な条件のもとで実施され、全ての拉致被害者が救出される」ということであるが、こんなことは自国の利益しか考えていないまったくの愚かしい考えであると言わざるを得ない。これは世界から隔絶された島国の中でのファンタジーである。ようするに日本は北朝鮮を独立した主体を持つ国家として思っていないのである。拉致についても日本側は完全な被害者意識しかないが、向こうからすればストックホルム合意を破棄したのは日本であるということになっている。

 日本は北朝鮮に対して強面に圧力をかけることしかせず、しかもその圧力をかけるのはアメリカ頼みであり、圧力をかければ北朝鮮側は屈するのであるという極めて低レベルの認識しか持っていない。今回、文在寅大統領の仲介によってよくやく行うことができる日朝会談はおそらくこれもまた低レベルの次元のものになるだろう。大国が決定権を持つ国際社会の中で自分たちの国の平和と繁栄のために外交努力を繰り広げている韓国・北朝鮮と、戦後半世紀以上、ただひたすらアメリカに従属しているだけで平和と繁栄を享受してきた日本とでは外交力のレベルが違う。

 話は少し飛ぶが、日本という国は、なぜいつもアジアの中である意味「特殊」な国になるのであろうかと思う。日本はその長い歴史の中で中国と朝鮮についての膨大で重層で高度な人文の蓄積があったのに、明治以後、なぜアジアを蔑視し、なぜかくも愚かなアジア侵略を行ったのであろうか。なぜ日本・北朝鮮、日本・韓国、日本・中国という日本と周辺アジア諸国の間での外交交渉は、欧米の諸国のような「まともなもの」にならないのであろうかとつくづく思う。

 思えば明治維新以後のこの国のアジア外交は、きちんと独立した主体国どおしの外交というものを行ってきたことがない。いつもどちらかが(主に日本が)上になって相手国を見下す外交交渉をしてきた。歴史上、そうならざる得なかったということはある。しかしながら、それが今でも続けられるかのように思っているのは間違いであるということをしっかりと認識しなくてはならないと思う。

 アメリカはポンペオCIA長官を北朝鮮に送り、おそらくミサイル破棄や核実験場の閉鎖はするが核兵器そのものは(なんども言うが北朝鮮にも自国の防衛がある)保持続けるという方向で交渉したのであろう。中国がこれに同意するか(あるいはもうしているかも知れない)トランプとの会談でそれが公式に決定することになるだろう。朝鮮戦争は終結となり、南北は統一朝鮮への道を歩み始めるということになる可能性はかなり高い。

 ただし、トランプ本人はともかくとして(彼はこれまでの歴代大統領ができなかった朝鮮半島の南北和平を成し遂げた大統領として歴史に名が残ることを望むだろう)、軍産複合体は朝鮮半島が平和になっては困るのであり、今後それらがどう動くがか注目である。平和を望まず、戦争を望む勢力がある。だからこそ、文在寅と金正恩が過剰なまでににこやかに会談をしたことの意味がある。その映像を全世界が見たことにより、この和平ムードに水を差すようなことになった場合、なぜ戦争になるのかと国際世論は黙っていないであろう。

 統一朝鮮は、北と南で二重の政体がある国家になる。もちろん、韓国の情報が北朝鮮の社会へ完全フリーで流れるようになった場合、北の金正恩体制が成り立つのだろうかという疑問はある。それはそうなった時の、次の課題であろう。また北朝鮮国内においても韓国国内においても、このまま和平へ統一へと進むことを良しとしない勢力がある。そうした勢力を金正恩と文在寅はどう押さえ込めるかが、これからの課題になるであろう。南北統一の道はこの先長い。

 今、東アジアの冷戦構造がようやく大きく変化しようとしている。これから着目すべき点は、経済制裁はどうなるのかということと在韓米軍がどうなるかということだ。在韓米軍について言えば、アメリカは置いておきたいとするであろう。中国はなくして欲しいとするであろう。韓国国内でも米軍が出て行くことに危機を感じるとする政治勢力がある。金正恩は在韓米軍の撤退を南北和平の条件とし、話がそこまで進むかどうかということだ。在韓米軍の撤退がリアルな話として見えてくるようになると、在日米軍の存在意味がかなり変わることになる。

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Comments

偽りの平和に感動してはいけませんね。それでは自分のために中間選挙を最優先するトランプの術中にはまります。

ステルスさん、

その通りです。トランプは中間選挙のために注目を得て得点を挙げたいのです。そこがアメリカ側の弱点です。所詮、北朝鮮は小国なのです。アメリカは超大国です。小国が超大国に正面から向かってかなうはずがありません。北朝鮮も韓国もそのことをよくわかっています。

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