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April 15, 2018

『オリバー・ストーンONプーチン』を観る

 先日、NHK-BSで『オリバー・ストーンONプーチン』前後編を観た。映画監督のオリバー・ストーンが、約2年にわたりロシア大統領プーチンに行ったインタビューのドキュメンタリー番組である。ちょうど同じ頃にNHK-BSで『プーチンの復讐』前後編というPBSの「フロントライン」が制作したプーチンとロシアのドキュメンタリー番組もやっていて、この二つの番組を観たことで大変勉強になった。

 なにが大変勉強になったのかというと、この二つの番組の内容がまったく正反対の内容であり、国際情報は対立している双方の国側の情報を見ることがいかに必要かであるかということがよくわかるということである。

 オリバー・ストーンの番組はおもしろかったなあと思っていたら、この番組の書籍化した本が出ているという。オリバー・ストーン著『オリバー・ストーン オン プーチン』(文藝春秋)である。なんと、そうなのかとさっそく池袋のジュンク堂本店で買ってきて読んでみた。

 読んでみると、まず、プーチンへのインタビューテレビ番組は4回のシリーズになっていて、NHK-BSでやった前後編2回の番組はそのダイジェスト版であった。日本ではNHK-BSでのこの放送の後、Amazonジャパンで4回の全話を有料で見ることができるようになり、さらにDVDが4月から販売されている。書籍版にはこの4回の番組で放送していないシーンも含まれている。Amazonで4回の全話を見てみると、なるほどこういう番組だったのかと改めて知り、この内容があまりにも興味深いものであったので、文藝春秋の翻訳版の原本の"Oliver Stone Interviews Vladimir Putin"をAmazonで注文をして入手し読んだ。本当はプーチンがなにを言っているか正確に知るにはプーチンの会話をロシア語で理解する必要があるが、オリバー・ストーンのインタビューはロシア人の通訳者が英語への通訳を介してのインタビューであったので英語でのオリバー・ストーンとプーチンの会話を読んでみたいと思ったのだ。4回の番組をまた見るのはAmazonでいつでも見れると思ってDVDを買うのは必要ないかなと思っているのであるが、これも近々に購入するであろう。それほど関心が持てるものだった。

 かつてプーチンは、ドイツのミュンヘンで開催された第43回「ミュンヘン国防政策国際会議(Munich Conference on Security Policy)」で痛烈にアメリカの政策を批判する演説を行った。この時プーチンが言ったアメリカ批判は至極まっとうで言っていることは間違っていない。多かれ少なかれ、世界の数多くの国々の外交担当者が内心思っていることであり、それをプーチンは堂々と公の場で言ったのだ。だだし、その一方で紛れもなき力関係で成り立っている国際社会で道理が通ることは大変難しいこともまた事実である。もちろん、だからと言ってプーチンの主張はその通りであって、その価値が些かも揺らぐことはない。ただし、アメリカがやっていることは常に正しいわけではないように、ロシアの側もまただからと言って常に正しいことをやっているわけではなく、このことが国際社会とロシアの間を複雑なものにしている。

 ところが、このミュンヘンでのプーチンの演説はドキュメンタリー番組『プーチンの復讐』では徹底的にプーチンは悪というように描かれている。プーチンの言っていることにも理があり、自国の外交政策にも誤りがあるとは決して思わないのである。このプーチンは悪、ロシアは悪というスタイルはドキュメンタリー番組『プーチンの復讐』の中で一貫としてある。

 欧米における国際認識では、ロシアはつねに悪役である。極東の島国の民である私からすれば、なぜそこまで最初からロシアが悪いという前提から始まるのか理解できないことがある。とにかく欧米ではロシアは悪役である。このへん、ヒトラーが率いたナチス・ドイツの扱いと同じだ。欧米にはロシアへの恐れがあるというか、ウラジミール・プーチンという人物への恐れがあると言えるだろう。

 このプーチンは悪のイメージに真っ向から反対の異を唱えるのが映画監督のオリバー・ストーンである。

 私がプーチンへのインタビューに興味を持ったのは、このブログで以前書いたことがあるが、法政大学の下斗米伸夫教授の『プーチンはアジアをめざす』(NHK出版新書)と『宗教・地政学から読むロシア』(日本経済新聞出版社)を読んで、欧米から非難されているウクライナ問題はロシア側にも言い分があるということを知っていたからだ。ロシアには、アメリカやヨーロッパとは違うものがある。そのことを理解しているといないとでは、ロシアに対するイメージは大きく異なる。そして、欧米においても日本においても、そのことを理解しているロシア論者は数少ない。このことが、オリバー・ストーンのプーチンへのインタビューの中でも語られており、下斗米先生の主張と重なるものが多い。

 もうひとつは、オリバー・ストーンは『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』の中で、ナチス・ドイツを降伏させたのは英米ではなくソ連であったことを述べていたからだ。英米の第二次世界大戦の歴史観は連合軍がファシズム国家を倒したというものである。このファシズム国家とは言うまでもなくドイツ、イタリア、そして我が国である。連合軍にはソ連も含まれるが、英米の歴史観では、我々(英米)がファシズム国家を倒したというものである。しかしながら、オリバー・ストーンは『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』にあるソ連・ロシア観とは、ソ連・ロシア側にも言い分はあるということだ。連合軍がナチス・ドイツに勝ったことについて、どちらがたいへんだったのかと言えば英米ではなくソ連であった。ソ連がナチス・ドイツを敗北に追い込んだのである、この視点はプーチンへのインタビューにも一貫としてあり、簡単に言えば、ロシアは悪くはない、ロシアは悪としているのは欧米なのであるということだ。

 ソ連が崩壊した後、もはやNATOは必要がなくなるものであった。プーチンもまた米ソの対立はなくなり、NATOはなくなると思っていたという。どころが、その後もNATOはあり続けている。なぜか。欧米の統合として敵国が必要だからであるとプーチンはインタビューの中で述べている。本当は全地球上を覆う現代の交通と情報テクノロジーによってグローバルな人類社会を作ることは可能だ。しかしながら、そうはならない。人間の社会は社会としてのまとまりを持つために「敵」を必要としているからだ。こうなると地球外生物が地球を侵略しにこなくては人類というまとまりを持つことはできないということになる。

 今起きているイギリスのソールズベリーで3月4日、ロシアの元情報機関員セルゲイ・スクリパリ氏と娘が神経剤ノビチョクで襲撃されたとされる事件は、欧米とロシアが互いに外交官追放に踏み切る事態に発展しているが、イギリスは襲撃にロシア政府が関与しているという明確を証拠はいまだに提示されていない。これなども、ロシアは悪という偏向があるからである。その中でオリバー・ストーンは単身、ロシアに行ってプーチンにインタビューをするということをやったのである。

 我々はこのインタビューから、ロシア側から見た視点という西側のメディアからは得ることができないことを学ぶことができる。

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