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September 23, 2017

「言うだけ番長」のトランプと北朝鮮

 「言うだけ番長」とは産経新聞による造語で、今は民進党党首の前原誠司氏のことを揶揄したものであるという。口先ばかりで結果が伴わない人のことを言うらしい。その意味でならば、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩は(さらに言えば、日本の安倍晋三さんも)「言うだけ番長」であると言えるだろう。

 トランプ大統領は19日、ニューヨークの国連本部で行った演説で北朝鮮を「完全に破壊」せざるを得なくなる可能性があると述べたという。ひとつの国を「完全に破壊」すると言うアメリカの大統領を見ることはあまりない。トランプらしい、おっさんの放言のような演説である。

 このトランプの演説に対して、北朝鮮の李容浩外相は「犬がほえて脅かそうというなら、ばかげた夢だ」と言い金正恩は「米国の老いぼれの狂人を必ず火で罰するであろう」と言い、これに対してトランプはツイッターで「金正恩は狂った男」とツイートしたという。

 私はこれまでトランプはアメリカの外交には役立たずと思っていたが、その考えを訂正しつつある。北朝鮮は確かに非合理的言動をする国であるが、それに負けず劣らない人間がアメリカ側にもいた。合衆国大統領のトランプである。またはったりや恫喝を得意とする合衆国大統領は、同じくはったりと恫喝で国際社会を生き抜こうとしている北朝鮮の相手としてたいへんふさわしい。太平洋を挟んで、東と西でメディアの中で罵倒と罵り合いをする「だけ」という関係もあってもいいと思う。それで双方のメンツが立つのならば大いにやって欲しいものである。

 北朝鮮に対して、最も必要なことは北朝鮮がなにをやろうと実質的な意味はないのでこちらは騒がないということであるが、北朝鮮の言っていることにはむかっ腹が立つであろうから、ここはひとつ合衆国大統領トランプが立ち向かい罵り合い合戦をしてもらうというのはどうだろうか。こうしたことは、オバマではできなかった。オバマにはできず、トランプにはできることは数多くある。トランプと金正恩(というか北朝鮮という国そのもの)は似たところがある。

 安倍晋三さんは国連での演説で「必要なのは対話ではない。圧力だ」と言い、軍事行動を含むアメリカについて「一貫して支持する」と述べるという、毎度変わらずの対米従属を表明しているが、アメリカの軍事行動をすることについては私は疑問がある。

 アメリカによる軍事攻撃は、当然のことながら北朝鮮が反撃に出る前に金正恩と北朝鮮軍を完全制圧しなくてはならない。アメリカ軍によるいわゆる斬首作戦は可能であるのかどうかということになると困難であろう。パキスタンで特殊部隊によりオサマ・ビンラディンを殺害したようにはできない。もし失敗した場合、北朝鮮による韓国と日本への攻撃がある。このリスクをかけることに、トランプ政権のケリー首席補佐官、マクマスター補佐官、マティス国防長官の軍人トリオは同意しないであろう。軍人であるからこそ、実際の軍事作戦は、映画のようにうまくいかないことを骨身に染みるほど知っているのである。

 ただし、失敗し北朝鮮から反撃があったとしても、韓国と日本の被害をそれほど大きくはないと考えられることも事実である。このブログで何度も書いているが、北朝鮮のミサイルは張り子の虎であり命中率と破壊力が軍事兵器として使いものになっているレベルではない。百歩譲って、仮にソウルや東京に命中したとしても、ソウルや東京が「火の海」になる程ではない。この前、北朝鮮の攻撃でソウルは火の海になるかのように書いたが、よく考えてみれはミサイル攻撃だけではそこまでの破壊規模はないことに気がついた。

もちろん地続きで隣にある韓国は、北朝鮮の地上軍が侵攻してきた場合は被害が大きくなることは十分予測できる。つまり緒戦の被害は大きくないであろうが、先の朝鮮戦争のような中国の軍事介入は今度はないとしても、戦争が拡大していけば北東アジア全域に大きな被害を及ぼすであろう。

 アメリカの軍事行動について、もう一つは中国とロシアが承認することはないということだ。中露の承認なくして、アメリカは東アジアで大規模な軍事行動はできない。中国とロシアが承認しない状態で、アメリカが軍事行動をとった場合、その結果を予測することが困難になるのである。かつて朝鮮戦争は、北朝鮮が侵攻してくることは絶対にあり得ないとアメリカは思っていた戦争であり、中国が本格介入してきたことも想定外であった。

 では、北朝鮮への経済封鎖は今後どのようになるであろうか。

 過去20年近くにわたって、北朝鮮への経済制裁が効をなさなかったのは中国が関係をもってきたからである。だからこそ、中国が本気で経済封鎖をすれば北朝鮮を崩壊させることはできる。中朝関係というものは、その実体は中国が北朝鮮に援助をしてやっているというものであり、北朝鮮は中国を利用しているという程度のものでしかない。中国と北朝鮮は一蓮托生というものでない。

 しかしながら、かといって時間をかけて北朝鮮をゆっくりと崩壊させることは望まないであろう。北朝鮮からの大量の難民が発生すること避けたいのである。やはり、人民解放軍が介入し、一気に体制転換を図りたいであろう。

 中国が恐れることは、このまま北朝鮮が核兵器やミサイル実験を続けていくことにより、これに対抗して韓国や日本が(つまり、在日米軍と在韓米軍が)兵力を増加し、さらには韓国と日本が核武装をするということだ。こうなると中国も金体制を見捨てざる得なくなる。ただし、中国は自国だけで軍事介入はしないであろう。中国がまた朝鮮を軍事支配したということになるからである。歴史上、朝鮮は大陸の軍事力何度も被害を被ってきた。朝鮮は、その恨みを忘れていない。なので、中国は国連を通して介入しようとするであろう。中国にとって一番望ましいのは、米中共同で北朝鮮に軍事介入するプランであろう。ただし、韓国と日本はこの介入による被害を避けることはできないであろう。

 北朝鮮のミサイル問題は、おのおのの国によって求めることが違うということが重要なのである。アメリカにとっては、北朝鮮が核兵器をもっていても、本土に核ミサイルが飛んでこなければそれでいいのであり、長距離弾道ミサイルを持たないということになればそれでいい。しかしながら、日本と韓国にとってはそれだけでは不十分だ。中国とロシアの思惑も異なっている。だからこそ、国連で会議をして全員一致で決まるということはない。つまり、アメリカ主導だけでは北朝鮮問題の解決にはならないのだ。そう考えてみると、安倍政権はそのアメリカに従属一辺倒であるが、いかに愚かしいことであるかよくわかるであろう。

 その一方で北朝鮮側が求めているのは、現在の体制の容認、つまり現在休戦の状態にある朝鮮戦争の終結であり、休戦協定から平和条約への移行なのである。このこと自体はおかしなことでもないでもない当然のことであろう。朝鮮戦争が休戦でずるずると60年以上も続いてきたこの状態が、そもそもの原因なのである。これがこのままである限り、これからも北朝鮮問題は続いていく。

 北朝鮮問題とは、結局のところ、アメリカと中国は休戦状態にある朝鮮戦争をどうするつもりなのか。ここできっちりと決着させるのか、あるいはこの先もこのままにしておくのか、しかしそれでもいつかは必ず決着しなくてはならない時はくる、という話なのである。

 15日の外国特派員協会での姜尚中さんの講演はたいへん興味深い。姜尚中さんはこう語っている。

「かつて韓国は、ロシアと中国と国交を正常化したとき、朝鮮半島のアンバランスを危惧しました。キッシンジャー元国務長官はかつて、クロス承認(アメリカと日本が北朝鮮を、ソ連(現ロシア)と中国が韓国を相互に承認する構想)ということを述べていたと思います。いま考えると、韓国は4大国と国交正常化しているんですけれども、北朝鮮は結局、中国とロシアとの正常化しか成し遂げられていない。ですから、米朝正常化と日朝正常化ができれば、ようやくクロス承認が達成されるということだと思います。

私自身は、北朝鮮が核を脅しに使って南北を統一するとは考えていません。彼らが望んでいることは、アメリカを引き入れ、アメリカと平和的な関係を結び、そして中国をけん制しながら、日本との日朝平壌宣言によって何らかの経済援助、おそらく現行でいえば1兆円くらいの有償・無償の経済援助が引き出せると、彼らは考えていると思います。」

「結局、北朝鮮が孤立している限り、北朝鮮のいわば独裁的なレジームはかなりしぶとく続いていくと思います。むしろ正常化することを通じて、北朝鮮の中が変わっていく可能性が十分にあると思います。

これは、みなさんが思考実験をやれば分かると思います。キューバであれ北朝鮮であれ、もし正常化してさまざまな形での交流がもっと深まっていれば、キューバも北朝鮮も大きく変わっていたはずです。

これは韓国の場合も言えると思います。もし1965年に日韓基本条約によって国交が正常化されなかったとして、ずっと軍事政権が現在のミャンマーのように続いていたと仮定すると、韓国という国は今のような経済的繁栄を謳歌することはできなかったはずです。」

 まさに姜尚中さんの言う通りだと思う。北朝鮮にとっては、朝鮮戦争が休戦状態になった1953年以後、実質的な歴史が動いていない。これを動かす必要がある。

 平和条約が成立したら、日本は北朝鮮への積極的経済協力を行うべきである。かつて朝鮮を統治した国として、もう一度、大規模な経済介入をするのである。東アジアで最低レベルの貧困地域に巨大なインフラ事業を行うのだからその成果は大きい。日本の国民感情は、北朝鮮を助けるということに抵抗を感じる声が多いであろうが、ここで行う様々な事業は北朝鮮のためにドウコウという話ではなく、世界に向けての日本の経済力のアピールなのであり、現在、中国が行っている「一帯一路」政策への対抗措置なのである。

 中国は中央アジアの砂漠地帯でインフラ事業を手がけているが、実際のところインフラ事業としての効果やビジネスとしての利益を考えた場合、意味を持つのは北朝鮮地域から北のロシアの沿岸地帯、北方4島、千島列島の地域である。ここで巨大インフラ事業ができるメリットは大きい。また、日本の安全保障にとってもこの意味は大きい。必要なのは金体制の容認ではなく、日本が北朝鮮という国に影響力を及ぼす国になるということである。そして、北朝鮮の経済が向上していった時、金体制がどうなるのか、存続するのかどうかは北朝鮮の人々の選択である。

 姜尚中さんがいうように、韓国の朴正煕政権は決して民主的な政権ではなかった。軍事独裁政権であり、国民は政府に支配され民主化運動は弾圧、逮捕、殺害されていた政権である。それでも日本は日韓基本条約を結び巨額の経済援助を行った。今日の韓国の経済発展の背後には、この時の日本の経済援助があるというのは間違いではない。韓国に対してできたことが、なぜ北朝鮮に対してできない(もちろん、日本の陸軍士官学校を出た朴正煕は「米国の老いぼれの狂人を必ず火で罰する」とかおおっぴらに言うことはなかったが)のであろうか。

 では、誰が、このむかっ腹の立つ北朝鮮の金正恩と朝鮮戦争終結の和平交渉を締結することができるのか。

 それは「言うだけ番長」の似たものどおしのトランプではないかと思う。核なき世界演説でノーベル平和賞をもらったのはオバマであるが、北朝鮮との和平交渉を成立させることができればノーベル平和賞ものであることは間違いない。第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・ジョン・トランプの偉業となり、キューバ危機を乗り越えたJ・F・ケネディと並ぶ偉大な大統領として現代史にその名が残るであろう。

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