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May 02, 2017

第二次世界大戦で作られた国際秩序の終わり

 『ニューズウィーク日本版』(2017年5月2日号)の「特集:国際情勢10大リスク」は、なかなか興味深いものであった。ニューズウィークは(TIME誌もそうであるが)カバーストーリーがいつもページ数が少なく、内容も物足りないのであるが、今回の特集記事はそれなりに読み応えのある記事ばかりであった。

 その中でも特に考えさせられたのが、ニューズウィークのコラムニストで元CIA諜報員であったというグレン・カールのコラム「国際機関に終わりの日が迫る」(End of The Postwar order)だ。「第二次大戦の経験が生んだ米国主導の多国間主義は中国の台頭やポピュリズムによって機能不全に」なったとするコラムである。これは極めて重要なことだ。こういうことがニューズウィークのような国際誌に堂々と載るようになった。それほど、これは進展しているということであり、誰もが漠然とではあるが確かに感じていることなのだろう。第二次世界大戦で作られた国際秩序(The Postwar order)が今、本当に崩れ始めているということである。

 以下、このコラムの概要をまとめてみたい。

 このコラムでは、今日の経済と政治システムの在り方が定められたのは、第二次世界大戦が終わろうとしていた1944年に、ブレトンウッズ会議で決められたブレトンウッズ体制と、ダンバートン・オークス会議で決められた、後にサンフランシスコ会議で採択される国連憲章になる「ダンバートン・オークス提案」であるとしている。

 ブレトンウッズとダンバートン・オークスで生まれた戦後体制は、次の3つの概念的・構造的支柱から成り立っていたという。

 第一は、国際的な政治問題の解決に取り組む国際システムの構築である。これは、1945年に設立された国際連合のことだ。国連の国連憲章や世界人権宣言は、国家間の問題を解決するルールとして機能してきたという。

 第二は、国際的な経済問題を解決すべくIMFや世界銀行、WTO(世界貿易機関)の前身となる組織を創設したことである。これらの組織の目的は、貿易と経済成長の促進であり、その手段として関税や貿易に関する国際ルールを形成し、通貨安定を通じた経済成長を奨励してきたとしている。

 第三は、このコラムはこう書いている。「ダンバートン・オークス会議やブレトンウッズ会議に集まった首脳は、共有する政治・社会哲学の基盤の上に新たな国際秩序を打ち立てようとした。主権国家、国際法の支配、人権を柱とする秩序だ。」

 このコラムでは、こうした試みが(それなりの)成功を収めてきたのは、国連の「ポリスパワー」にあったとしている。国連は加盟国に、必要とあれば安全保障理事会の決議によって武力を行使できるということである。実質的には、戦後の超大国であるアメリカが「世界の警察」の役割を果たしてきた。

 この戦後体制が、もはや機能していない。国連もWTOも世界銀行も国際法も、多くの国々は従わない。アメリカは「世界の警察」の役割を自ら辞退するようになった。このコラムはこう書いている。「アメリカでも他の国々でも、今や国際機関を敵視する勢力が力を増やしている。ドナルド・トランプ米大統領は国連などへの拠出金削減を唱え、地球温暖化対策の新しい枠組みであるパリ協定など、多国間協定から離脱すると主張する。同様に、フランスの極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首や、イギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージュ元党首は「自国第一」を訴えて幅広い支持を得ている。」

 シリア難民を受け入れているメルケル首相への反感も、ドイツ国内では高まっている。もはや人々は、国家間で協力して物事を解決していこうということをしなくなったと言えるだろう。

 なぜ、こうなってしまったのだろうか。このコラムでは、従来の国際機関が相対的に衰退している要因は、次の3つであるとしている。

 一つめは、ブレトンウッズ会議とダンバートン・オークス会議が開催された1944年以降、150以上もの主権国家が誕生したことである。世界にこれだけの数多くの主権国家が増え、各国が自国の利益を主張するため、アメリカが国際機関、あるいはアメリカ自国の意向に基づいて秩序を守ることは飛躍的に困難になった。

 二つめは、中国が超大国に変貌したことである。コラムはこう書いている。「国際機関や国際条約は、超大国の同意なくしては機能しない。15年に採択されたパリ協定は、米中がそろって批准したことで発効に弾みがついた。とはいえ合意が得られない場合もある。例えば南シナ海問題では、中国は国際法にもオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所の決定にも従おうとしない。44年当時の世界秩序に基づく今の国際機関は、経済や政治、軍事力の現状をもはや反映していない。」

 三つめは、戦後の経済システム、つまりグローバリゼーションの成功が敵意を招き、システム崩壊の危機に陥ろうとしている現状があることである。コラムはこう書いている。「各地でポピュリズムが盛り上がり、グローバル化が推進する価値観を拒絶する傾向が強まり、自らの直接的な主権が及ばない場所でなされた決定に反感を募らせる人々は増えている。ポピュリズムはナショナリズムにつながり、ナショナリズムは国際機関の影響力をむしばむ。このままでは、世界は地域ごとに分割され、列強がそれぞれ影響圏と貿易圏を率いる形に再構成されそうだ。」

 結論として、これからの世界は「ブロック化」すると言う。

「アジア地域でカギを握るのは、もちろん中国だ。中国はこれからも、南シナ海問題に見られるように、多国間の取り決めを拒否して伝統的な2国間協定を選択するのか。そうであるのなら、アメリカが中国と直接対決しない限り、アジアは中国が覇権を握る経済ブロックに化すだろう。
中東では、アメリカに対抗するロシアやイランが影響力を拡大している。そのせいでシリア内戦、イラク、グルド人問題などの危機の解決に当たって、国際機関が持つ意味は薄れるばかり。国際協定の瓦解や国家対立が膨らんでいる。」

「地域内で、あるいは2国間で貿易協定を結ぶ動きは今後も続く。世界規模での経済統合は鈍化または停止し、保護主義が台頭し、世界経済の成長率は失速して生活水準は下がるだろう。」

「その先に待つのは、より地域的でより貧しい世界。変化の速度がより遅く、これまでよりもゆがんだ世界だ。」

 そして、このコラムの作者はブレトンウッズを歩き、300年前にこの一帯に暮らしていて、今はいない先住民アナベキ族のことを思う。彼らが不変だと信じたこの世界は、新しくこの地へやってきた人々によって滅ぼされたことを思いながら、最後にこう書いている。「73年前に形作られた国際体制と組織も、新たな時代の中で滅びの時を迎えようとしている。」と。

 以上がこのコラムの概要である。以下、このコラムについて私の考えを述べたい。

 まず、今の経済と政治システムのあり方が定められたのは、ブレトンウッズ体制とダンバートン・オークス提案であるとしていることは理解はできるが、さらに言えばブレトンウッズ体制による固定為替相場制は1971年のいわゆるニクソンショックにより変動相場制に変換された。この変化は20世紀末に起こる金融革命とでもいうべき金融の大規模な変革をもたらした要因の大きなひとつである。つまり、戦後の経済のあり方がブレトンウッズ体制にあるというのであるのならば、20世紀末においてすでに崩壊していた。この時点で、もはや国際的なあるひとつの秩序が金融を管理するスタイルではなくなった。金融の世界では、アメリカ中心ではなくなっていたのである。

 一方、ダンバートン・オークス提案についてであるが、実際のところは、こうした国際的な理念は第二次世界大戦ではなく、その前の第一次世界大戦の後から生まれていた。第一次世界大戦のような巨大規模の戦争を二度と起こさないように、アメリカのウッドロウ・ウィルソンは十四か条の平和原則を発表し、国際的な平和維持機構の設立を提唱した。この平和原則が、敗戦国であるドイツに対する講和条約の前提となり、1919年のパリ講和会議では連盟設立が取り上げられ、ここから国際連盟が発足した。つまり、主権国家、国際法の支配、人権を柱とする政治・社会哲学と国際秩序の構築は、第二次世界大戦後ではなく、第一次世界大戦後においてすでに試みられていたのである。しかしながら、それでも第二次世界大戦は起こり、再度の試みとして構築されたのが第二次世界大戦後の国際秩序であった。

 では、第二次世界大戦後の国際秩序は、約70年間、なぜとりあえずは機能していたのかというと、三つの理由があると思う。ひとつめは、核兵器の存在である。二つめは、グローバル経済の発展である。三つめは、地球規模の交通と情報通信の発達である。

 しかしながら、このコラムでも述べられているように、主権国家の数が増えた今日では、国際社会の利害調整は困難なものになっている。国連は国際紛争の解決はできず。WTOや世界銀行が言う経済成長は、先進国に有利な経済成長でしかなかった。これまでも、アメリカとソ連は国際法に従わないことはたびたびあった。それが可能だったのは、言うまでもなくアメリカとソ連は超大国だったからである。今ここに新たに中国という超大国が出現し、国際法に従わないようになった。そうなると、もはや国際法は「法」としての機能を果たせなくなってしまった。

 アメリカは依然として世界最強の核攻撃力を持つ国であるが、そのアメリカの影響力が通じないようになった。もはや核兵器を持つことが、国際社会で強い影響力を持つことではなくなっている。さらに経済はグローバルにリンケージしているため、戦争をすると世界経済に膨大なダメージを与えるようになった。そう簡単に、戦争ができるようにはならなくなったのである。

 情報テクノロジーの進歩が、インターネットを出現させたことも大きい。いまや既存のメディアの管理にされない独立したメディアを、一般の個人やグループや市民が持つことができる。トランプにせよ、ルペンにせよ、あるいはイタリアの五つ星運動にしても、みなネットを積極的、戦略的に使用している。もともとアメリカの軍事テクノロジーとして誕生したインターネットを全人類に普及させようとした者たちの理念は、ネットにより人々が地球市民の意識を持つことであった。しかし、今日の現状は、過激な宗教集団や排他的ナショナリズムや民族主義者の団体の有効な情報ツールとして使われている。

 このままの状態が続けば、グローバリゼーション支持派や富裕層もまたブロック化するであろう。これからの国際社会は分断し、分断したままであろうとするであろう。しかし、分断状態ではどちらもやがて衰退していくであろう。

 以上をまとめると、アメリカンヘゲモニーの衰退とは、第二次世界大戦後の国際機関の衰退であり、それは第二次世界大戦後の国際秩序の崩壊であり、それは第二次世界大戦後の政治・社会哲学の衰退なのであった、ということである。この流れを否定することは、もはやできないであろう。しかしながら、これからの時代は、世界はブロック化するといっても、今の経済の実体はワールドワイドにリンケージされている。保護主義、自国第一主義で国を閉ざして、自国内部だけで完結した経済などできない。

 従って、ブロック化をするのならば、そうしたグローバルにリンケージされた経済が、いわば基盤のようなものとしてあり、その上でブロック化する、グローバリゼーションとローカリゼーションが多重構造化した政治・社会哲学の構築が必要なのであり、そうした観点で社会と経済を捉えることができる国際組織のようなものの設立が必要なのであろう。

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