金正男氏暗殺
「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄で、マレーシアで死亡したとされる金正男(ジョンナム)氏(45)について、韓国統一省報道官は15日、「政府は殺害されたのは確実だと判断している」と記者会見で述べた。情報機関、国家情報院は、正恩政権発足直後の2012年にも北朝鮮当局が本格的に正男氏の暗殺を企てたと明らかにした。米韓当局は、北朝鮮工作員による暗殺との見方を強めている。」
国家というものは、時に「国家のため」ということであればなんでもやる。その最たることが戦争であろう。
しかしながら、金正男氏に殺害しければならない程のなにものかがあったとはとても思えない。金正男氏が北朝鮮の体制を脅かしていたとか、金正恩の権力を奪うとかいった理由があったとは思えない。国家がある人物を計画的に殺害するということの国際社会の反発やイメージダウンのコストとリスクをかけても、やるべきことであったのかというと、とてもそのようには思えないのである。
ということは、どういうことかというと、北朝鮮という国は合理的な判断をする国ではないということだ。実際のところ、恒例化しているミサイル実験を見ても、とても合理的判断でやっているとは見えないのであるが、今回の金正男氏殺害は、北朝鮮というのはこういう国なのであるということが、さらに露呈したということだ。
このことで思い出すのが、全斗煥政権時代に起きた金大中の誘拐・暗殺未遂事件である。
1973年8月8日、韓国の政治家、民主活動家で、のちに大統領になる金大中が、韓国中央情報部(KCIA)により東京のホテルから拉致されて、軟禁されて船で連れ去られ、5日後にソウル市内の金大中自宅前で解放された事件である。当初の計画では、殺害して海に沈める計画であったが、アメリカからの圧力により中止された。
この時の全斗煥には、金大中をこの世から消したいという、いくばくかの理由があったと言えば言える。しかし、日経新聞によれば、今回の出来事は、朝鮮労働党委員長が「嫌いだ。除去しろ」と言うだけで殺害がなされたようである。
「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、マレーシアで殺害されたとみられる異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏について「嫌いだ。除去しろ」と述べ、殺害の実行命令が下ったことが分かった。韓国の情報機関、国家情報院(国情院)の当局者が明らかにした。殺害の手段を巡っては今まで使われたことがない強力な毒劇物が使われたとされ、遺体の口元には泡がついていたとの見方が出ている。」
日韓併合が終わった後、韓国にせよ北朝鮮にせよ、政権維持のために数多くの人々を殺害してきた。今の韓国は多少なりとも、そのことを客観的に振り返ることができるが、北朝鮮はそこまでになっていない。韓国がそうなってきたというのは、当然のことながら、そういう国では国際社会では通用しないということを、韓国は身をもって実感しているからである。
北朝鮮の問題は、ミサイルと称するものの実験がドウコウということではなく、権力者の個人的な一言で殺害をする国であるということだ。国際社会の常識的感覚では、こうした非合理な行動をする国があっては困るので、周囲の国々は、この国を排除しようとする。
しかし、北朝鮮の場合、あまりそうなっていない。北朝鮮の周囲の国々の中の最大の国が、中国であるからだ。中国もまた、北朝鮮以上に、権力維持のために、膨大な数の人々を殺害してきた。本来は、率先して北朝鮮を糾弾しなくてはならない国が、北朝鮮と似たようなタイプの国であるということに、今の東アジアの問題がある。
北朝鮮の政治体制は、ソ連と大日本帝国の政治体制をまねている。戦前の日本にあったある面が、今の北朝鮮にはある。カンタンに言えば、昔のこの国は、ああいう国でもあったのである。
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