トランプの大統領就任演説
20日のトランプの大統領就任演説について、ほとんどのメディアは国益最優先の姿勢を危惧し、「かつてない重大な脅威に国際秩序はさらされている」(産経新聞)という。
そこで、トランプの就任演説を聴いてみた。
保守思想から言えば、トランプが言っていることは間違っていない。トランプの大統領就任演説は、保守主義の思想では大統領就任演説はこうなるべきであるという「手本」のような演説であった(ただし、巨大な軍事力を持つというのは、保守思想ではない)。ようするに共和党とは、本来こういう政党なのである。さらに言えば、本来の建国時代以来のアメリカはこういう国だったのであり、国際秩序がどうこうということを言い始めたのは20世紀になってからであった。
問題であるのは、今は18世紀でもなく、19世紀でもないということだ。この就任演説のスピーチライターは、本気でこれが2017年の第45代アメリカ合衆国大統領の就任演説として通用するとは思って書いてはいないであろう。仕事なので書きましたということであったのではないかと思う。上に述べたように、保守思想本来の姿はこの通りなのであるが、それではとてもではないが今の時代の現実に合わないので、国際秩序がどうこうと言っているのが今の共和党なのである。
それは民主党も同じであり、共和党にせよ、民主党にせよ、やっていることはほとんど大差ないというのが「現実」の政治であった。
この「やっていることはほとんど大差ない」というのが、格差問題について「なにもしない」というということであった。実際のところ、政治は「なにもしない」わけではない。いろいろ、やっているのである。やっているのであるが、なにをやっても格差をなくすことができないという現状がある。この現状こそ、オバマが直面したことであり、オバマにはできなかったことであった。
その感情がトランプへの支持に変わっていってしまった。逆から言えば、ワシントンの政府が悪いと言えば一般大衆が熱狂的に支持するという状況を作り出してしまった。
トランプの大統領就任演説には、理解し難い空虚で愚かしい箇所がいくつもある。例えば、以下の箇所である。
"We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.
We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation."
アメリカに工場を作って、では労働者の賃金はどうなるのだろうか。メキシコ移民レベルの賃金の支払いでも良いというのであろうか。アメリカの賃金レートで支払うとなると、一般労働者が買える値段の製品ではなくなる。それこそ、さらに格差が広がるだけである。
"We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.We will seek friendship and goodwill with the nations of the world -but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first."
アメリカ製品を買えというが、純粋なメイド・イン・アメリカの製品が、どれだけあるのであるのかわかって言っているのであろうか。また、国際社会は自国の利益を第一にするというのは当然の前提であって、その前提の上に国際協調や国際秩序がある。それをわざわざ合衆国大統領の就任演説に言う、ようするに自国の利益第一主義を露骨に出すという、このレベルの低さはジョージ・W・ブッシュ以下であり、まだジョージ・W・ブッシュの方がましだった。
トランプの言っていることでは、中間層の格差はなくならない。トランプは、第二次世界大戦以後のアメリカの歴史の中で、始めて雇用の問題、格差問題をま正面から扱った大統領であった。しかしながら、この程度の人物しか、アメリカの国内問題を正面から扱う者がいないということに今のアメリカの不幸がある。「移民が悪い」「メキシコが悪い」「中国が悪い」「日本が悪い」とわるものを作り、指さすことで、一般大衆の支持を受ける。
だが、これから結果が表れる。トランプが大統領になった今、それでも格差はなくならない。
そして、アメリカがこうなったということの最大の問題は、他の国も追従するということだ。つまり、これから世界はこうなるということだ。
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