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December 2016

December 31, 2016

2016年を振り返る

 イギリスのEU離脱にせよ、アメリカの大統領選挙でのトランプの当選にせよ、この1年の国際社会は民意と国家や政治の間の分裂が大きく現れた1年であった。

 本来、民主主義の政治は民意の反映であることはタテマエであることは、これまでもわかっていたことだ。しかし、6月のイギリスのEU離脱や、11月アメリカの大統領選挙でのトランプの当選、あるいは12月の韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追などを見てもわかるように、民意と政治の間の隔たりがあまりにも大きくなり、有権者が国の政治に反対の票を投じたということである。

 その一方、今月も19日に、ドイツのベルリンの市場に大型トラックが突っ込んだテロ事件が起きた。テロをする側には、欧米のイスラムへの介入に遠い原因があるのかもしれないが、市民の側からすれば、自分たちに民意によって国がイスラムに介入してきたのではない。国の政策決定者たちが決めたことだ。市民からすれば、イスラムからテロを受ける理由はないのである。

 この1年を振り返ると、世界は加速度的に「悪い方」へ向かっていると思わざるを得ない。一部の特権階級、富裕層だけが利益を得る今の社会の姿はまったく改善されることはなく、格差は広がり続け、その反面、一般市民はテロの標的になるという、なんとも言えない閉塞感だけがある世界になってしまった。

 トランプ次期大統領のアメリカは、ますます停滞していくであろう。トランプの言っていることのほとんどは実行不可能なことであり、例えば「イスラム教徒の入国禁止」など不可能だ。核兵器の増強を言っているが、そんなお金はどこにもない。それでいて、法人税の引き下げや所得減税、相続税廃止などを言っているのだから矛盾している。来年は、アメリカの政治はますます混乱することになる。今回の大統領選挙で明らかになったように、もはや大手メディアは信頼できないものになっているので、混乱はさらに拍車がかかることになる。2016年は、パックス・アメリカーナが終わった年になるだろう。

 EU諸国でも右派の政治勢力はさらに伸びていくだろう。もともと、EUは「ヨーロッパ統合」という理念の上に成り立っている。その理念を誰も信じないようになれば、これは崩壊していく。そして、今起きているのは理念や理想といったものへの信頼や希望ではなく、国粋主義や排他主義といった感情と軍事力という力への確信である。

 アメリカやEUの低迷に対して、ロシアはこれまで以上に大きく台頭してくるであろう。特に欧米に変わり、ロシアの中東への介入にさらなる注目をしなくてはならない。そもそも、ロシアという国と中東は歴史的に深い関わりがある。ロシアはソビエトという枠が外れ、本来の帝政ロシアそのものに戻ろうとしている。ロシアは、国際関係における軍事力の優位性を今でも主張し実行している一方で、巧みな外交力も持つ国である。今後、ロシアの動きは重要である。

December 30, 2016

対米従属を突き進む日本

 今月行われた安倍総理とプーチン大統領の会談で、北方領土問題がなんの進展もしなかったどころか、逆に「領土問題はない」とプーチンに言われてしまったのは、つまるところ日本の対米従属に原因がある。日本に北方4島を返還した場合、アメリカが軍事目的に使用するのは明らかであり、当然、ロシア側はそういうことになっては困るため、なにがなんでも日本に渡さないのである。このように、安倍政権の対米従属さが、ロシアとの外交を足をひっぱたのが今回の日ロ首脳会談だった。

 27日の安倍総理の真珠湾訪問も、アメリカ国内からでも批判の声があったように、慰霊すべき相手はアメリカだけではない。この真珠湾訪問に対して、映画監督オリバー・ストーンや、プリンストン大学のリチャード・フォーク名誉教授、アメリカン大学の歴史学教授のピーター・カズニック、さらに日本の学者たちが、安倍総理宛てに歴史認識を問いただす公開質問状を発表している。

 歴史的に言えば、この公開質問状の内容はまったく正しいものであり、そもそも、戦争行為であった真珠湾攻撃で亡くなった人々を「慰霊」するというのはわけがわからない。合衆国の軍人は、べつに日本の総理大臣に「慰霊」してもらうために日本と戦って亡くなったのではない。しかしながら、今回の真珠湾でのセレモニーは歴史への対応ではなく、政治ショーであり、まっとうな歴史認識で言えば、公開質問状の言っていることは正しいのであるが、安倍総理の真珠湾訪問は政治ショーであるので、歴史認識などと言うものはどうでも良いのであろう。

 公開質問状は、その中で「それなら、中国や、朝鮮半島、他のアジア太平洋諸国、他の連合国における数千万にも上る戦争被害者の「慰霊」にも行く予定はありますか。」と書いているが、安倍晋三氏には、そんな意識はまったくないであろう。安倍総理は、アメリカには「慰霊」をし、アメリカと和解をしている、日米関係は強固になっていると思い込みたい、ただ、それだけの理由で真珠湾を訪問したのである。同様の「慰霊」を、二百三高地や奉天や日本海海戦の海上でプーチンとともに行うことや、重慶や南京で習近平と一緒にやることなど、安倍晋三氏にはできない相談なのである。

 なぜこうなのか。

 戦後70年間の対米従属に変わる新しい国際社会の認識を、今だこの国は持てていないのである。


December 24, 2016

それでも、ボーダーレス・ワールドは続いていく

 以前、サンフランシスコにいた時、テレビでワシントンのニュースなどを見ていると、合衆国大統領とかワシントンDCとかは、どこか遠い国の話のように思えてならなかった。

 当然のことであるが、なによりもまずカルフォルニアは広大な北アメリカ大陸の西海岸であり、大統領がどうしたこうしたとかやっているのは、反対側の東海岸の話である。同じアメリカ合衆国であっても、サンフランシスコはアジア系の人たちが数多くいて、東海岸の都市とはまったく違う。

 もうひとつの点として、アメリカのIT業界は、グローバル・ワールドを相手にしていて、サンフランシスコというアメリカのひとつの都市にいたとしても、世界の情報にアクセスできるという感覚がある。アメリカは世界覇権国であったとしても、数多くのある世界の国々のひとつであり、世界はアメリカ以外の数多くの国々で成りたっていることを知っているのがIT業界である。

 そして、これはITや金融業界に限ったことではなく、21世紀の今、ボーダーレス経済で動いている業界は、アメリカの大統領がトランプになろうが誰がなろうが関係はない。というか、アメリカの政治家のいうことなど、まったく影響がないのだ。情報技術と交通が全地球を覆う流れは、これからも変わることはない。

 もちろん、国家が権力を持って企業の行動に介入することはできる。トランプは、外国に工場が移転することを阻止しようとしているが、生産の場を国内より低コストでできる場所に移し、そこで生産した商品を国内で販売することにより低価格で消費者に提供するというビジネス・モデルは間違ったことではない。国内生産を続けることで、結果的に商品の価格が高くなり、それを買わなくてはならなくなるのは消費者なのである。アップルは、なにも中国の労働者の雇用の場を作るために、iPhoneを中国で生産をしているのではない。iPhoneの販売価格を下げるために、中国に工場を置いているのである。

 今の時代は、保護主義が国内の消費者のためになる時代ではないのである。少なくとも、解決策は、企業が工業を外国に移転させることをやめさせたり、高い関税をかけるようにすることはないことは明らかだ。そうしたことは、すべて国内の消費者に負担として返ってくるのだ。

 であるのならば、ではどうしたらいいのか。これを考える方向にならなくては、アメリカ国内の白人中産階級層の現状は変わらないのである。しかし、現状を見ると、そうした方向性はまだ出てきていない。トランプが大統領になって、どうにかしてくれるだろう期待があるのであろう。

 だが、世界の心ある人々は、トランプでは良くなるどころか、ますます悪くなるということを知っている。トランプがなにを言おうとも、それでも、ボーダーレス・ワールドは続いていくのだ。つまり、今、ここに歴然として存在しているボーダーレス・ワールドを見ないふりをして否定するのではなく、ボーダーレス・ワールドがあることを前提として、その上で、どうするのかを考えることが必要なのである。

December 14, 2016

嫌韓について

 前回、韓国について、権力に癒着し、自分への利益誘導をはかり、横領する、賄賂を受け取る、いわゆる汚職というものが韓国ではいわば「常識」と言ってもいい程、社会に定着していると書いた。

 今日至るまで、日本人が朝鮮という国について、ある種の(強いコトバで言えば)嫌悪感というものを感じるのは、あるいはこの点にあるのではないだろうか。この「常識」について、日本人はついていけない。勝手が違うので、とまどうのである。時に、疲れる。はやりのコトバで言えば、うざいのである。

 しかしながら、である。

 我々、日本人、イルボンサラムは、これを「悪いこと」と感じるが、朝鮮においてはそうではない。

 例えば、横領ということひとつをとってみても、横領するのが当たり前であり、横領することを前提として、カネの受領が行われる文化なり、体制なりの社会では、横領は悪でもなんでもない。または、一族の中のある者が高級官吏になる、会社の役職になる。その親族たちは、その者から利権を得ようとする。これは儒教社会では「当然」のことであり、それが儒教社会というものなのである。

 そんなバカな話はない。そんなものは儒教ではない、と思うのが、我々、日本人、イルボンサラムなのである。我々、日本文化における儒教理解は、書物を通してのみであり、朝鮮文化におけるそれとは根本的にレベルが異なる。

 日本でも、奈良、平安時代の律令体制の時代はそうであった。公家社会では、汚職や横領が「当然」の世の中であった。ところが、12世紀になって、そういった公家とはまったく異質の連中が日本全土を支配するようになった。鎌倉武士団による鎌倉幕府の出現である。ここで日本史は、中国・朝鮮の儒教社会とは別の歴史を歩み始める。

 さらに下って江戸期の封建社会になると、汚職や横領は「悪いこと」であるとする文化が確立したと言ってもいい。つまり、武士は社会の統治者であり施政者なのであるが、貧乏なのである。これを他のアジア人が見ると、なぜ横領しないのかと理解できないであろう。何度も言うが、横領が可能な者が横領をするのは「当然のこと」であるとする体制なりシステムなりの社会に暮らす人々では、横領は「悪いこと」ではない。

 もちろん、日本にも汚職や横領はある。しかし、タテマエ上において、それらのことは「悪いこと」であるとする文化の上に日本人の価値観は成り立っている。そうなったのは、鎌倉時代以降の武家の倫理が、江戸時代を経て日本全体に染み渡るように広がり、日本人の意識の底に今なお留まっているからである。

 朝鮮には、これがない。中国にもない。というか、アジアの他の国のどこにも、こういう汚職や横領を悪とする文化はない。さらに地理的範囲を広げてみると、ロシアにも中東にもアフリカにもないように思う。唯一思うのが、キリスト教の倫理観を持つ西ヨーロッパ諸国ぐらいであろう。そう考えてみると、韓国の人々は、人類社会に普遍的なことをやってるだけのことであり、それに嫌悪感を感じる我々、日本人は「特殊」なのである。

 だから、韓国社会のアジア的な「常識」は「正しい」のだとか、だから、日本は優れていて、朝鮮はダメだと言っているのではない。我々、日本人は、他のアジアの人々を見るとき、無意識に、人類の諸文化、価値観の中で極めて特殊な、日本にしかない武家社会の文化のバイアスをもって見ているということを忘れてはならないということを言いたいのだ。

 朴槿恵大統領の弾劾に揺れる隣国を見ながら、ふと、以上のようなことを思った。

 では、朴槿恵大統領の弾劾を求める韓国の国民のみなさんは、何に対して怒っているのかというのは、また別の話である。

December 10, 2016

朴槿恵大統領の弾劾が可決された

 9日の産経新聞はこう書いている。

「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人で女性実業家、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入事件に絡み、国会本会議で9日、朴氏に対する弾劾訴追案が野党側などの賛成多数で可決された。憲法裁判所が最長180日間の審理に入り、判断が出るまで朴氏の大統領権限は停止され、黄教安(ファン・ギョアン)首相が職務を代行する。国政混乱の長期化は決定的となった。」

 次は、憲法裁判所が180日以内にこの弾劾が憲法上、妥当なものであるかどうかを決定することになる。

 今日の毎日新聞によると、朴大統領弾劾案の骨子は次の通りである。

「・崔順実被告らに機密資料を提供し国政介入を許し、憲法の国民主権、代議制民主主義などに違反
・大統領府、文化体育観光省の幹部に崔被告らが推薦する人物らを任命し、公務員任命権を乱用
・企業に資金根拠を強要し財産権を侵害。拠出資金は賄賂に該当
・セウォル号沈没事故当日、積極的措置を取らず、国民の生命を守る義務に違反」

 上記の内、最後のセウォル号沈没事故への対応はともかくとして、上の3つは、多かれ少なかれ、韓国の社会ではある種「常識的な」ことである。もちろん、正しいことではないが、これをもって韓国の大統領を罷免させられるというのはいかがなものであろうかと思う。国家の指導者たるものは、これらのことがあってはならないとするのならば、今の韓国で誰が次の指導者たり得るのであろうか。次の政権はこうしたことが一切のない政権になり得るというのであろうか。

 崔順実の国政介入を許したというが、それでは崔順実が日本や中国やロシアやアメリカなどとの関係交渉や韓国の国家安全保証に関わったというのであろうか。自分が関係する企業への利益誘導や賄賂や資金横領、対抗勢力への政治圧力、娘の大学不正入学、等々のことをおもって「国政に介入した」というのはいかがなものであろうか。崔順実は、朴大統領との長年の交友関係を使って、私腹を肥やしてきたアジュンマ(おばさん)でしかない。

 ようするに、国民の怒りがある。

 潜在的にあった朴大統領への不満が、今回の崔順実の一件で表面化したと言えるだろう。また政治的に言えば、父親、朴正煕大統領への恨みを持ち、娘が大統領であることに反感を持つグループも少なくはなかった。今の日本がことあるごとに持ち出してくる、賠償や慰安婦問題は日韓基本条約で決着しているというコトバの、その日韓基本条約を批准したのは朴正煕大統領である。朴正煕が行った全ての「悪行」を朴槿恵は背負わされている。そうした勢力に対処するためにも、より一層の身辺の整理が必要であった。

 9日の韓国の朝鮮日報は「「市民革命だ」朴大統領弾劾可決に多くの国民が歓迎」とし、こう書いている。

「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾案が9日の国会本会議で可決されたことを受け、多くの市民団体や市民らは一斉に歓迎の意を示した。

朴大統領の退陣を求める週末の大規模集会を主催してきた「朴槿恵政権退陣非常国民行動(退陣行動)」は直ちに立場表明を行い、「韓国の国民が誇らしい。弾劾案の可決は広場の偉大なろうそくが成し遂げた成果」と評価した。」

 全斗煥の第五共和国、さらに言えば日本による統治が終わった後の長い軍政時代を終わらせたのは、確かに民主化を求める国民の意思であった。しかし、今、起きていることは、あの時の国民の意思表示とは違うもののように感じる。

 1987年6月の民主化宣言以後、1988年から韓国で始まる第六共和国の国家指導者たち、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博、そして朴槿恵の中で、盧武鉉の時代から、さらに、よりはっきりとしているのは李明博の時代から、韓国の国民感情は変わっている。もともと、保守派の朴槿恵は格差の拡大や財閥・大企業優先の社会を変えることができない進歩派の李明博に対抗するかたちで国民から大統領に選ばれた。それが、結局、なに一つ変わっていないことへのいらだちと怒りがある。

 この朴大統領を弾劾に追い込んだ国民感情が、これからの韓国を造る現れになるのであろうか。

December 04, 2016

トランプのアジア

 昨日、トランプはアジアのことなど関心がないという意味のことを書いた。

 その後、トランプ次期米大統領と台湾の蔡英文総統と電話で協議したというニュースが飛び込んできた。今朝の産経新聞は、習氏はメンツをつぶされたと大喜びである。

「習氏は米大統領に当選したトランプ氏への祝電で、米中両国が「衝突や対抗をせず相互尊重する」ことを呼びかけ、トランプ氏との初の電話協議でも「協力こそが両国にとって唯一の正しい選択」と強調していた。今回の電話協議は習氏のメンツをつぶすものだ。」

 しかしながら、かつて、ソ連と並ぶ、世界の覇権国であったアメリカ、アイゼンハワーかケネディの頃のアメリカであれば、台湾の総統と「合う」ということは国際政治において大きな意味をもっていたであろうが(実際のところ、アメリカにとって大陸中国と台湾の問題が大きくなったのは、アイゼンハワーやケネディの時代ではなく、ニクソンの時代からであるが)、この時代では、トランプと台湾の総統が電話で会話をしたというのは、アメリカの軍事産業のお得様である台湾の総統がアメリカの次期大統領と電話で会話をしたという程度のことでしかなく、大騒ぎすることではない。

 これは、大陸中国のいう「ひとつの中国」へのゆさぶりでも何でもない。そんな政治的意味などまったくない。米中関係に影響を及ぼすことでもなんでもない。このことをもって、すわ、アメリカは台湾の「独立」を支持すると思うのは間違いであり、アメリカには台湾の「独立」を支援(して、大陸中国との関係を悪化させることに)するつもりはまったくない。

 トランプのアメリカがTPPから離脱すれば、アジアの各国は中国につく。つまり、誰が一番利益を得るのかといえば、いうまでもなく中国であり、誰が一番不利益を得るのか言えば、TPPに固執する日本である。

 トランプのアメリカは、アジアにおけるアメリカの利権を脅かすことをしない限り、中国がなにをやってもかまわないというのがトランプのスタンスである。つまり、台湾の総統と電話をしたドウコウということは表面的なことであって、その本質はアメリカは(結果的に)中国の台頭を妨げることをしないということだ。

 これがこの先、何を意味することになるのか、ということを考えなくてはならない。

 重要なことは、この状況がこれから起こるとなると、、この先、中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)にアメリカが参加したり、中国の国際インフラ投資計画である「一帯一路」にアメリカが協力したりすることが起こり得るだろうかということである。さらに言えば、国連の平和維持軍の主導国からアメリカは降りて、中国が担当することになることが起こり得るだろうかということである。これらが実際に起きたら、本当に国際社会の秩序が変わることになる。

 これらは十分起こり得るということを前提として、これからの中国について考えていかなくてはならない。

 AIIBにせよ、「一帯一路」計画にせよ、その実体はとても話にならないレベルのことが数多く、今の中国のノウハウや技術では、とてもこうしたことができていないのが実情である。しかしながら、中国は日々進歩していることも忘れてはならない。トランプの顧問からは、オバマ政権でアメリカがAIIBに不参加したことは間違っていたという声はすでに挙がっている。

December 03, 2016

トランプの対アジア政策

 アメリカのトランプ次期政権は、国防長官にジェームズ・マティス元中央軍司令官、国家安全保障問題担当の大統領補佐官にマイケル・フリン元国防情報局長を起用するという。この人事について、産経新聞はこう書いている。

「軍事経験が豊富な元将官を起用されたことで、タカ派色が色濃く表れた形だ。オバマ政権から次期政権に持ち越されるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の掃討を強化する明確な意思の反映だとみられている。」

 「イスラム国」(IS)については掃討しようとしているとして、では中国については、トランプはどうするのであろうか。

 大ざっぱに言えば、アメリカは今だかつて中国について「よくわからない」国なのである。これは、ソビエト・ロシアについても同じことが言える。アメリカという国は、ヨーロッパから移民してきた人々が建国した国であるためか、ユーラシア大陸のウラル山脈以東のことについては理解するフレームを持つことが不得意な国なのである。 
第二次世界大戦以後のソビエトについても「よくわからない」から「敵」として扱ってきた。

 中国についても「よくわからない」ので、基本的に商売相手として扱うだけであり、それ以上、それ以下でもない。ようするに、アメリカの連邦政府や議会は、アジアが絡むととたんに「わからない」状態になり、本質を見ようとせず「商売相手」(中国)とか、「家来」(日本や韓国のことだ)とか、「やっかいもの」(ドゥテルテのフィリピン)とかいった見方、考え方しかできない国なのである。

 さらに言えば、これは中近東に対してもそうであり、アラブやイスラムといったものがからんでくると同じだ。基本的に「オリエンタリズム」でひとくくりにくくるしかできないのである。

 しかしながら、そうはいってもアメリカにとって石油資源がある中東は無視することができない場所である。だからこそ、アメリカは中東に介入し続けてきた。トランプの選挙公約のひとつに、「イスラム国(IS)」に徹底的に軍事対抗するというものがある。今回の人事も、アメリカはこれからも中東に軍事的に介入し続けるということを表している。

 その反面というか、対象的な場所になっているのが、アジアである。アメリカにとって、アジアはビジネスの対象であり、それ以外は「どうでもいい」という状態がこれからも続くであろう。

 トランプの中国政策は、これまで以上にビジネスに特化した関係になるだろう。トランプには、中国の国内の環境破壊とか、人権弾圧とか、言論封殺とか、少数民族への圧力とかいったことには関心はない。アメリカ国内のインフラ整備に、積極的に中国のマネーや中国企業を使ったり、貿易交渉で、アメリカに有利な条件を認めてくれるのならば、中国のアジア覇権になにも言わないかのような取り決めをする可能性は高い。トランプのアメリカは、アメリカ一国の利益しか見ない(ちなみに、ロシアについても中国と同様の「商売相手」に変わるだろう)。

 結局、アジアのことは、アジアでやらなくてはならないのだ。勃興する中国に対抗するのは、大陸中国の周囲の国々がやらなくてはならない。何人もの人々が述べているように、トランプのアメリカの時代において、日本は独自の外交がしやすくなる。日本は外交をもって、東アジアの主導国の位置を占めることができる。

 ただし、それは、このブログで私が何度も述べているように、この国に、アメリカ依存ではない独自外交を実行できる手腕があるのならばの話である。そして、そうしたものがまったくないのが、この国である。かくて、トランプのアメリカの時代において、中国はますます台頭するであろう。

 この国は、自国にそうした力がないことをよく知っているから、ひたすら対米従属に依存しようとしている。しかしながら、対米従属をする国の言うことなど、アジアのどの国が信頼するであろうか。対米従属であるから、自分で物事を行う力が持てなくなっている。この悪の循環を断ち切らなくてはならない。これが、本当の意味での戦後日本からの脱却なのである。

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