2016年を振り返る
イギリスのEU離脱にせよ、アメリカの大統領選挙でのトランプの当選にせよ、この1年の国際社会は民意と国家や政治の間の分裂が大きく現れた1年であった。
本来、民主主義の政治は民意の反映であることはタテマエであることは、これまでもわかっていたことだ。しかし、6月のイギリスのEU離脱や、11月アメリカの大統領選挙でのトランプの当選、あるいは12月の韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追などを見てもわかるように、民意と政治の間の隔たりがあまりにも大きくなり、有権者が国の政治に反対の票を投じたということである。
その一方、今月も19日に、ドイツのベルリンの市場に大型トラックが突っ込んだテロ事件が起きた。テロをする側には、欧米のイスラムへの介入に遠い原因があるのかもしれないが、市民の側からすれば、自分たちに民意によって国がイスラムに介入してきたのではない。国の政策決定者たちが決めたことだ。市民からすれば、イスラムからテロを受ける理由はないのである。
この1年を振り返ると、世界は加速度的に「悪い方」へ向かっていると思わざるを得ない。一部の特権階級、富裕層だけが利益を得る今の社会の姿はまったく改善されることはなく、格差は広がり続け、その反面、一般市民はテロの標的になるという、なんとも言えない閉塞感だけがある世界になってしまった。
トランプ次期大統領のアメリカは、ますます停滞していくであろう。トランプの言っていることのほとんどは実行不可能なことであり、例えば「イスラム教徒の入国禁止」など不可能だ。核兵器の増強を言っているが、そんなお金はどこにもない。それでいて、法人税の引き下げや所得減税、相続税廃止などを言っているのだから矛盾している。来年は、アメリカの政治はますます混乱することになる。今回の大統領選挙で明らかになったように、もはや大手メディアは信頼できないものになっているので、混乱はさらに拍車がかかることになる。2016年は、パックス・アメリカーナが終わった年になるだろう。
EU諸国でも右派の政治勢力はさらに伸びていくだろう。もともと、EUは「ヨーロッパ統合」という理念の上に成り立っている。その理念を誰も信じないようになれば、これは崩壊していく。そして、今起きているのは理念や理想といったものへの信頼や希望ではなく、国粋主義や排他主義といった感情と軍事力という力への確信である。
アメリカやEUの低迷に対して、ロシアはこれまで以上に大きく台頭してくるであろう。特に欧米に変わり、ロシアの中東への介入にさらなる注目をしなくてはならない。そもそも、ロシアという国と中東は歴史的に深い関わりがある。ロシアはソビエトという枠が外れ、本来の帝政ロシアそのものに戻ろうとしている。ロシアは、国際関係における軍事力の優位性を今でも主張し実行している一方で、巧みな外交力も持つ国である。今後、ロシアの動きは重要である。
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