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November 2016

November 27, 2016

朴槿恵の退陣デモ

 近所のTSUTAYAで、韓国のテレビドラマ『第五共和国』のレンタルDVDを借りてまた見ている。『第五共和国』は、韓国の第五共和国の時代、つまり全斗煥政権の誕生と終末までを史実をもとにしてドラマ化した番組である。

 このドラマは数年前に見ていた。全斗煥政権は、1980年から88年に至る。この時代は、私の高校、大学の頃になる。あの頃、隣の韓国ではこんなことがあったのかと思ったものである。

 その後、数年たって、それなりに韓国現代史についての知識を得て、今回改めてこの政治ドラマを見てみると、全斗煥とその支持グループによる政権の簒奪の手段が実に見事で、よくもまあこれほど考えることができたものだと関心する。全斗煥が政治の実権を握る1979年12月12日に始まるクーデター事件、いわゆる「粛軍クーデター」は朴正煕が政権をとった「5・16軍事クーデター」から多くを学んでいる。

 政権簒奪だけではなく、いわば全斗煥の軍人政府がやったことは、同じ軍人政府の大統領であり、全斗煥が若手将校であった時から、彼を将来の側近として育てていた朴正煕がやったことから学んでいる。全斗煥は、朴正煕の劣化コピーのようなものであった。

 李承晩の第一共和国から全斗煥の第五共和国までの軍人政府だった時代、人権運動や民主主義運動はすさまじく弾圧された。今の韓国の民主主義は、そうした先人たちの累々たる死の上に成り立っており、戦後、GHQから民主主義を与えられた日本とは比べものにはならない程、韓国の民主主義は重い。

 この韓国の民主主義の現在として、今の朴槿恵大統領の退陣デモがある。

 産経新聞はこう書いている。

「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人で女性実業家、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入事件で、朴氏の退陣を求める大規模集会が26日、ソウルなど全国で行われた。5週目となる今回、主催者側は全国で190万人、警察は32万人が参加したと推計。12日のデモを上回り、最大規模となった。」

 なぜ、朴槿恵大統領退陣デモで、これほど盛り上がるのであろうか。

 崔順実への機密漏洩疑惑にせよ、セウォル号沈没事故での政府の対応のまずさにせよ、こうしたことは韓国では「よくある話」ではないのだろうか。権力を私物化したり、要職に縁故で採用することは、正直に言って隣国のイルボニンから見ると、韓国社会のどこにでもあることである。これらをもって大統領が弾劾されるというのはまったく理解できない。

 機密漏洩疑惑や沈没事故での政府対応についてなど、父親の朴正煕であれば即座にもみ消し、その後、誰からも非難されることはなかったであろう。それだけの政治手腕を、朴正煕は持っていた。娘の朴槿恵には、それがないということなのである。

 もちろん、そうした慣習はいいか悪いかで言えば、悪いことであり、そうしたことはなくさなければならない。しかしながら、それと朴大統領の退陣とどうかかわるのであろうか。仮に朴槿恵を大統領職から退陣させたとしても、それらの悪慣習は韓国の社会からなくなることはない。大統領に取り入り、癒着して財をなした人々は崔一族だけではない。

 実際のところ、今の韓国にはデモをやっている暇などないはずだ。

 中国との関係、北朝鮮への対策、アメリカのトランプ政権への対応、これらをこれから一体どうするのかさっぱり見えてこない。スマホ企業の世界ランキング第二位だったサムスンが脱落するなど、今、韓国経済は大きな転換期を迎えている。財閥中心ではない新しい経済はどのようなものであるべきなのか。そうした考えなくてはならないこと、やらなくてはならないことが山のようにあるのだ。しかしながら、朴槿恵退陣の声に、これからの韓国の方向のようなものはない。

 今の韓国では、日本統治時代に生まれ育ち、独立後の韓国を指導していった世代、独立後の韓国で「漢江の奇跡」を成し遂げ、今日の豊かな社会を築き上げた世代、そうした世代の時代は終わろうとしている。豊かな韓国社会に生まれ育った世代が、これからの韓国を造っていかなくてはならない。しかしながら、彼らから新しい韓国がさっぱり見えてこないのである。

November 20, 2016

アメリカの本当の危機

 毎日新聞に、トランプがアメリカの大統領になることによる影響について各界の識者にインタービューをする連載コラムで、アメリカの政治学者イアン・ブレマー氏へのインタビュー記事が載っていた。

 ブレマー氏はこう語る。

「ドナルド・トランプ氏の勝利は「パックス・アメリカーナ」(米国の支配による平和)の終焉(しゅうえん)を意味する。この時代は今後、歴史教科書に「1945年に始まり2016年に終結」と書かれるだろう。世界に指導的な国が存在しない「Gゼロ」の時代の始まりが決定的になった。」

 そして、こう語っている。

「次期大統領は、世界に米国の価値観を広めて公共財を提供することや「民主主義の旗手」「世界の警察官」であることに関心がない。外交は単独行動主義で、同盟国との関係はビジネスのような取引となる。米国は軍事力や経済力だけではなく、日本や欧州などと共有する価値観を通じ、重層的に世界秩序を守ってきたが、これが大きく変わる。」

 ブレマー氏が著書で書いているように、また私がこのブログで何度も書いているように、アメリカの衰退は今回トランプが次期大統領に決定したからではなく、ブッシュ政権の時代から始まっていた。

 アメリカは革命国家である。革命とは、「コレコレであるのが正しい」という主義・思想の上に成り立っている。アメリカの場合、その主義・思想とは言うまでもなく「普遍的に人類にとって自由主義と民主主義が正しい」というものであり「自由主義と民主主義でなくてはならない」というものである。この主義・思想をもって、アメリカは独立戦争に勝利し、独立宣言と合衆国憲法を高々と掲げた国である。ここで強調したいことは、この主義・思想とは、アメリカという一つの国だけの話ではなく、広く普遍的に人類はこうでなくてはならないという主義・思想であるということだ。

 よって、独立した革命国家であるアメリカが、次に行ったことは、この主義・思想を広く人類社会全般に広げるということであった。ちなみに、革命によってできた国家は、多かれ少なかれ、次にやることはその革命思想を他の国々に広げようとする。ソ連もまた革命国家であり、その革命思想を広く人類全体に広げようとした。広げようとする側は、「人類はコレコレであるのが正しい」という主義・思想を他国へ伝えることは正義の行為であると確信しているが、広められる側からすれば迷惑以外のなにものでもないものであった。

 アメリカはその国土があまりにも広いため、ひとつの国としてまとまるようになったのは、19世紀の終わりの頃であった。この時代にアメリカが遭遇したことは、第一世界大戦の勃発とこれによって疲弊したヨーロッパであり、次に遭遇したのが(というか自ら主役になったのが)第二次世界大戦であった。第二次世界大戦の世界は紛れもなくヘンリー・ルースが言った「アメリカの世紀」であり、20世紀末のソ連の崩壊後は「パックス・アメリカーナ」(米国の支配による平和)の時代であった。

 なぜ、こうした「アメリカの世紀」あるいは「パックス・アメリカーナ」と呼ばれる世界が成り立ち得たのかというと、アメリカには「普遍的に人類にとって自由主義と民主主義が正しい」「自由主義と民主主義でなくてはならない」という主義・思想を世界に広げようというイデオロギーがその根底にあったからである。

 つまりは、銭カネの話ではなかったからだ。銭カネ勘定ではなく、いわば採算を度外視しても、アメリカの主義・思想を人類全体に広げたいというマニフェスト・デスティニーがあったからである。アメリカのリベラリズムには、多かれ少なかれこの主義・思想がある。

 ただし、と、ここで、ただしがつく。アメリカがこのアメリカ革命の主義・思想を、時には行き過ぎと思える程、他の国々に対して過剰に行使することができたのは、この主義・思想が「正しい」からではなく、アメリカには、これを可能にする巨大な経済力があったからである。そして、採算を度外視してもやるということをやっている以上、やがて経済は破綻することは目に見えることである。かくして、ブレマーが言うように「パックス・アメリカーナ」は終焉した。

 もちろん、アメリカの経済は成長し続けている。しかし、重要なことは、経済の成長が、アメリカ市民の大多数の経済の成長ではなく、一部の富裕層のみの成長になっているということである。格差社会が続いていくことは、アメリカの将来に大きな影をさすことになることは、これもまたブッシュ政権あたりから、ロバート・ライシュなど一部の経済学者たちが言っていたことだ。

 なぜ、中間層の収入が低下し続けてきたのかということについて、もっと考えるべきことは数多くのあるのであるが、不法移民のせいであるとか、外国に工場を置くからとかと話を単純化させ、では富裕層の税金を上げればいい、不法移民を追い出せばいい、中国にではなくアメリカ国内に工場を戻せばいいということで解決することではない。

 アメリカの有権者たちは、アメリカの衰退を、トランプが解消してくれる。アメリカは再び、偉大な国になる。中西部、南部の中間層の政治不信を正してくれる、ということを望んでトランプに投票したわけであるが、ではトランプ大統領になって、アメリカの衰退が止まるのかというと止まるものではない。

 なぜ、ポピュリズムではいけないのか。重要なのは、トランプが大統領になっても、今のアメリカが抱えている諸問題の本質的なことはなにも変わらないということだ。財政赤字が解決するわけもなく、格差社会がなくなるわけではない。なにも解決しないのに、あたかも解決するかのような気分になるのが、トランプ現象の実体なのである。

 そして、一番いけないのは、この「なにも解決しないのに、あたかも解決するかのような気分になる」ということであり、アメリカの再生のために、本当にやらなくてはならないことは一向に行われないままになっている。これこそ民主主義が思考を停止した状態になっているということであり、これが今のアメリカの危機的な状況なのである。

November 16, 2016

もし日本が大陸と地続きになったとする

 もし仮に日本が、今、突然に、大陸から海に隔てられた列島ではなく、朝鮮半島や中国大陸と地続きになったとする。

 日本列島がユーラシア大陸と地続きになるなどということは、突然、日本列島が海洋プレートもろとも海溝に沈没するということ以上にあり得ないない話なのであるが、そこんことを完全に無視にして、仮にそうなったとする。

 もちろん、こんなことが起これば大地震なり大津波なりが起こるであろうが、そうした災害もまったくなかったとする。今の日本の社会がそのままの状態で、ある日、大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国と中華人民共和国と地続きになったとしよう。

 当然のことながら、韓国・北朝鮮や中国から、経済先進国である日本に職を求めて、不法な移民を試みる人々が出てくるであろう。それら不法移民のみなさんが、日本人の職を奪い、日本社会の中で集団で生活をし始めるようになってきたとしよう。

 この時、私が言っているような、韓半島も中国も香港も台湾もシンガポールも「ひとつの経済圏」であるかのように考え、行動していきましょうという、戦前のアジア主義みたいなことを聴いて、ああ、まったくその通りであると思う人々はどれだけいるであろうか。

 例えば、自分たちが勤めていた液晶テレビの家電メーカーが台湾の企業に買収され、工場がそっくりそのまま中国に移転してしまった、となった時、不法に移民してくる彼らを見てどう思うであろうか。彼らに対して、良好な社会感情を持つことは難しいであろう。

 その昔、この国には大陸や朝鮮半島、南の海洋の島々などから数多くの人々がやってきて、居住し、生活を営んできた。そうした人々が持ってきた知識や技術などが、この国、全体の文化として形作られていった。歴史的なタイムスパンで見れば、全ての日本人は日本列島にやってきた移民たちの末裔である。さらに言えば、日本人云々の話ではなく、世界の各地の人類の誰もが、遙かな過去、アフリカの大地に住んでいたヒトの末裔であり、移民だったのである。その地に根を下ろした時期の遅かったか早かったかの違いでしかない。

 ただし、それは今だこの地球上に、未開拓の山林や荒野が延々と続いていた頃の話である。この国について言えば、少なくとも、17世紀の江戸時代の頃から、外国から人々が集団でラクに入ってこれる世の中ではなくなった。今の日本人が集団として持っている異民族への嫌悪感は、彼らが自分たちの生活圏である「日本国」に入ってきて欲しくないという感情が含まれている。これはある意味、やむを得ないことである。

 しかしながら、とも思う。

 不法移民をしてくる者たちを嫌い、排除し、彼らを自国に押し戻すことでは、この問題の本質的な解決にはならない。ここに「日本」という確固たる境界線でくくられた領土があり、その領土に入ってくる不法外国人連中を、その外に出す、これのどこが間違っているのかと言えば、その確固たる境界線でくくられた領土を持つ「日本」という国家そのものが、この先、未来永劫、「日本」という確立した先進国の国家共同体であり続けられるという保証は、どこにもないからである。

 栄枯盛衰を繰り返す国は、隣国の国々と「助け合う」関係を持とうとする。なぜならば、いつ自分の国が、隣国の援助を必要とする状態になるかわからないからだ。また、 不法移民をしてくる側も、誰も好きこのんで他人の国に不法に来て働いているわけではない。彼らを排除すれば、それで問題が解決するわけではない。

 国家の「強さ」とは、いかに数多くの国々と良好な関係を持っているかということも含まれる。今の日本の国としての「弱さ」とは、隣国の韓国、中国、ロシアと強固な信頼関係を築いていないということであり、東の太平洋の向こう側のアメリカ一国としか関係がないということだ。

 日本人がこの国が「日本」であり続けることができると思っているのは、この国が列島の島国であるからである。列島であるという地理的条件を持っているからであり、この条件がなくなれば、この国は「日本」であり続けるという前提は消滅する。トランプはアメリカとメキシコの境界に壁を造るとしているが、日本は、いわば古来から海が壁の役割を果たしてきたようなものであった。

 日本が排他主義であることができるのは、列島の上に国を持っているという好条件があるからである。列島というカプセルがあるので、危なくなったらいつでもこのカプセルのな中に閉じこもることができたのである。また、アメリカについて言えば、トランプが言うような「アメリカ・ファースト主義」を言うことができるのは、アメリカは他国の援助を受けるような状態になったことは、独立戦争以後は、歴史上かつてなかったからである。

 では、これらの条件をなくしたら、どうなるのであろうか。

 交通と情報テクノロジーの発達とは、つまりは、日本にとっては、列島という地理的な条件が「なくなる」ということであったのだ。本来、グローバリゼーションの時代の「社会」とか「共同体」とか「日本国」とかは、こうしたことも考えなくてはならないはずであった。しかしながら、そうした議論が出ることもなく21世紀の今日に至ってしまった。

November 12, 2016

トランプが大統領になった

 この世の中は、大多数の人々で成り立っている。例えば、戦後の日本人がまったくといっていい程、中国や朝鮮(韓国・北朝鮮)に無関心であるのは、その背後に構造的な理由があるにせよ、間違っていることであると私は思っているが、大多数の人々がそうである以上、間違っていることであるにせよ、そうカンタンには変わることはない。つまり、国家とは、その国を構成する大多数の人々の認識や能力以上にはならないのである。

 アメリカ合衆国にも、同様のことが言える。今回の大統領選挙で、アメリカのメディアのほとんどすべては、最後までヒラリーが勝つことを信じて疑わなかった。ところが、トランプ勝利となったので、ワシントンの政界は大騒ぎになっている。中間層の怒りがトランプをワシントンに送った。次は、中間層からの支持の応えることをしなくてはならない。これが何になるのか。アメリカの政界と経済界は、トランプの出方を見ている。

 トランプが勝利したのは、当然のことながらトランプを支持する人が多いからである。であるのならば、民主主義であるのだから、トランプが大統領になることは当然のことであり、メディアや政界が大騒ぎになることはないはずだ。それが、そうなっていないというのは、有権者と政治がかけ離れているからだ。

 有権者と実際の政治が乖離していても、政治が成り立っていたのは、体制というものはそういうものだと言えるだろう。経済がそれなりに成長していれば、有権者は遠い東海岸のメリーランド州とヴァージニア州の間のコロンビア特別区で政治家がなにをやっていようと黙っていることができた。しかし、今や、それがそうはいかないということだ。一部の富裕層が、大多数の中間層へ利潤を回すことを行ってきていれば、中間層はここまで怒ることはなかった。大統領選挙の時は、政治は一般の有権者の手に戻る。しかし、選挙が終わると、政治は有権者の手から離れ、遠いワシントンDCに移ってしまう。

 メディアは、トランプを合衆国大統領の品性や知性がないと言ってきたが、これまでのアメリカの歴代大統領の中では、トランプのような人物が大統領になったこともある。それでもアメリカは続いてきた。もちろん、21世紀の現代のアメリカ合衆国の大統領がトランプのような人物で勤まるのかどうかということはある。BBCのニュースを聴いていると、ヨーロッパ各国はこれからの対米関係をどうしたらいいのかわからず混乱ぶりが垣間見れておもしろい。

 では、今回のトランプの勝利は、アメリカの本来の民主主義が復活したと捉えることはできるのだろうかと言うと、そうとも言えないだろう。一言で言えば、トランプが大統領になったとして、体制は一般大衆中間層の方に向き直るであろうかという疑問がある。トランプの公約にしても、保護貿易を行えば、中間層が豊かになるというわけではない。イスラム教徒や違法移民者を国外追放すれば、彼らの仕事が増えるわけでもない。実際のところ、今のアメリカの格差社会そのものを変革するには、そうとうな大きな変革になり、4年や8年でできるものではない。

 ヒラリーが勝利しても、トランプ現象は終わらないと言われていたが、トランプが勝利した今、反トランプ感情もまたなくなっていない。今のアメリカ国内は、分断し混乱した状態になっている。

 トランプはロシアとの関係が深い。一部で言われ始めているように、トランプはロシアが行っているシリアとの協力や、クリミア併合を容認とまではいかなくても、かなり容認に近い対応をとる可能性が十分にある。トランプは、不動産業を通じて、ロシアの実業家や政治家と豊富な人脈を持っている。これに対して、軍産複合体やネオコン一派の残党は、ロシアのウクライナ問題を誘発し煽ることをしてきた。彼らは、米ロ関係が良好になることを望んでいない。ワシントンの体制と大統領になったトランプの対立が、これから始まるのである。

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