朴槿恵の退陣デモ
近所のTSUTAYAで、韓国のテレビドラマ『第五共和国』のレンタルDVDを借りてまた見ている。『第五共和国』は、韓国の第五共和国の時代、つまり全斗煥政権の誕生と終末までを史実をもとにしてドラマ化した番組である。
このドラマは数年前に見ていた。全斗煥政権は、1980年から88年に至る。この時代は、私の高校、大学の頃になる。あの頃、隣の韓国ではこんなことがあったのかと思ったものである。
その後、数年たって、それなりに韓国現代史についての知識を得て、今回改めてこの政治ドラマを見てみると、全斗煥とその支持グループによる政権の簒奪の手段が実に見事で、よくもまあこれほど考えることができたものだと関心する。全斗煥が政治の実権を握る1979年12月12日に始まるクーデター事件、いわゆる「粛軍クーデター」は朴正煕が政権をとった「5・16軍事クーデター」から多くを学んでいる。
政権簒奪だけではなく、いわば全斗煥の軍人政府がやったことは、同じ軍人政府の大統領であり、全斗煥が若手将校であった時から、彼を将来の側近として育てていた朴正煕がやったことから学んでいる。全斗煥は、朴正煕の劣化コピーのようなものであった。
李承晩の第一共和国から全斗煥の第五共和国までの軍人政府だった時代、人権運動や民主主義運動はすさまじく弾圧された。今の韓国の民主主義は、そうした先人たちの累々たる死の上に成り立っており、戦後、GHQから民主主義を与えられた日本とは比べものにはならない程、韓国の民主主義は重い。
この韓国の民主主義の現在として、今の朴槿恵大統領の退陣デモがある。
産経新聞はこう書いている。
「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人で女性実業家、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入事件で、朴氏の退陣を求める大規模集会が26日、ソウルなど全国で行われた。5週目となる今回、主催者側は全国で190万人、警察は32万人が参加したと推計。12日のデモを上回り、最大規模となった。」
なぜ、朴槿恵大統領退陣デモで、これほど盛り上がるのであろうか。
崔順実への機密漏洩疑惑にせよ、セウォル号沈没事故での政府の対応のまずさにせよ、こうしたことは韓国では「よくある話」ではないのだろうか。権力を私物化したり、要職に縁故で採用することは、正直に言って隣国のイルボニンから見ると、韓国社会のどこにでもあることである。これらをもって大統領が弾劾されるというのはまったく理解できない。
機密漏洩疑惑や沈没事故での政府対応についてなど、父親の朴正煕であれば即座にもみ消し、その後、誰からも非難されることはなかったであろう。それだけの政治手腕を、朴正煕は持っていた。娘の朴槿恵には、それがないということなのである。
もちろん、そうした慣習はいいか悪いかで言えば、悪いことであり、そうしたことはなくさなければならない。しかしながら、それと朴大統領の退陣とどうかかわるのであろうか。仮に朴槿恵を大統領職から退陣させたとしても、それらの悪慣習は韓国の社会からなくなることはない。大統領に取り入り、癒着して財をなした人々は崔一族だけではない。
実際のところ、今の韓国にはデモをやっている暇などないはずだ。
中国との関係、北朝鮮への対策、アメリカのトランプ政権への対応、これらをこれから一体どうするのかさっぱり見えてこない。スマホ企業の世界ランキング第二位だったサムスンが脱落するなど、今、韓国経済は大きな転換期を迎えている。財閥中心ではない新しい経済はどのようなものであるべきなのか。そうした考えなくてはならないこと、やらなくてはならないことが山のようにあるのだ。しかしながら、朴槿恵退陣の声に、これからの韓国の方向のようなものはない。
今の韓国では、日本統治時代に生まれ育ち、独立後の韓国を指導していった世代、独立後の韓国で「漢江の奇跡」を成し遂げ、今日の豊かな社会を築き上げた世代、そうした世代の時代は終わろうとしている。豊かな韓国社会に生まれ育った世代が、これからの韓国を造っていかなくてはならない。しかしながら、彼らから新しい韓国がさっぱり見えてこないのである。
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