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September 2016

September 24, 2016

対中印象の悪化に思う

 今朝24日の毎日新聞に、日中共同の世論調査で日本の対中印象が悪化しているという記事があった。

 日本側の中国の印象が「良くない」「どちらかと言えば良くない」との回答は計91・6%で、昨年の前回調査から2・8ポイント増したという。これは「2005年の調査開始後、14年の93%に次いで2番目に高い数字になった。8月上旬に沖縄県・尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返したことなどが影響した。中国側は同1・6ポイント減の76・7%だった。」とのことだ。また、日本側の中国の印象が「良い」「どちらかと言えば良い」は計8%で、こちらも過去2番目の低さだという。

 なぜ、日本人は中国を嫌うのであろうか。これを尖閣諸島問題があるためとすると、この問題を表面化させたのは、石原元東京都知事(とその背後にいるアメリカの一部の勢力)と国有化を公言した野田民主党政権(とその背後にいるアメリカの一部の勢力)と、そしてひたすら問題を拡大し続けてきた今の安倍自民党政権(とその背後にいるアメリカの一部の勢力)であると言えるだろう。

 もともと日本人の多くは、尖閣諸島という場所がこの国にあるということすら知らなかった。戦後の日本は、1972年に至るまで中国との国交はなかった。戦後生まれの人々にとっては、中国は好きでもなければ嫌いでもない、まったく意識にすらしてこなかった国であった。それが91・6%の「良くない」「どちらかと言えば良くない」の国になったというのは、どういうことであろうか。

 国家運営の要諦の一つは、隣国との紛争をできる限り避けるということである。ところが、この世には隣国との紛争がなくなって困る人たちがいる。米ソ冷戦がなき後、東アジアで軍事紛争がなくなると困る者たちが画策したのが、中国の脅威であり、北朝鮮の脅威であり、そしてロシアの脅威である。

 1972年のいわゆる日中国交正常化から、時間の線をこちら側へぐっとひっぱって考えみたい。この方向で進んでいけば、日本はアメリカの同盟国としての安全保障を保ちながら、中国とも安全保障の関係を持つことも可能であったと考えることができる。つまり、今現在の東アジアの国際情勢とは違う、もうひとつの別の東アジアの国際情勢があり得たのである。

 しかしながら、現実の現代史はそうならなかった。このあり得たもうひとつの東アジアになることに「させなかった」ものがあったということである。この大きな構図の中に、石原元東京都知事も野田民主党政権もあったし、そして今の安倍自民党政権もあると考えなくてはならない。

 もうひとつ興味深いのは「領土を巡る日中間の軍事紛争について「起こると思う」(「数年以内に」「将来的に」の合計)と考える人は、中国側の62・6%に対し、日本側は28・4%だった。 」ということだ。日本人は中国による尖閣諸島周辺への領海侵入により嫌中感を持っていながらも、大多数の人々は軍事衝突になるとは思っていないということである。これに対して、嫌う度合いは日本より低いながらも、将来、日本と軍事衝突をするかもしれないと思っている人々の割合は中国は高いということだ。

 このへん、四方を海に囲まれた島々の住民である日本人と、他国と地続きで常に国境紛争にさらされてきた歴史を持つ中国の人々の感覚の違いが出ていておもしろい。

 日本人は中国人に対してどれだけ嫌悪感を持とうとも、それと実際の戦争になることとは直接的には結びついていない。海で隔てられた日本列島の上で、そう思っているだけで、どこか他人事のような意識がある。軍事紛争をリアルな実感として感じていない。これに対して、外国では一般的に対外認識が即自分たちの死活問題にも関わってくるので、だから常に正しい対外認識を持とうとし、他国との戦争はあり得るとする感覚を持っている。

 この日本人の国民性は、万年や千年のオーダーで日本列島の住民であったことによって、できあがっていったものなのだろう。

September 22, 2016

もんじゅ廃炉

 政府は、21日の夕方、「原子力関係閣僚会議」を開き、高速増殖炉「もんじゅ」について廃炉を含め抜本的な見直しを行い年内に結論を出す方針を確認したという。

 原発は放射性廃棄物を生み出す。このことは、原発の欠点の大きなひとつである。この廃棄物からプルトニウムを取り出し、再度、発電の燃料にしようというのが高速増殖炉である。核燃料サイクルとも言う。

 戦後日本で、原発を推進してきた人々にとって頭を悩ませてきたことは、原発の放射性廃棄物をどうするのかということであった。そこで、彼らが考えたことは、上記の核燃料サイクルである。核燃料サイクルを可能にすれば、原発の放射性廃棄物の問題を解決することができると彼らは思い、いわば核燃料サイクルが可能になることを前提として、各地に原発を建ててきたのである。核燃料サイクルが可能になれば、原発で発電し、さらにその廃棄物でも発電ができるので、日本は数百年のオーダーでエネルギーの安定供給が可能な国になるということになる。

 しかしながら、現実はそうはならなかった。

 核燃料サイクルでは、高速増殖炉というもので放射性廃棄物からプルトニウムを増殖させ燃料とする。この高速増殖炉が「もんじゅ」である。ところが、技術的にこれは夢物語のシロモノであった。「もんじゅ」には、国はこれまで1兆円以上のを費用を投入してきたが、「もんじゅ」ができてから22年間の運転実績は、わずか250日程度のものだった。動かせば故障や事故が起こるのである。停止していても、「もんじゅ」の維持には年間200億円という費用がかかるという。

 原発というものは、トータルで見ると、石油や天然ガスでの発電よりも遙かにコストがかかるものなのであると言えるだろう。決して、安くはないのである。

 それでも、国は「もんじゅ」をやめることをしなかった。

 なぜ、国はこれまで「もんじゅ」をやめることができなかったのかというと、これができないとなると、原発の放射性廃棄物の処理ができないということになり、原発政策そのものができないということになるからである。

 処理に10万年もの時間がかかるものを、核燃料サイクルができるようになれば問題はなくなるだろうと大量に発生させてきた国の判断は理解し難い。今回、「もんじゅ」廃炉が決まったが、それでも国は、核燃料サイクルそのものについてはやめるとは言っていない。まだ愚行を続けようとしている。

 原発推進派筆頭メディアとも言うべき産経新聞は、18日の「主張」で「もんじゅは不要でも高速増殖炉と核燃料サイクルは必要不可欠である。」と書いている。原発に固執する人々にとっては、核燃料サイクルができるようにならなければ困るのである。核燃料サイクルはできるようになるということが、今、大量の放射性廃棄物を発生させていることの正当性の根拠になっているからだ。

 しかし、現実は「できない」のである。国民の大多数も脱原発を望んでいる。このへんに、民意を無視し、自分たちの目先の利益しか考えない原発推進派の人々の姿がよく現れていると言えるだろう。

 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどは高速増殖炉の実験から手を引いている。ようするに「できない」のである。

 ちなみに、「もんじゅくんのブログ」の2013年5月13日に「もしも高速増殖炉もんじゅをやめたら、どんな影響があるの?が5分でわかる、25のQ&A 」というのがある。この6年後の今、これがようやく実現したわけである。

 核燃料サイクルはできない。これでもう原発について話は終わっている。原発なんてものはやらない、放射性廃棄物をこれ以上増やさない、ということである。

September 19, 2016

安保法成立1年

 集団的自衛権の行使などを認めた安全保障関連法が成立して、今日で1年になるという。

 毎日新聞は今日の社説でこう書いている。

「この1年だけでも日本を取り巻く国際情勢には大きな変化が見られた。金正恩体制下の北朝鮮は2度も核実験を強行し、ミサイルの発射も繰り返している。台頭を続ける中国は国際仲裁裁判所の判決を無視し、南シナ海で覇権的な姿勢を崩そうとしない。 」

 この北朝鮮と中国を「敵国」とする見方は、右のメディアでも左のメディアでも同じであるようだ。そして、これらの「脅威」に対抗するために、日米は連携をするべきあるということにおいても、右のメディアでも左のメディアでも同じであるようだ。

 ここから先が違う。産経新聞は「戦争を抑止するための安保関連法をしっかりと活用し、平和を守る。それが必須なのである。」であるとし、毎日新聞では「安保政策の積み重ねから飛び越えた安保法制は、政治的にも、自衛隊の部隊運用の面でも不安定さを残した。 」と述べている。

 もともと、今回の新安保法制は、アメリカのジョセフ・ナイやリチャード・アーミテージらといった一部の人々の思惑から生まれたものであり、毎日新聞が言っているように、これまでの日米安保の流れの中から生まれてきたものではない。海自による米艦防護とか、陸自の国連平和維持活動での「駆け付け警護」など、これまでの日米安保とはかけ離れた、日本国の防衛とはまったく関係がないことを自衛隊がやらなくてはならないという、まったくもって迷惑な法制である。

 産経新聞は今日の記事の中で、今回の安保法制により「別の政府高官も「安保関連法ができたことで米国側の日本を見る目が変わった」と語る。」とか、「安保関連法が成立していなければ、同盟国の負担増を求める米側との軋轢(あつれき)が強まる恐れもあった。」とか書いているが、このへんにアメリカに恩を売って助けてもらおうという従属的心情が表れている。

 さらに産経新聞は書いている。

「共和党候補のトランプ氏は同盟国に米軍駐留経費増額を求めており、仮に民主党候補のクリントン氏が勝利しても、論戦に影響を受けて負担増を求めざるを得ないとの見方が日本政府内で大勢を占める。

 こうした中で防衛省幹部は「一つの回答となるのが安保法制だ」と語る。日本は自衛隊の役割拡大という「負担増」をすでに引き受けているというわけだ。」

 そもそも、日米安保の「負担」とは、戦後70年間、特に沖縄に在日米軍基地を「置いてきた」という負担と、思いやり予算等の財政的負担を日本を支払ってきていることである。ところが、そうしたことは負担でもなんでもないと思っているのであろう。このへんにも従属的心情が表れている。

 そして、肝心の議論すべき日本の安全保障については、まったく進展がない。法制ができて1年たった今でも、政府は実質的な内容を深めていくことをしようとしない。法制が、ただできただけで日本の防衛は安全だかのように思っている。相手に恩を売れば、自分たちに良くしてくれるという日本人の人間関係みたいなことを、異質の他国であるアメリカに対して行っていることが、いかに愚かしいことであるかがわかっていない。

 この程度の政府だから国民は信用ができず、結局、日本はアメリカの戦争に引き込まれるだけだと達観しているのである。国民のこのまっとうな常識感覚を、これを「戦争法案だとレッテルを貼っている」という認識しかできないということに、そもそもの間違いがある。

 先日の辺野古移についての国勝訴の判決でも、判決文に日米で決定されたことに司法は関与することはできないかのような記載があったが、このアメリカ様にたてつくことはしない、アメリカ様に依存する心情は、結局のところ、この国は敗戦国であることが続いているからなのであろう。

 まさに「戦後は続くよ、どこまでも」(by 矢口蘭堂)なのである。

September 18, 2016

どこが公平な裁判なのか

 17日、福岡高裁那覇支部は、沖縄の翁長雄志知事が辺野古の埋め立て承認取り消しの撤回に応じないのは違法として国が起こした訴訟で、翁長氏の対応を「違法」と判断し、国側勝訴の判決を言い渡したという

 判決の内容は理解し難い。

 この判決文の全文と骨子、要旨は、沖縄県の知事公室辺野古新基地建設問題対策課のホームページで入手することができる。この読みにくい文章を読んでみると、理解し難いことが多い。「地方自治法に照らしても、国の本来的任務に属する事項であるから、国の判断に不合理的な点がない限り尊重されるべきある」とか、「普天間飛行場の被害を除去するには本件埋立てを行うしかないこと、これにより県全体としては基地負担が軽減される」とか間違った箇所が数多くある。

 例えば、上記の箇所は正しくは以下の通りである。「地方自治法に照らしても、国の本来的任務に属する事項であるが、国の判断に合理性があるかないかは司法は判断し得えない」「普天間飛行場の被害を除去するには本件埋立てを行うしかわけではなく、これにより県全体としては基地負担が軽減されるわけではない」

 このブログで何度も書いているが、辺野古に海兵隊基地を置くのが軍事合理性に合うのかどうかは、日本の政治家や裁判所が判断することではない。これはアメリカが判断することである。選択肢として、グアム、オーストラリア、米本土に海兵隊基地を移転させることは、現在でも検討事項となっている。

 福岡高裁那覇支部が、辺野古に基地を移転させるという国の判断に軍事的な合理性があるのかないのかの判断ができるというのであろうか。「国の判断に不合理的な点がない」というのならば、辺野古に海兵隊の基地を置くことが、アメリカ軍及び日本国の国家防衛の観点から、どのように合理性があるというのか、裁判所に答えてもらいたいものである。

 「普天間飛行場の被害を除去するには本件埋立てを行うしかない」というのも、裁判所が判断できるものではない。普天間飛行場の被害を除去するには辺野古移転を行うしかないと言っているのは政府である。従って、裁判所が行うべきことは、この政府が言っている「普天間飛行場の被害を除去するには辺野古移転を行うしかない」ということが本当に正しいのかどうかということであろう。

 しかしながら、そうしたことはいっさいやらず、国の言っていることが正しいという前提の下で判決をしている。これでは、なんのために裁判をしたのかわからない。

 もともと、代執行訴訟で国と県の和解を勧告したのは裁判所からであった。それが、これほどの国側の一方的主張を取り上げる判決では、和解にはとうていならないであろう。

 そもそも、沖縄がこれほどもめているのは、安倍政権になってから、国が沖縄に対して強権的な恫喝をするようになったからだ。今回、裁判所もまた同じことを行い、ますます沖縄問題をこじれさせている。

 なぜかくも沖縄に対して、国は常識とバランスが欠落しているのであろうか。

September 10, 2016

北朝鮮の核実験

 北朝鮮は9日、同国が開発した核弾頭の威力を判定する爆発実験を「成功裏に実施した」と発表したという。

 産経新聞はこう書いている。

「国連安全保障理事会は、日米韓3カ国の要請を受け、緊急会合を開催する方向で調整に入った。また安倍晋三首相は9日、オバマ米大統領と電話会談し、北朝鮮に新たな制裁を含めた対応をとる必要があるとの認識で一致。これに先立ち首相は声明を発表し、核実験の強行を「断じて容認できない」と非難した。」

 北朝鮮の核兵器開発にどのように対応すればよいであろうか。答えは簡単だ。相手にしなければいいのである。北朝鮮が核ミサイルを10発持とうが、100発持とうが、1000発持とうが、アメリカも中国もロシアも日本も韓国も、今後、北朝鮮がどうなろうと一切関与しないということにすればよいのだ。

 一番やるべきではないのが、産経新聞が言うような「国際的な圧力を高めることはもとより、日米韓として暴走を食い止める方策を急ぎ模索しなければならない。危機を回避するため、核戦力を含む抑止力の強化を話し合うべきだ。」というものである。こんなことをするから、ますます北朝鮮は核兵器で対抗しようとしているのである。

 もともと、北朝鮮という国が生まれた背景にはアメリカと中国の存在が大きい。第二次世界大戦の終結により大日本帝国の朝鮮統治が終わった後の韓半島で、朝鮮の人々によるひとつの朝鮮の国ができていたらどれほど良かったことであろうかと思う。

 しかしながら、現実はそうはならなかった。ここにアメリカが介入してきたからである。思えば、北朝鮮は約半世紀前のこの時からアメリカの脅威の前にさらされて続けてきた。北朝鮮側のこの心情が理解できなければ、北朝鮮はなぜ今日ああいうことをやっているのかがわからない。

 朝鮮戦争の時、米軍は核攻撃までするつもりだったのである。朝鮮戦争が休戦になった後も、アメリカは韓国に北朝鮮に対抗する様々な軍事兵器を持ち込んだ。その中には、当然のように核ミサイルもあった。韓国から米軍の核兵器が撤収されたのは1991年であり、それまでは北朝鮮は核兵器の標的になっていたのである。現在、北朝鮮の核実験について国際社会は非難をしているが、この事実を忘れている。

 韓半島を南北に分断したのはアメリカと中国であり、アメリカは北朝鮮を核兵器の標的としてきた。このことをまず我々は理解する必要がある。その上で、ではどうするのかを考えなくてはならない。

 一方、国際社会側としても、核兵器を持つ国はそれなりの保有責任、管理責任を果たすことができる国でなけば、とても安心ができないということがある。今の北朝鮮がそうした国ではないことは明らかである以上、国際社会が北朝鮮を非難することは当然のことであるのかもしれない。

 「韓半島を南北に分断したのはアメリカと中国であり、アメリカは北朝鮮を核兵器の標的としてきた」のは歴史的な事実であるとしても、では、今でもアメリカと中国はそうなのであるかというとそうではない。今のアメリカも中国も、できることならば北朝鮮とは関わりたくもないというのが本音であろう。

 抑止力とは、攻めてくるかもしれない敵がいて、その敵を抑止するためにある。北朝鮮など、どこの国も攻めることはないということなれば、抑止力を持つ意味などなくなる。

 では、どこの国が北朝鮮に攻めてくるというのであろうか。

 ここで話は最初に戻る。今回の北朝鮮の核実験に対する各国の反応は、北朝鮮側から見れば「脅威」に見え、今後、さらに核実験を続けるであろう。いわば、お互いがお互いを「脅威」とみなしていることで、関係がますます悪化していくとういうサイクルになっているのだ。

 必要なことは、このサイクルを絶つことである。今なら、まだこのサイクルを絶つことができる。北朝鮮にとって、核兵器とは純軍事的な兵器ではなくシンボリックなものになっている。従って、我々は北朝鮮の核兵器は脅威ではない、とすることで、北朝鮮側の核の抑止力の根拠を消滅させるということが必要なのである。

September 03, 2016

「国体」の継続

 今日の毎日新聞のオピニオン欄のコラム「時の在りか」は興味深かった。

 コラムは、2.26事件の首謀者の一人であり、陸軍士官学校事件において停職、そして免官となった元陸軍主計官磯部浅一の獄中での日記や手記の文から始まる。

「「陛下 なぜもっと民を御らんになりませんか/国民は、陛下をおうらみ申す様になりますぞ/御皇運の果てる事も御座ります」

 「何と云(い)う御失政でありますか、何と云うザマです、皇祖皇宗に御あやまりなされませ」

 80年前の夏、2・26事件の首謀者、磯部浅一は、クーデター失敗から4カ月余りで同志の大半が処刑されたのに憤激し、酷暑の獄中で鬼気迫る日記をつづった。

 別の手記に悲嘆も記す。

 「日本には天皇陛下が居(お)られるのでしょうか。今はおられないのでしょうか。私はこの疑問がどうしても解けません」 」

 戦前の日本の誤りのひとつに、タテマエでは天皇が統治する国であるとなっていながら、実質、そうではなかったということがある。

 もともと、人の社会の統治には複雑な仕組みや判断が必要なこともあり、あるひとつの家系の長が社会全体を治めることには無理があった。古代の時代から、宗教的な権威としての長と、実質的な統制者としての長は分かれていたと言ってもいいだろう。

 江戸幕府を滅ぼした革命政権である明治政府が、革命のスローガンとして掲げたのは王政復古であった。しかしながら、19世紀の世の中で、古代王朝の政治体制でやっていけるわけがなく、実質は欧米の近代社会のようになることであり立憲君主制の国家になったのが明治日本だった。

 この国の実質的運営者たちは、自己の権力の正当性を天皇制に求めた。やがてここから、現実に天皇がこの国を統治しているというイメージが一人歩きをしだした。2.26事件を起こした将校たちすべてが、本気でそう思っていたとは思えないが、少なくとも磯部浅一は獄中でそう書かざる得ない心境だったのだろう。

 昭和天皇の歴史的評価は難しい。このコラムにも書いてあるように、昭和天皇が政治に介入した出来事はふたつある。2.26事件の時と、太平洋戦争終結のポツダム宣言受託の時である。

 このコラムでは、「だが、青年将校の無法を許さなかったのは正当でも、戒厳令による蜂起制圧は、軍の官僚派勢力をかえって増長させ」たとしている。

 しかしながら、2.26事件は、昭和天皇の「政治介入」によって鎮圧したとするのは正しいとして、その後、皇道派は粛正され統制派が陸軍を掌握していったのは昭和天皇のせいではない。陸軍がああなったのは、昭和天皇の責任ではない。天皇は陸海軍を統帥すとなっていながらも、名前だけの大元帥になにができたであろうか。

 このコラムでは、昭和天皇のもうひとつの政治介入であったポツダム宣言受諾は、「天皇の言うことを聞かなくなった軍の解体と引き換えに、天皇家存続(国体護持)を保障してもらう条件取引だった。」としているが、これにも私は反論がある。

 ポツダム宣言受諾は無条件降伏であった。この時点において、天皇制の存続は決まっていない。だからこそ、8月15日の未明に至るまで、陸軍中央の一部で騒動があったのである。天皇家存続が決まったのは、その後のGHQの占領政策によるものであった。

 ただし、戦後史全体を通してみると、結果として、大日本帝国は終焉したが、天皇制は残ったということは言える。そして、これをアメリカの占領政策がそうだったからとだけでは言えないところがあるのは事実である。

 このコラムでは、本来、生前退位とは昭和天皇に固有の用語であったという。

「「天皇無答責」(法的責任を負わない)とはいえ、戦争の道義的責任がないと言えない以上、しかるべき時期に退位すべきだと考えられた機会は、戦後4回あった。

 敗戦の直後

 東京裁判の判決が出た時

 サンフランシスコ講和締結時

 皇太子(現天皇)ご結婚の時

 それぞれの時機に、木戸幸一元内大臣、南原繁元東大学長、安倍能成元学習院院長、中曽根康弘元首相など、そうそうたる人々が退位を求めたが、象徴となっても君主意識を放さなかった昭和天皇は終身在位を全うし、戦争の反省については言を濁した。 」

 昭和天皇がなぜ生前退位をしなかったのかということについては、様々な説があり、今日でも明確になっていない。しかし、昭和天皇その人がどのように思われたかは別としても、事実はこの通りである。昭和天皇は終身在位を全うされた。

「「お気持ち」は戦後70年を無事終えた感慨で始まる。昭和天皇にはかなわなかった海外慰霊の旅をやり遂げた暁に、父天皇に代わって自分が「生前退位」を決断しよう。子の代になっても責任は果たそう。そんな言葉にできない秘めた意志の表明、と私は聞いた。 」

 このコラムは、父昭和天皇ができなかった生前退位を、子の今上天皇が違った姿でやろうとしているとしている。この視点は興味深い。このことは、戦後70年を経て、昭和天皇とは違った姿で、天皇は日本国民に「国体」の継続とはなにかということを問われているということになる。

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