「第二次世界大戦の戦後」という時代の終わり
7月2日の産経新聞の古森義久氏のコラムは興味深いものだった。
イギリスのEU離脱について、アメリカの論壇は、当初は金融や貿易などの側面からイギリス国民の判断の愚かさを主張するものが多かったという。日本でも、産経新聞も含めて、マスコミではEU離脱をあたかも愚挙であるからのような論調ばかりであった。古森氏よると「だが英国の国民投票結果が一段落すると米国ではその原因を英国民の誤算や浅薄よりもEUの弊害に帰する評論が目につき始めた。」とのことだ。
そうした評論のひとつとして注目を受けているのが、ヘンリー・キッシンジャーの論考であるという。古森氏はこう書いている。
「米国の国際政治論の大御所ヘンリー・キッシンジャー元国務長官がいま全世界で熱く論じられる「ブレクジット(英国EU離脱)」について米側大手メディアの論調をたしなめるような一文を発表した。6月末である。キッシンジャー氏は英国民の今回の判断を過ちだとしてたたくことは間違いであり、EUが本来の理想を遠ざけ、硬直化しすぎた点こそ問題なのだと説いた。」
この6月末のキッシンジャーの一文とは、具体的にどのメディアでいつ発表されたものであるのかは古森氏は書いていなかった。そこで、ネットで調べてみた。これは、おそらくThe Wall Street Journalの6月28日付けのキッシンジャーのコラム"Out of the Brexit Turmoil: Opportunity"のことだろう。
結局のところ、キッシンジャーが言っているように、EUによる欧州統合は、現状のところ失敗している。国境を越えた移動の自由は、東欧の貧しい国から西欧の豊かな国への移民をもたらし、アメリカやヨーロッパの介入によって混乱する中東からの大量の難民が押し寄せることになってしまった。通貨統合もうまくいっていない。統合国家を作りたいEUの原理主義勢力と、ドイツを再びヨーロッパの覇者にさせたいとする勢力と、グローバリゼーションで利益を得る多国籍企業の勢力がぶつかり合っているのが今のEUである。
思えば、統合した欧州の理念を語る政治指導者が今だ現れていない。ドイツの首相やフランスの大統領はいても、本当の意味でのEUの指導者がいない。EUは、欧州という寄り合い所帯の連合体でしかありえていない。戦後の国際的な政治体制の多くは、第二次世界大戦の戦後から始まっている。戦争という状況であったからこそ「欧州統合」という意識を持つことができたのであろう。
しかし、欧州統合を失敗として否定し、自国の主権と価値観とアイデンティティーを持つことで、今の時代の物事がすべて解決できるわけではない。イギリスのEU離脱を見て、つくづく、今の時代は「第二次世界大戦の戦後」という時代の終わりなのだと思う。
そして、重要なことは、その「第二次世界大戦の戦後」という時代が終わった時、出てきたものは、自国の主権と価値観とアイデンティティーを持つだけで良しとし、それ以上のことを考えることができない劣化した右派的政治状況であるということだ。これがヨーロッパの大陸でも、イギリスでも起きていることであり、アメリカで起きていることであり、そして、日本でも今起きていることなのである。
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