2016年の共和党大会
アメリカのオハイオ州クリーブランドで開催された共和党大会でのトランプの指名受諾演説は、見るに堪えないひどいものであった。グローバリズムはやめてアメリカニズムでやっていく。国境を守り、テロから国を守る。イスラエルと協力し、IS壊滅させる、等々のことを言っているが、なぜこれで、例えばIS壊滅させることができるのかさっぱりわからない。ようするに、昔のアメリカは良かったという懐古の雰囲気にひたりたいだけのものなのだ。
この中身のなさを思うと、よく言われているように、合衆国大統領選挙は、アメリカの国をあげてのお祭りであり、政治ショーであることがよくわかる。
今の共和党はヒラリーが嫌いという、ただその一点においてのみ「団結」している。民主党支持者にも、ヒラリー嫌いは多い。その気持ちは私もよくわかる。ヒラリーもまた、何を言っているのかよくわからない、これもまた無策の、これまで通りの体制べったりのワシントンの政治が続くだけである。
共和党大会では、テッド・クルーズ上院議員がスピーチで、トランプ不支持を述べたのは興味深い。すさまじく低レベルだった今回の共和党大会の中で、唯一、保守思想の良識を見せてくれたようなスピーチであった。
当然のことながら、テッド・クルーズは保守主義者である。従来の保守主義では、これからのアメリカはやっていくことはできないのであるが、政治思想の上に政党があり、政策があるアメリカ政治の本来の姿をテッド・クルーズは持っていた。次期合衆国大統領にヒラリーがなろうとトランプがなろうと、その4年間でアメリカはさらに混乱を増すだろう。その次の大統領選挙は、もう少しましなものになるであろうから、テッド・クルーズはその時を待っているのかもしれない。
今、アメリカで起きているのは、アメリカという国の威信の低下である。その状況を作ったのはブッシュ政権であるが、それが急速に起きたのはオバマ政権の8年間である。その意味では、確かにオバマ政権の8年間で、世界最大最強の軍事力と経済力を持っていたアメリカが急速に力を失い、世界は覇権国なき、混沌の世界になってしまった。トランプは演説の中で、このオバマの8年間を失策とし、その失策をそのまま前期オバマ政権の国務長官であったヒラリーの失策であるとしている。
しかしながら、アメリカがそうなったのはオバマがどうこうとか、ヒラリーがどうこうというよりも、そういう時代になったからである。この8年間の大統領がオバマでなくても、アメリカはこうなったであろう。今の合衆国大統領に必要なことは、そうした新しい時代の国際社会とアメリカの姿はどのようなものであるかを提示してくれる指導者である。しかし、そうした人物が今だ現れていない。
我々が歴史から学んだことは、民主主義は衆愚政治に陥る可能性を常に持っているということであり、衆愚政治は、ファシズムに変容する可能性を常に持っているということのはずだ。しかしこの「はずだ」というのは、いともカンタンにひっくり返される。この「ひっくり返される」ことの歯止めになっていたのが、教育でありメディアであった「はず」(これもまた「はず」なのであるが)なのであるが、それがもはや「歯止め」の枠割りを果たし得ていないものになっている。
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