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July 2016

July 30, 2016

2016年の民主党大会

 アメリカでは価値観の変容や有権者の人種・民族構成などの変化から、共和党は大きな変化を迫られていると書いてきたが、このことは民主党も同じだ。

 例えば、「同性婚」や「中絶問題」などは、今のアメリカは最高裁の判決もあり、当然の常識である価値観が確立されている。これまでは、民主党はそうしたことについて共和党との違いを主張することができたが、今の時代はそれらは政治争点にならない。そうなると、では民主党とはなにか、なにが共和党と違うのかという対立軸を明確に出すことができなくなってきている。

 もちろん、トランプの言っていることにヒラリーは反対し、民主党も反対している。しかし、トランプの言っていることは、トランプ個人が言っていることえあり、本来の共和党の主張ではない。このため、今回の大統領選挙では民主党は共和党と争うのではなく、トランプという人物と選挙を争うことになっている。

 ただし、トランプは共和党の大統領候補者であり、なぜそうなのかと言えば、トランプを支持する有権者が数多くいるということである。つまり、従来の共和党ではなくトランプを支持する人々がいるということだ。彼らはこれまでの共和党から取り残された人々であり、そうした人々が無視できない存在になってきたということである。だから、トランプは共和党の大統領候補者になり得た。

 このことは民主党も同じだ。だから、トランプはサンダース支持者に自分に投票してくれるように述べている。民主党もまた混乱と分裂の危機を抱えているのである。

 民主党大会でのオバマの演説は見事だった。この人の演説を聴いていると、問題が山積する政治課題を我々は団結して解決することができると思えてくるから不思議だ。この先もオバマが大統領を続けてくれないものかとすら感じてしまった。やはり、この人には理想主義者のカリスマがある。元々、左派の人権派弁護士だったこの人は、サンダースのようなラディカルな変革者であり、政治に「希望」を語る、アメリカ政治史上、最後の大統領になるかもしれない。現実問題として、民主党内にヒラリー嫌いの人々は多い。そうした人々にとって、今度の大統領選挙は「ヒラリー」に投票することは「ヒラリーを支する」ことではなく、「トランプを支持しない」「オバマが語るアメリカの希望」に投票するという意味になることをオバマの演説は伝えている。

 しかしながら、である。

 オバマの次に行われたヒラリーの指名受諾演説を見ると、オバマの演説を見た後であるからか、政治カリスマに欠けるように見える。これでサンダーズ支持者がヒラリーに投票するかというと、とてもそうとは思えない。かつてオバマの大統領選挙の時は、黒人が大統領になるということでのアメリカの有権者の底辺からの団結と盛り上がりがあったが、ヒラリーには女性初の大統領になるということでも、オバマの時のような底辺からの支持がない。一般有権者にとって、ヒラリーだと、どうしても不信感を感じてしまうからだろう。

 合衆国大統領選挙は残り100日に入った。支持率は現状では双方ほぼ同じだという。


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July 24, 2016

2016年の共和党大会

 アメリカのオハイオ州クリーブランドで開催された共和党大会でのトランプの指名受諾演説は、見るに堪えないひどいものであった。グローバリズムはやめてアメリカニズムでやっていく。国境を守り、テロから国を守る。イスラエルと協力し、IS壊滅させる、等々のことを言っているが、なぜこれで、例えばIS壊滅させることができるのかさっぱりわからない。ようするに、昔のアメリカは良かったという懐古の雰囲気にひたりたいだけのものなのだ。

 この中身のなさを思うと、よく言われているように、合衆国大統領選挙は、アメリカの国をあげてのお祭りであり、政治ショーであることがよくわかる。

 今の共和党はヒラリーが嫌いという、ただその一点においてのみ「団結」している。民主党支持者にも、ヒラリー嫌いは多い。その気持ちは私もよくわかる。ヒラリーもまた、何を言っているのかよくわからない、これもまた無策の、これまで通りの体制べったりのワシントンの政治が続くだけである。

 共和党大会では、テッド・クルーズ上院議員がスピーチで、トランプ不支持を述べたのは興味深い。すさまじく低レベルだった今回の共和党大会の中で、唯一、保守思想の良識を見せてくれたようなスピーチであった。

 当然のことながら、テッド・クルーズは保守主義者である。従来の保守主義では、これからのアメリカはやっていくことはできないのであるが、政治思想の上に政党があり、政策があるアメリカ政治の本来の姿をテッド・クルーズは持っていた。次期合衆国大統領にヒラリーがなろうとトランプがなろうと、その4年間でアメリカはさらに混乱を増すだろう。その次の大統領選挙は、もう少しましなものになるであろうから、テッド・クルーズはその時を待っているのかもしれない。

 今、アメリカで起きているのは、アメリカという国の威信の低下である。その状況を作ったのはブッシュ政権であるが、それが急速に起きたのはオバマ政権の8年間である。その意味では、確かにオバマ政権の8年間で、世界最大最強の軍事力と経済力を持っていたアメリカが急速に力を失い、世界は覇権国なき、混沌の世界になってしまった。トランプは演説の中で、このオバマの8年間を失策とし、その失策をそのまま前期オバマ政権の国務長官であったヒラリーの失策であるとしている。

 しかしながら、アメリカがそうなったのはオバマがどうこうとか、ヒラリーがどうこうというよりも、そういう時代になったからである。この8年間の大統領がオバマでなくても、アメリカはこうなったであろう。今の合衆国大統領に必要なことは、そうした新しい時代の国際社会とアメリカの姿はどのようなものであるかを提示してくれる指導者である。しかし、そうした人物が今だ現れていない。

 我々が歴史から学んだことは、民主主義は衆愚政治に陥る可能性を常に持っているということであり、衆愚政治は、ファシズムに変容する可能性を常に持っているということのはずだ。しかしこの「はずだ」というのは、いともカンタンにひっくり返される。この「ひっくり返される」ことの歯止めになっていたのが、教育でありメディアであった「はず」(これもまた「はず」なのであるが)なのであるが、それがもはや「歯止め」の枠割りを果たし得ていないものになっている。

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July 16, 2016

フランスのトラックテロ

 フランス南部ニースで、14日(日本時間では15日朝)、大型トラックが革命記念日の休日を楽しむ群衆に突っ込むというテロが起きた。犯行者は、現場で警察との銃撃戦の末に射殺されたという。この事件について、イスラム過激派組織から犯行声明は出ておらず、犯行は単独で実行したローンウルフのテロである可能性が高いとしている。

 毎日新聞によると「同容疑者は仏情報機関の過激派リストに載っておらず、監視対象ではなかった。ロイター通信によると、欧州の他の情報機関も同容疑者を過激派関係者として把握していないという。 」とのことだ。つまり、ISともシリアともイラクとも、イスラム教そのものとも関係ない、イスラム過激派がどうこうということではなく、ただの一人の個人が群衆の中にトラックを暴走させたということだ。

 国連安全保障理事会は14日、フランス南部ニースでのテロについて、「野蛮で卑劣なテロ攻撃を最も強い言葉で非難する」との報道声明を発表したというが、個人が起こした事件について、何に向かって非難をするのであろうか。

 一般的に、シリアやイラクにISの指令中枢のようなものがあり、そこから世界各地にテロリストのネットワークがあるように思われているが、実際のところ、そうしたものがあるわけではない。むしろ、社会に不満を持つ者たちが、そうした情報に触れることによって、その意思が助長され、「聖戦」として正当化されることによって、さまざまな国や地域で独自の展開をしていると考える方が正しいように思う。

 オランド大統領は、「テロとの戦いに対するフランスの決意をくじくことはできない」と述べ、シリアやイラクへの空爆を増やし、ISの根拠地を壊滅させると言っているが、そうしたことはテロを防ぐということにおいて、まったく意味を持たない。ましてや、今回のようなローンウルフの個人の犯行では、シリアやイラクになにをしようと関係はなく、またテロは繰り返されるであろう。外国への軍事行為や国内の警備や監視体制の強化では、テロはなくならない。

 フランスにとって必要なことは、シリアやイラクへの空爆でもなく、ISがどうこうということではない。フランスという国に住む人々は、誰も群衆に向かってトラックを暴走させるという意識を持つことはないようになるということだ。

 つまり、求められていることは良き治世なのである。南仏もそうであるように、フランスでは、パリから離れると政府から見捨てられた地域が数多くあり、そこで暮らす人々は、自分たちはフランスに帰属していると感じていない。歴然とした格差の問題や教育の問題がある。そうした国内の社会問題への対応が、テロを防ぐことになる。むしろ危惧すべきことは、こうした事件に便乗して右派の勢力が高まり、国民の自由と人権が不当に制限されるようになることである。

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July 15, 2016

「第二次世界大戦の戦後」という時代の終わり

 7月2日の産経新聞の古森義久氏のコラムは興味深いものだった。

 イギリスのEU離脱について、アメリカの論壇は、当初は金融や貿易などの側面からイギリス国民の判断の愚かさを主張するものが多かったという。日本でも、産経新聞も含めて、マスコミではEU離脱をあたかも愚挙であるからのような論調ばかりであった。古森氏よると「だが英国の国民投票結果が一段落すると米国ではその原因を英国民の誤算や浅薄よりもEUの弊害に帰する評論が目につき始めた。」とのことだ。

 そうした評論のひとつとして注目を受けているのが、ヘンリー・キッシンジャーの論考であるという。古森氏はこう書いている。

「米国の国際政治論の大御所ヘンリー・キッシンジャー元国務長官がいま全世界で熱く論じられる「ブレクジット(英国EU離脱)」について米側大手メディアの論調をたしなめるような一文を発表した。6月末である。キッシンジャー氏は英国民の今回の判断を過ちだとしてたたくことは間違いであり、EUが本来の理想を遠ざけ、硬直化しすぎた点こそ問題なのだと説いた。」

 この6月末のキッシンジャーの一文とは、具体的にどのメディアでいつ発表されたものであるのかは古森氏は書いていなかった。そこで、ネットで調べてみた。これは、おそらくThe Wall Street Journalの6月28日付けのキッシンジャーのコラム"Out of the Brexit Turmoil: Opportunity"のことだろう。

 結局のところ、キッシンジャーが言っているように、EUによる欧州統合は、現状のところ失敗している。国境を越えた移動の自由は、東欧の貧しい国から西欧の豊かな国への移民をもたらし、アメリカやヨーロッパの介入によって混乱する中東からの大量の難民が押し寄せることになってしまった。通貨統合もうまくいっていない。統合国家を作りたいEUの原理主義勢力と、ドイツを再びヨーロッパの覇者にさせたいとする勢力と、グローバリゼーションで利益を得る多国籍企業の勢力がぶつかり合っているのが今のEUである。

 思えば、統合した欧州の理念を語る政治指導者が今だ現れていない。ドイツの首相やフランスの大統領はいても、本当の意味でのEUの指導者がいない。EUは、欧州という寄り合い所帯の連合体でしかありえていない。戦後の国際的な政治体制の多くは、第二次世界大戦の戦後から始まっている。戦争という状況であったからこそ「欧州統合」という意識を持つことができたのであろう。

 しかし、欧州統合を失敗として否定し、自国の主権と価値観とアイデンティティーを持つことで、今の時代の物事がすべて解決できるわけではない。イギリスのEU離脱を見て、つくづく、今の時代は「第二次世界大戦の戦後」という時代の終わりなのだと思う。

 そして、重要なことは、その「第二次世界大戦の戦後」という時代が終わった時、出てきたものは、自国の主権と価値観とアイデンティティーを持つだけで良しとし、それ以上のことを考えることができない劣化した右派的政治状況であるということだ。これがヨーロッパの大陸でも、イギリスでも起きていることであり、アメリカで起きていることであり、そして、日本でも今起きていることなのである。

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