イギリスのEU離脱
イギリスのEU離脱が国民投票で決定された。
先日、『帰ってきたヒトラー』の映画を観て、ドイツの移民問題はかなり深刻になっていると書いたが、その数日後、こうして今度はイギリスの移民問題の深刻さを見ることになるとは思わなかった。
正直に言って、今回のイギリスの国民投票は、僅差で残留になるだろうと思っていた。そして、離脱と残留は今後も論議になり、将来的には離脱の選択なるだろうと考えていた。最終的には、イギリスはEUを離脱するにしても、もっと時間をかけて慎重に選択していくだろうと思っていた。なぜ離脱をするだろうと思っていたかというと、イギリスはEU加盟の時も、加盟に抵抗していたという背景があることと、EUのやり方はどちらかというと大陸的であり、イギリス本来のやり方に合わないことが多かったからだ。もちろん、そうした多少の無理があっても、EUに加盟してからはイギリス経済はEU市場の中で大きく発展してきた。
ところが、今回の国民投票で即決とも言うべき姿で離脱になった。もちろん、僅差での離脱であり、国民の約半分は残留支持なのである。しかし、離脱決定となると、残留に戻ることはできない。
この決定を受けて、イギリスの世論は大きく分断している。
英下院のサイトには、投票やり直しを求める請願への署名が殺到して、サイトがダウンしたという。残留支持の筆頭都市とも言うべきロンドンでは、市民らを中心に約200人が市街地をデモ行進し、欧州の連帯を呼び掛けたという。デモの人々は、離脱派の勝利により、排外主義や極右思想が勢いづきかねないと訴えているそうだ。
その一方で、EUに加盟しても、なんの利益はなかったと考えている人々も多い。EUに加盟したことで、イギリス経済は大きく成長したが、それが中間層以下も含めた国民全体の利益になっていない。むしろ東欧諸国の人々が、同じEU加盟国内ということでイギリスに移住し、低賃金労働に従事することで、イギリス人の労働を奪い、税金はほとんど納めないと思われている。そうした移民だちに、イギリスの手厚い社会保障が施されるということに、国民の不満は高まっていた。
では、EU離脱で移民問題や格差問題が解決するのだろうかというと、そんなことはない。EU離脱を決定したということで、国内の外国移民者を強制送還させるとでもいうのであろうか。イギリスは、もはやイギリス人だけの社会ではない。実際のところ、イギリスはEU、さらに言えば世界経済全体の中にいるのに、気分だけの「イギリス独立」や「Britain First」は幻想以外のなにものでもない。
だからこそ、移民問題や格差問題は重要な問題なのだ。私たちは、社会を社会としてたらしめているものに、常に向かい合わなくてはならない。貧困はその者たちの努力が足りないかのような考え方は、やがて社会を滅ぼすのである。
今の時代は、政治の現状よりも、実際の社会のグローバリゼーションの方が動きが早い。移民問題にせよ、格差問題にせよ、急速な社会の動きに政治がついていけていない。EUの未来に、イギリスの未来があると思われていない。若い世代には、イギリス一国ではなく、ヨーロッパ全体が活躍の場となる、そうした国境のないヨーロッパの未来を信じている者が多いが、国民の大半にはそうした意識はない。英国女王も離脱派だったという。
おそらくイギリス国民のほとんどが望むことは、EUに加盟し続けつつ、移民問題や格差問題を解決させるということであろう。しかしながら、政治は、本気で移民問題や格差問題を解決しようとしていないと国民は思っている。だからこそ、この国民投票の結果になったのであろう。イギリス経済が混乱し、ポンドの価値が下がり、株価が低迷してもいいから、とにかくEUから離脱したいということだ。政治も経済も、結局のところ、社会という枠の中にある。今回のイギリスの国民投票でのEU離脱は、この世には政治的判断や経済合理性ではない国民感情というものがあることを、まざまざと見せられた出来事であった。
これで、EU残留派が多いスコットランドや北アイルランドは、独立の動きへさらに大きく傾くだろう。
そして、このイギリスの出来事は、世界に波及していく。ヨーロッパでは、今後ますますドイツの影響力が高まっていくだろう。しかし、ドイツ国内も含め、ヨーロッパ各地の右派勢力は、イギリスのこの決定を歓迎し勢いづいている。
アメリカは、かつての宗主国イギリスを通してヨーロッパへの発言力を持っていたが、これでその力も小さくなっていく。また、大統領選挙では、トランプが勝利する可能性が高くなったとも言える。ヒラリーが本気でサンダースが掲げた政策を取り込むことをしなければ、サンダース支持者はトランプに投票するか、あるいは投票を棄権する可能性は高い。しかしながら、体制側べったりのヒラリーにはそれはできないだろう。かくて、アメリカもまた政治的な混乱へと突き進んでいく行く。
« 『帰ってきたヒトラー』 | Main | 「第二次世界大戦の戦後」という時代の終わり »
Comments