トランプが共和党候補者になった
ドナルド・トランプが、アメリカ大統領選挙で共和党候補指名を確実にしたという。これは、共和党支持者として登録をしている有権者の中で、ドナルド・トランプが最も高く支持されたということだ。
当然のことながら、大統領選挙の有権者は、彼ら以外に、民主党支持の登録をした人々と、どちらかの政党を支持しているわけではない無党派層がいて、そうした有権者たちが誰に投票するかで合衆国大統領が決まることになる。民主党の大統領候補者はヒラリーで決まったとなると、これまでサンダーズ支持であった民主党支持者と無党派層がトランプとヒラリーのどちらへ投票するかということだ。もちろん、投票しない、棄権するという「意思表示」もある。
ヒラリーは、有権者たちが嫌っている金融界や軍産複合体の代表である。また、ヒラリーは女性有権者たちかも嫌われている。かつて、クリントン大統領の不倫事件の時、夫をかばい、相手の女性を非難したことから、アメリカ人の多くからヒラリーは女性の敵だと思われている。史上初の女性大統領になって女性の立場を守ると言っているが、これを信じている女性有権者は少ない。
TPPにしても、ヒラリーは国務長官としてTPPを推進してきたわけであるが、大統領選挙で有権者はTPP反対ということになると、ころっとTPP反対派になる人物である。ヒラリーは独自の外交政策を持っているわけではなく、外交的な手腕があるわけでもない。ヒラリーが大統領になったとしても、これまでのオバマ路線が変わることない。
オバマ路線とは、基本的に軍事費を削減し、福祉を重視する政策である。外交的には、中途半端な中東政策、安易なロシア政策、そして正面対立を避ける中国政策である。これは、オバマがどうこうというわけではなく、前政権のブッシュ時代の数々の間違いが、今の状況を作り出している。今のアメリカは「中途半端な中東政策、安易なロシア政策、そして正面対立を避ける中国政策」をせざる得ないのだ。
これを変えて欲しいとしているのが、アメリカの国民感情だ。有権者の望みは、国内の貧富の差はさほど大きくはなく、アメリカ人全体がひとつのまとまりを持ち、超大国として国際社会を統治し、数多くの国々がアメリカに従うという、あたかもアイゼンハワーかケネディ、あるいはレーガンの頃のアメリカになることを望んでいる。しかしながら、これは不可能な望みであり、そうしたアメリカに戻ることはできない。
そうした昔のアメリカを知っている世代が、まだ多いのでトランプが支持されているが、アイゼンハワー、ケネディ時代やレーガン時代を知らない若い世代は、強大であったアメリカを知らない。彼らは、かつての偉大なアメリカをもう一度取り戻すなどと思うことはない。彼らの中から、世界の警察官ではない、新しいアメリカの国際社会での立ち振る舞いはいかなるものであるべきかという新しい世界観の思考が生まれてくるだろう。
もともと、冷戦が終わった20世紀末に、これからの新しい世界のあり方を構築することを始めていれば、今、アメリカはこうしたことになることはなかった。しかし、遅まきながら、そうした動きは徐々に始まろうとしている。今のアメリカは、そうした変革の過渡期なのである。
では、日本はどうだろうか。
元NHKのキャスターで、現在はハドソン研究所の研究員の日高義樹氏は、近著の『トランプが日米関係を壊す』(徳間書店)で、こう書いている。
「いまここで我々が知る必要があるのは、ドナルド・トランプが実際に大統領になるのかという予測もさることながら、なぜトランプの出現によって、アメリカに政治的な大旋風ともいうべき現象が起きたのか、そしてその結果、アメリカの政治がどう変わるのかということである。なぜならば、トランプが大統領になるかどうかに関わりなく、トランプ旋風を巻き起こしたアメリカ人の考え方が、いまや世界に大混乱を巻き起こそうとしているからである。」
この本は、いかにも保守派のシンクタンクであるハドソン研究所の研究員らしいというか、アンチ・オバマの主張が多く、ワシントンの政治が堕落したのも、トランプのような人物が出てきたのも、ずべてリベラル派とオバマが悪いとしている(若干、前政権のブッシュ政権への批判もある)が、そうしたことを差し引いても注目すべき視点がある。この本の中で、日高氏が強調していることは、誰が大統領になろうと、アメリカは日本をもはや守ることはないということである。仮にアメリカ政府にはその意思があったとしても、アメリカ国民はそれを許さないのだ。このアメリカ人の考え方の変化を、我々は知る必要がある。
アメリカはもはや日本を守らないということは、日高氏だけではなく産経の古森氏もこれまで何度も報じてきている。
もし、アメリカ政府から在日米軍の駐留費用の全額負担の要求、もしくは在日米軍の撤退を通告されるということになった場合、日本政府はどうするのであろうか。なにも考えていないというのが現実だ。戦後70年間、日本人は自国をどう守るのかということを思考停止してきた、なるべく考えまい、触れたくないとしてきた。その結果が、対米従属であり、アメリカ任せである。日米安保があれば、それでまったく問題はないとしてきた。安倍自民の安保法もその中にある。3.11以前の原子炉では全電源喪失は想定外であったように、日米安保がなくなることは、日本人において想定外の出来事であった。
新安保法案の争議の時、安倍自民は、今の時代は昔の時代と状況が変わった、だから集団的自衛権でなくてはならないと言っていた。状況は確かに変わった。アメリカ頼みの集団的自衛権でどうこうすることは、もはやできなくなったというように状況は変わっていたのである。今のアメリカの大統領選挙の姿を見て、日米安保でアメリカが中国と戦うと本気で思う人がいたら、よほどおめでたい人としか言いようがないであろう。
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