「パナマ文書」
「通称「パナマ文書」で注目されている租税回避地(タックスヘイブン)、英領ケイマン諸島に対する日本の金融機関の投資や融資の残高が、2015年12月末時点で5220億ドル(約63兆円)に上ることが国際決済銀行(BIS)の公表資料で分かった。「節税」目当てに租税回避地を拠点とした金融取引が拡大しているようだ。 」(毎日新聞 2016年4月15日)
実際のところ、富裕層の個人や企業がタックス・ヘブンを使って節税対策をするということは、よく知られたことであり、むしろ当然とも言っていいことであった。ようするに、金融の世界は「合法的」に富裕層に有利なようにできているのである。
タックス・ヘブン(租税回避地)に財を置くということは、国家はその財に対しての税収ができないということだ。国家の税収は、軍事にも使われるが、教育や福祉・医療の財源である。本来であれば、その国に納められるべき税収が納められない、ということの被害を最も大きく受けるのが途上国である。なぜ貧しい国はいつまでも貧しいままであるのかの理由のひとつがここにある。もちろん、これは先進国も同様で、富裕層が払わない税金の負担は、富裕層ではない人々が大半を占める一般国民が負うことになる。かくて、社会格差というものはこうして拡大していくのである。
何度も強調しなくてはならないことは、税金を払う側が税金として支払う額をなるべく低くしたいとする節税対策は間違ってないことであり、そのひとつとしてタックス・ヘブンを利用するということは法的にも間違っていないということである。しかしながら、「パナマ文書」で明らかにされたような、あまりにも大きな金額になると倫理的には間違っている。これが通るとなると、公共社会が成り立たなくなる。
もう1点、重要なことは、こうしたタックス・ヘブンを使っている企業にも、他のそうでない企業同様に政府からの融資や財政援助を受けているということである。富裕層についても、もちろん「国民」としての扱いを、富裕層ではない人々同様に受けている。しかしながら、税金は支払わないということである。これは、どう考えてもおかしなことだ。
資本主義には「公」という概念がない。その価値観には、基本的にはカネ目当て、カネ儲けしかない。このことは、産業資本主義が本格化し始めた19世紀から初期の社会主義思想家たちによって言われてきた。資本主義は社会格差を広げ、公共社会を崩壊させるということは、産業資本主義が誕生した時から言われ続けてきたことであった。ところが、この200年にわたって、先進国は資本主義をやめることはなく、むしろ資本主義が全世界を覆うようになった。
ただし、この200年、特に20世紀を見ていると、単純な富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるという構図だけでは理解できないことがある。大量消費社会ができたということだ。国家の中の中間層を富ませることによって、国全体が豊かになるという構図である。これを可能にしたのは、20世紀には世界規模の総力戦の戦争があったからである。
総力戦の戦争では、一部の人々や階層だけが力をもって、それで戦争を行うのではなく、国民全員が戦争に参加し国家全体の国力をもって戦争を行う。この計画経済システムが、第二次世界大戦が終わってもそのまま続けられ、このことから20世紀後半の欧米や日本では国民全体が豊かになるという社会が成立した。
このシステムが崩れ始めるのが1970年代である。1970年代から、欧米や日本は、福祉・公共サービスなどを縮小し、公営事業を民営化し、国内経済に外資を導入し、政府による金融業界の監視を緩くし規制緩和をして競争を促進し、また労働者の保護などは廃止するなどの市場原理主義の経済政策へと大きく転換した。その流れの中で起きたのが、冒頭に述べたリーマン・ショックの世界金融危機である。そして、その流れは、リーマン・ショック後の21世紀初頭の今も変わってない。
2011年の「ウォール街を占拠せよ」も、今年のアメリカの大統領選挙での民主党バーニー・サンダース上院議員の社会主義的な主張も、起こるべくして起きた出来事であり、出るべくして出たことなのだ。
今後、多国籍企業や富裕層への監視強化やタックス・ヘブンへの情報公開を強制化させる動きが高まるだろう。しかしながら、多国籍企業や富裕層にそれ相応の税金を支払うようにさせた場合、彼らは国を出て行くという手段がとれる。今のグローバル化した経済に対して、ガバナンスは国家の枠組みの中にあるため有効な対策がとれない。
それにしても、「パナマ文書」には国家主席習近平の親族などや政治局常務委員の親族などの名前もあるということについて、当然と言えば当然のことであるのだが、もはや中国もグローバル経済に組み込まれていることを実感する。今の中華人民共和国は、毛沢東と周恩来が作ろうとした国ではない。
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