ベルギー同時テロ
昨年11月のパリ同時多発テロの時、フランスのオランド大統領とイギリスのキャメロン首相は「イスラム国」掃討のための空爆を強化し、アメリカのオバマ大統領はフランスやベルギーと協力し「イスラム国」壊滅させるため、全面的に協力していくことを表明した。
しかしながら、それでもテロは起きた。22日、ベルギーの首都ブリュッセルの地下鉄と国際空港で爆発テロがあり、計34人が死亡。「イスラム国」は犯行声明を出した。
ようするに、欧米の指導者が「テロを許さない」とか「これは戦争だ」とか言っても、シリアをどれほど空爆しようとも、テロは起こるのである。「テロと戦う」とか「テロを壊滅させる」とかでは、テロを防ぐことはできないということだ。むしろ、逆にテロ活動を活発化させている。
今回のベルギー同時テロは、パリ同時多発テロ事件の容疑者逮捕への報復ということが言われている。もちろん、犯罪行為を起こしたのだから逮捕されるのは当然のことであるが、もともとパリ同時多発テロ事件は、アメリカやフランスなどが、シリアでの一般市民も巻き込んで空爆したことに対する報復から始まっている。
2004年のスペインのマドリードでの列車同時爆破テロは、アスナール政権がイラク戦争に賛同したことへの報復だった。2005年のロンドン同時爆破テロは、イラクやアフガンに派兵しているイギリスへの報復であった。このように、中東のイスラム教徒がある日突然、欧米諸国を恨み始め、テロ犯罪を行っているわけではない。テロをやる側には、テロをやらざる得ない理由がある(ただし、テロをやられた側は、その理由を正当化することができないという事情もまたある)。欧米諸国は、中東のイスラム教徒から恨まれても当然のことをやってきたのである。この歴史的な構造を解決しない限り、テロは続く。
もうひとつは、欧州に今なおあるイスラムへの差別感情である。労働力として欧州に移民してきたイスラム系移民の子供や孫の世代になっても、社会の主流に受け入れてもらうことができず、格差と差別を受ける弱い立場に置かれている。そうした境遇の者たちの中から、IT技術によってグローバルに伝達されているイスラム過激思想の影響を受けて自国内でテロを決行する者が出ている。
生まれ育った国に、アイデンティティーを持つのではなく、イスラムに帰属し、過激イスラム教徒としてのアイデンティティーを選択したということだ。これもまた、そういう選択をせざる得なかったという事情がある。今回のベルギー同時テロにおいても、ベルギーではイスラム系住民の失業が多く、政府に対する不満が高い。ホームタウン・テロに走る土壌があった。
欧米の、イスラム差別感情は根が深い。このへんについては、例えば近代日本の朝鮮差別、中国差別よりも遙かに根が深く、歴史的な時間軸も長い。一方、イスラム側は、古くは11世紀から始まる西欧の十字軍遠征や、19世紀以後の欧米が中東でやってきたことへの恨みがある。
「テロをなくす」ということは、そうした双方の背景や事情や立場や感情を包括した枠組みが必要なのであり、一方的にテロを悪として、軍事力で壊滅させようとしてもできるものではない。現に、壊滅できていない。
フランスのオランド大統領は「パリとブリュッセルでの攻撃を実行したネットワークは絶滅の道をたどっている」と述べ、何件かのテロ未遂犯を当局が逮捕したことを言っているという。そして、「シリアが最初の目的であり、イラクも忘れてならない」と相変わらず軍事力で解決できると思っているようだ。
パリとブリュッセルでの攻撃を実行したネットワークは絶滅したとしても、また新たなテロネットワークが生まれてくる。これに対するために、今後ますます欧州は監視社会へとなっていくだろう。自分たちの社会から自由がなくなり、中東からの恨みを受け続けるというわけだ。これが一番、間違った対応であることを、欧州が気がつくのはいつになるのだろう。
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