ニューハンプシャー州予備選の結果を見て
9日のニューハンプシャー州予備選で、共和党はドナルド・トランプが勝利し、民主党はバーニー・サンダース上院議員が勝利した。
実は、今日の記事のタイトルを「共和党の終焉」にしようかと思った。しかし、終焉というわけでもないなと思ったのでやめた。終焉というわけではないが、共和党は根本的に変わらなくては未来はないと思う。
なにしろ、共和党は、次期大統領選挙の候補者レースで、ドナルド・トランプがトップなのである。どう見ても合衆国大統領の任に合わないこの人物を、共和党の大統領候補にしたいと望んでいる人々が多いということなのである。
この光景を日本から眺めていると、共和党はここまで劣化したのかと思わざるを得ない。政治思想として、アメリカ保守思想は第一級の政治思想であり、アメリカ政治の知的レベルは世界最高であると確信してきた私にとって、この光景は衝撃的なものであった。あの共和党が、ここまで落ちてしまった。日本の総理大臣は誰がなろうとどうでもいいことであるが、アメリカの合衆国大統領である。合衆国大統領は誰がなってもいいと思っているのであろか。アメリカの政治は、日本の政治並の低レベルになってしまったのだろうか。
まっとうな伝統的保守やリバータリアンは、どこへいってしまったのだろうか。これまでも共和党は、大統領選挙でサラ・ペイリンなど極端な保守主義者が出てきたが、トランプほどの極右な人物が出てくることはなかった。共和党の劣化は、共和党支持者の劣化である。つまり共和党支持者は、ろくでもない連中ばっかりになってしまったということだ。このことは、有権者の人口の中で、白人中産階級の層が著しく少なくなったことが理由のひとつとして挙げられる。アイゼンハワーやケネディの頃の輝けるアメリカや、保守革命のレーガン時代のアメリカなどは遠い昔のことになってしまった。
共和党は、いつまでもレーガン時代の幻想にとりつかれていると、今後もますます没落していくであろう。ドナルド・トランプ現象は始まりなのだ。これからも、こういう人物が支持を得る政治集団に共和党はなっていくだろう。本来の共和党は、極右の政党集団ではない。しかしながら、共和党を極右政党にさせている程、国民の中にそうした社会感情が高まっているということである。
このことは、民主党も同じだ。バーニー・サンダース上院議員の主張している政策は「正しい」ものであるが、実行可能なものかというと、そうではない。そもそも、財源の裏付けがない。サンダース上院議員が言っていることをやろうとすると、どれだけの予算がかかり、その予算をどこから持ってくるのかという話がない。今のアメリカの財政では不可能である。サンダース上院議員の政策は、やるとなるとまさしく社会主義革命になる。しかし、格差問題に真っ正面から立ち向かい、資本主義アメリカを切り捨ててもいいとする大統領候補者は、これまで出てこなかった。
その意味で、よく言われているように、この両者は右派、左派の双方で、極端で過激なことを言っている。しかし、それが多数の有権者の支持を受けているということが重要だ。
オバマが大統領になった時、オバマではアメリカは分裂すると言われた。しかしながら、オバマだからではなく、誰が大統領であろうとアメリカは分裂したのであるし、混乱している。つまり、誰々がではなく、アメリカという国そのものが混乱状態にあるのである。アメリカはかつてのような、一部の裕福な白人階級と大多数の中産階級がいる国ではない。問題なのは、この分裂し混乱した社会で、アメリカは、これからどのような政治状況になるのかということだ。そして、アメリカがこのような状態になっているということが、アメリカとアメリカ以外の国々の集まりである国際社会にとって、どのようなことになるのかということだ。
トランプせよ、サンダースにせよ、今後の大統領選挙レースの中で消えていく可能性は高い。しかし、国民の多くは政治への不信感、連邦政府への不満を持っているということは変わることはない。これがいわば地球内部のマグマのように、いつ爆発するかわかわからない状況にあるという状態になるのが、今の、そしてこれからのアメリカである。大統領選挙の勝利者が誰になろうとも、トランプやサンダースを支持した多数の有権者を無視することはできない。政治の優先課題が格差と不法移民である国が、例えば中東派兵や中国やロシアに対しての強固な対応などできるわけがない。これからのアメリカは、オバマの時代以上に「世界の警察官ではないアメリカ」になっていくのである。
そうなると国際社会的には、ますますほったらかしになる中東や中国やロシアを、誰が(どこの国が)どうするのかということになるのである。
2016年の大統領選挙がこれまで以上に混迷状態になっているのは、今のアメリカの政治状況そのものを表している。そして、これは今の国際情勢を表している。ようするに、この先の展望が見えないということだ。
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