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February 07, 2016

憲法改正の前に

 昨日の産経の産経抄。3日の衆院予算委員会で自民党の稲田朋美政調会長が、憲法学者の7割が自衛隊を違憲としているという質問に対して、安倍総理は、7割の憲法学者が自衛隊について憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきではないか、という考え方もあると回答し、改正の必要性を述べた質疑応答を踏まえてのコラムであろう。

 コラムではこう書かれている。

「このままにしていくことこそ、立憲主義を空洞化する」。自民党の稲田朋美政調会長が、3日の衆院予算委員会でこう問いかけたのは道理にかなう。誰が見ても無理がある解釈の積み重ねで切り抜けるばかりでは、憲法自体の信頼性を損なうことだろう。」

 そして、最後はこう書かれている。

「解せないのは、自衛隊違憲論を主張する憲法学者や、専門家の意見を尊重しろと声高に訴えてきた野党議員らの態度である。彼らこそ、憲法と自衛隊が矛盾したり、矛盾が疑われたりしないよう率先して改憲を求めていいはずだが。」

 ようするに、自衛隊は存在している。憲法には、戦力の保持をしないと記載されている。よって、憲法は正しくないのだから変えましょう、という話である。憲法を守る気はまったくない者たちが、立憲主義が空洞化すると言っているのだ。なんとでも言えるものである。

 つまり、戦後70年間、その憲法違反の自衛隊がなぜ存在していたのか、自衛隊が存在していながら、過去の自民党政権は、なぜ憲法を変えることをしてこなかったのか、ということへの思考が産経新聞には一切ないということだ。このへんが、いかにも産経らしい。

 もちろん、産経はこれで良いが、思慮の浅い者たちがこうした声を聴くと、あたかもこれが「正論」(産経新聞の雑誌の名前は「正論」だよな)であるかのように思い込み、ネトウヨになり、安倍信者になっていく。ここに右翼の劣化が始まる。

 戦後70年、自民党と非自民党(社会党や共産党など)のどちらも立脚しているひとつの点があった。それは護憲ということである。今の憲法はGHQが作ったもの、占領軍に押しつけられたものと言えば、確かにその通りである。しかしながら、日本国憲法にあった不戦、永久平和の理念は、敗戦下のどん底にあった日本人たちに希望の光を与えたものまた事実であった。二度と戦争はしない、戦力は持たないという意識は、この時代を経験した日本国民が強く意識している感情である。

 いわゆる戦後の時代というものが、経済発展の時代であったとするのであるのならば、それに対する価値として、日本国憲法の第9条があった。二度と戦争はしない、戦力は持たないという意識と、日本はただの敗戦国ではない、経済で世界大国になるという意識は対になるものであった。

 吉田茂にとって、国民の圧倒的支持を得る護憲であることを貫き通すことによって、冷戦下で自国の軍備は最小に止め、アメリカ軍の基地残留により、国の安全保障を確保し、あとは経済成長に力を注ぐという方法が可能になった。憲法9条と自衛隊は、相反するものではなく、むしろ双方が両立していることに、戦後日本の特筆すべきことがあったのである。

 また、南原繁ら、戦後のリベラル文化人たちが、日本国憲法に盛り込まれた20世紀の世界思想であった不戦、永久平和の理念を保持し続けるという意識、そして国連中心主義であるという意識を持っていたのは、そうした態度を持つことによって、戦前の悪しき日本の漆黒をぬぐい去った、新生の戦後日本のアイデンティティーを国際社会に示すということであったのであろう。確かにそれは、「日本」というカプセルの中だけでの平和主義であり、アメリカの核の傘の下での「世界平和思想」であった。しかし、そうであったとしても、そうであることによって、戦後の日本人は暮らしてきた。

 この感覚は、今なお、日本国民の中にある。

 しかしながら、その一方で、上記の感覚を維持してきた前提条件である、日本の経済成長と世界の警察官アメリカの存在がなくなった。また、国連の影響力など皆無に等しいことは周知のことである。

 だからこそ、国際社会に向かって、日本はどのような「世界はどうあるべきか」という理念を提示するのかということが憲法には記載されなくてはならない。少なくとも、実際には自衛隊があるのだから憲法第9条はなくしましょう、といった程度の低レベルの話では話にならない。

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