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December 29, 2015

慰安婦問題の日韓の政府合意

 日本と韓国が慰安婦問題を最終的に決着させることで合意したという。

 日本と韓国・朝鮮の近代史において、慰安婦問題以上に「問題」であることは数多くある。慰安婦という日本側が悪いに決まっている物事が、なぜこれほど話がこじれるのかまったく理解できないことは、このブログで何度も書いてきた。ちなみに、なぜこれほど話がこじれるのかについては、自分たちが悪いことを認めない日本政府と、自分たちの歴史を正面から見ようとしない韓国政府の双方に原因があることも、このブログで何度も書いてきた。

 韓国政府が設立する財団に、日本政府が約10億円を支出し、両政府で元慰安婦の支援を行うこととし、日本側は「責任を痛感している」と表明する。これで慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決」されることで合意したというのは、まったくもって理解し難い。

 これで「慰安婦問題」なるものが「解決した」というのは、ようするに日本政府も韓国政府も「慰安婦問題」が外交上の障害になっているため取り除きたかったのであろう。しかしながら、「慰安婦問題」を日韓の外交上の障害にしたのは当の両国政府である。

 日本が朝鮮統治とはなんであったのかということをきちんと検証していないように、韓国もまたイルボンの朝鮮統治とはなんであったのかということをきちんと検証していない。日韓はそういうところがよく似ている。自国の近現代史を客観的に考察するという風土というか文化が、西欧と比較するとアジアは低いのかもしれない。しかしながら、最近の台湾では日治時代の歴史研究が進んでいることを思うと、アジアだからどうこうというわけでもないと思う。

 「日韓関係がいつまでも悪化したままではよくない」という世論があり、今回の合意はそれを反映したものだという声があるが、大ざっぱに言って、日韓双方の一般の人々が双方に嫌悪感を本気で感じているとは思えない。日本で嫌韓を煽っているのは政治家であり、右派メディアであり、それらに扇動されているネトウヨである。

 これは韓国側も同様であり、お互いの国の一般の人々は「日韓関係」なるものに「悪化している」とか「良くなっている」とかいった特別な感情は持っていない。ごく当たり前の自然な感情しかない。そこに特別な感情を持たせようとしているのが、政治であり、メディアである。

 むしろ「日韓関係がいつまでも悪化したままではよくない」と思っているのはアメリカである。アメリカの対中戦略は、アメリカ一国が中国に立ち向かうのではなく、日本と韓国を使って中国に対抗しようとしている。日韓双方の政府の関係が悪いとアメリカは困るのである。

 戦後70年、かつてあれほど深く関わってきた中国大陸、朝鮮半島、台湾などのアジア諸国を、日本人はきれいさっぱりと忘れ去ってきた。今日、日本で中国や韓国が大きく扱われるのは、彼らの国の経済が発展し、日本の外交や経済の視野に入ってきたからである。逆から言えば、日本での中国や韓国はその程度の認識でしかない。今回の合意ができたといっても、なにがどう変わるわけではない。

 一方、韓国側はどうだろうか。今の韓国の外交の基本路線は、中国ともアメリカとも良好な関係を持つということである。最近の韓国は中国寄りだと思われている(というか、実際にそうなのだが)のを考えると、今回の合意は、実質的なことはなにひとつ変わらないが、韓国政府は日本(と、その背後にいるアメリカ)と良好な関係を持とうという意思があるということを国際社会に示した行動であった。このことは極めて興味深い。

 何度も言うが、今回の合意で何がどう変わったというわけではない。元慰安婦の人々は「安倍晋三首相が直接『法的に間違っていた』と正式謝罪したわけでない」と日韓の政府合意を批判している。

 今回の日韓の合意を受けて、他のアジア諸国もかつての大日本帝国の従軍慰安婦への賠償を求める動きが始まっている。台湾の総統府は、台湾元慰安婦にも同様の対応をするよう声明を発表した。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの韓国支部は「両国政府の今回の交渉は正義の回復よりも責任を免れるための政治的取引だった」という声明を発表している。今回の合意は、逆にこの問題をさらに複雑にしただけと言えるであろう。

 また、岸田文雄外相が改めて「軍の関与」に言及したことで、日本国内の右派からは非難の声が出ている。「軍の関与」があったことは当たり前であるが、その当たり前のことをなかったとしてきたのが安倍政権である。このへんは一体どうなるのであろうか。こういう原理原則がまったくなく、その場、その場で態度を変えるということ、そのことが日本外交の本質的欠陥なのである。

 信じてきた安倍政権に裏切られたかのような今日の産経の社説はおもしろい。社説の最後はこう書いている。「政府間で合意した以上、指導者はこれを受け入れるよう国民を説得し、支援団体などを納得させるべきだ。韓国側は過去、日本側の謝罪を受け何度か、慰安婦問題の決着を表明しながら、政権が交代し、蒸し返した経緯がある。」と。

 少なくとも、今後、軍の関与を言っているのは河野談話や朝日新聞だけではなく安倍政権もそう言っているということになった。産経新聞はどうするのであろうか。

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