ランド研究所のレポート
孫崎享さんがブログで「衝撃!米ランド研究所、今や台湾(尖閣も範疇)周辺の米中戦闘では中国優勢。中国、嘉手納米軍基地ミサイルで破壊能力」として、アメリカのランド研究所が出したレポート「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃(Chinese Attacks on U.S. Air Bases in Asia、An Assessment of Relative Capabilities, 1996-2017)」について論じている。興味深かったので私もランド研究所のサイトにある原文を読んでみた。
孫崎さんも述べているが、注目すべきは次の一文であろう。
"Moreover, the report finds that China does not need to catch up fully to the United States to challenge the U.S. ability to conduct effective military operations near the Chinese mainland."
つまり、中国は中国本土周辺で効果的な軍事行動を行うことついて、米国の軍事力そのものに追いつく必要はないということだ。なぜか。台湾や日本などの米軍基地をミサイルで攻撃して壊滅させればいいからである。問題は、これまでの時代は、中国にはそうした米軍基地に到達できるミサイル技術がなかった。
しかしながら、ランド研究所のレポートはこう書いている。
"Today, the PLA has the most active ballistic-missile program in the world and deploys more than 1,200 SRBMs, alongside medium-range ballistic missiles and ground-launched cruise missiles capable of targeting U.S. bases and other facilities in Japan."
今日、人民解放軍は、日本の在日米軍基地を攻撃することができる1200発のSRBM(短距離弾道ミサイル)と中距離弾道ミサイル、そして地上発射巡航ミサイルを有している。
このランド研究所のレポートにある図を見てもわかるように、2017年頃にはこの1000発以上のミサイルの射程範囲が、沖縄を含めた日本列島の全域を覆うのである。いわば、日本は中国のミサイル攻撃圏にすっぽりと覆われているということである。
兵器というのは、決まった時刻に決まった場所に命中しなくては兵器ではない。その意味で、北朝鮮の「ミサイル」などというものは、とてもではないが軍事兵器ではない。フォン・ブラウンがまだ若い頃、ドイツのペーネミュンデ陸軍兵器実験場で飛ばしていたロケットのようなものだ。しかし、中国の短距離、中距離ミサイルは近年、命中精度は向上し、十分、軍事兵器として脅威になりうるものである。
通常、ミサイル防衛というものは、敵ミサイル攻撃の全発を全発とも防御することはできず、まず敵がミサイルを撃ったことがわかれば、こちらも即座にミサイルを撃つ。次に、発射された敵ミサイルは空中で破壊しようとするが、何割かは着弾することを想定している。何割か着弾して、その被害を受けながら、残りの場所が敵に報復攻撃をするのである。
ところが、中国大陸と日本列島の間には日本海や東シナ海しかない。この距離で、中国がミサイルを撃ってきたら、日本側も即座にミサイルを撃つことが、現実的に可能かどうかということがある。さらに、巨大な大陸国家ならいざ知らず、日本のような小国の島国に、こちらのミサイル防衛網をかいくぐってしまった敵ミサイルが数発でも到達すれば、その被害は甚大であり、果たしてその後、国家として戦える状態であるのかどうか、かなり難しい事態になる。原発も攻撃目標になっていることは、十分想定できることだ。
原発を攻撃して、その後の占領をどうするのか。原発攻撃などありえないという声があるが、大陸国家にとって、日本列島という小さな島々を汚染地域にしても困ることはないだろう。げんに70年前の戦争では、この国に対して、核攻撃が行われたのである。
つまり、軍事的に言えば、もう日本は詰んでいるということなのだ。また、このことを思えば、今後、米軍が基地を日本ではなく、もっと後方のグアムへ分散させようとしているわけがよくわかるであろう。ランド研究所のこのレポートでも、こうした中国の拡大するミサイル攻撃圏に対して米軍基地を分散させることを提言している。日本に米軍基地を置くことのリスクが高まってきたのである。
今回の新安保関連法の背景には、こうした「もう日本は詰んでいる」状態であるのを、なんとかしなければならないという考えがあることは確かである。
しかしながら、だから集団的自衛権や外国での米軍の後方支援をやるという理解し難いことなのだ。対米従属であり続ければ、アメリカが日本を守ってくれるだろうという「方法」はもう捨てなくてはならない。日本の周辺を取り巻く安全保障の変化を踏まえると、よりいっそうの(対米従属ではなく)慎重な日中関係が求められるものと考えるのが当然のことであろう。中国にミサイルを撃たさせないようにしなくてはならない。外交は軍事と密接に関わっている。外交もまた軍事であり、軍事としての外交を行うことが必要なのである。
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