現実味ない「米軍支援論」
今朝(9月27日)の産経新聞、古森義久特派員がコラム「あめりかノート」で、今回の新安保関連法の批判に頻繁に出てくる「日本は自国の安全に関係のない米国の戦争に巻き込まれる」という主張を否定している。
古森氏がブッシュ前政権時代のNATOに国防総省主席代表として駐在したブルース・ワインロッド元国防次官補にこのことを尋ねてみたところ、ワインロッド氏はこう述べたという。
「たとえ米国独自の戦争や紛争への他国の支援が必要な場合でも米国の軍事能力は全世界的であり、その対象地域を主眼に米軍主体の態勢を組むため、その地域に直接関わりのない国の軍事支援を求める必要がありません。」
「もし米国が軍事的支援を要請しても、今回の日本の安保関連法では日本の安保利害を左右する、あるいは存立にかかわる事例でなければ、日本はなにもできない。さらには拒むことができる。実際に米国のその種の要請を同盟国が断ることは頻繁にあります。」
つまり、アメリカは「その地域に直接関わりのない国の軍事支援を求める必要がありません」なのだということだ。元国防次官補はそのように言っている。
ところが、安倍政権の言う集団的自衛権とは、「必要がありません」と言っていることを「援助したい」「援助できるようになりたい」としている。これはどう考えても理解に苦しむことではないだろうか。「巻き込まれ論」に現実味がないのではなく、「米軍支援論」に現実味がないのである。
もうひとつおもしろい点は、「実際に米国のその種の要請を同盟国が断ることは頻繁にあります」ということだ。支援を断ることは頻繁にあることなのである。実際のところ、日本は朝鮮戦争とベトナム戦争への派兵を断っている。しかしながら、小泉政権は自衛隊をイラク戦争に派兵させた。これは一体、どういうことなのであろうか。
さらに、ワインロッド氏はこう語る。
「米国側でも従来、米国自体のグローバルな安保上の責任を日本に支援してほしいという期待はまったくなかった。しかし日本の防衛に直接に資する米国の安保努力への日本の支援への期待はずっとありました。日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下での米国の防衛努力にも日本が集団的自衛権の禁止を理由に協力をしない状態がこのまま続けば、米国民や議会の多数派は自国が日本防衛のためになぜこれほどの軍事関連資産を投入し続けるのかという疑問を必ずや提起することになったでしょう。」
「日本の防衛に直接に資する米国の安保努力への日本の支援への期待はずっとありました」とは、一体どういうことなのであろうか。日本国内に(特に、沖縄県に)治外法権の米軍基地を多数駐屯させ、思いやり予算を払い、それらの米軍基地は自衛隊が警備活動を行っているものもあり、この上、さらになにを支援せよと言うのであろうか。
「日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下での米国の防衛努力にも日本が集団的自衛権の禁止を理由に協力をしない状態がこのまま続けば」というのもさっぱり理解できない。
つまり、日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下での米国の防衛努力に、日本が集団的自衛権の禁止を理由に協力をしていないということなのであろう。しかし、日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下での米国の防衛努力にも日本が集団的自衛権の禁止を理由に協力をしていないとは、一体いかなることを言っているのであろうか。日本がいつ、日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下で、米国の防衛努力に協力をしないことをしたと言うのであろうか。
しかも、日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下とは、個別的自衛権の適応範囲のことになり、集団的自衛圏のことではない。ワインロッド氏の言う「日本自体の国家安全保障が影響を受ける状況下での米国の防衛努力にも日本が集団的自衛権の禁止を理由に協力をしない状態」とはまったくもって意味不明だ。
「米国民や議会の多数派は自国が日本防衛のためになぜこれほどの軍事関連資産を投入し続けるのかという疑問」についても、第二次世界大戦以後、アメリカが日本に軍事基地を置いてきたことで、これまでどれほど大きなアメリカの利益になってきたのか、理解ができていないように思える。
古森氏は、このコラムの最後でこう書いている。
「だが奇妙なことに日本では同盟国相手の米側のこうした一枚岩とも言える反応は与党からもまず提起されないようなのだ」
奇妙もなにも、これがアメリカ側の一枚岩の反応であるのならば、かなり問題だ。アメリカが論理矛盾の意味不明なことを言っているのならば、こちら側はそれを正さなくてはならない。日本は、中国・韓国に対してだけではなく、アメリカに対しても、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると指摘するという態度をとらなくてはならない。ところが、新安保関連法を支持する人々には、そうした態度がまったく見られないのである。
今回の新安保関連法は、穴だらけで不完全で不十分なものだ。穴だらけで不完全で不十分な法律が通ることは危険なことである。そうした法律はない方が良い。
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