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August 30, 2015

『南京!南京!』

 先日、ニコニコ動画で中国映画『南京! 南京!』を見た。

 この映画は2009年に中国で公開され大きな話題を呼んだ映画である。日本では、1日だけひとつの映画館で上映されたそうだ。日本語版DVDも発売されていない。私は香港版のDVDをネットで購入して持っていたが、まだ見ていなかった。今回、ニコニコ動画で、反日と呼ばれている作品を見てみようという企画のもとに公開されたものである。ネトウヨの牙城とも言うべきニコニコ動画でこの映画を公開するということの興味もあり、見てみた。

 映画の前半は、日本軍と中国軍の南京での市街戦である。この市街戦のシーンは、戦争映画として見た場合、見事なカメラワークの映像になっていて、見応えがある。帝国陸軍は本来、こうした大陸の市街戦や広大な平地での戦闘が主たる任務であったが、太平洋戦争は文字通り太平洋の島々での戦争であって、数多くの太平洋戦争の戦争映画での帝国陸軍は本来の姿ではない。映像で、市街戦で戦う日本陸軍はめったに見れるものではないのだ。この映画は、そのめったに見れない帝国陸軍の市街戦の戦闘シーンがある。

 見ていてつくづく思ったのは、やはり日本軍は装備が貧弱で、例えばヨーロッパ戦線でのドイツ陸軍や英米の陸軍とはとてもではないが比べものにならないなということだ。帝国陸軍は、中国の国民党軍を相手に戦うことはできても、ソ連の機甲師団と戦ったらまず勝てるとは思えない貧弱さである。日中戦争で日本軍が連戦連勝だったのは、国民党軍や八路軍が近代軍隊としては日本軍よりも遅れていたからである。

 映画の冒頭、南京を守備をしていた国民党軍が、日本軍の攻撃を前にして市民を見捨てて脱出してしまう。迫り来る日本軍を前にして南京の城門から逃亡しようとする兵士たちと、それを押し止めようとする兵士たちのぶつかり合いのシーンがある。このへん、南京を見捨てた蒋介石の国民党を批判する視点があるのが興味深い。根本的な話をすれば、国民党はなぜ南京を守らずに逃げたのかという話の一言につきる。

 蒋介石の考えは、日本軍と徹底抗戦することなく、退却をし続けることで日本軍の補給ラインを伸ばし、泥沼の状態の戦争に引きずり込むことであった。しかし、そうした戦略的な撤退であったとしても、一般市民を安全に撤退させることをしなかったのはなぜなのかという疑問が残る。ただし、しかなかったということについては、満州国が崩壊した時、関東軍は一般の日本人を避難させることはしなかった。軍は自分たちだけで撤退し、残された一般市民はソ連軍に蹂躙されるがままになった。沖縄戦で、日本軍は沖縄県民をどのようにしたのかということについては言うまでもない。ようするに、軍隊というのは、必ずしも一般市民を守るわけではないということだ。

 南京に残ったわずかな兵士たちは日本軍と戦うが、当然のことながら勝ち目はなく日本軍の勝利となる。この捕虜となった中国兵士たち、市内に残された一般市民たち、そして日本軍の追求から逃れ、市民の中に隠れた中国兵士たちという、この3者に対して、後に日本軍による「大虐殺」と呼ばれる出来事があったとされているのが、いわゆる南京大虐殺事件の背景である。

 映画の後半は、日本軍よる残虐行為が、これでもかというほど繰り返される。これらは、かなり惨いシーンになっている。中国人であろうが、何人であろうが、こうしたことをする日本に憎悪を感じるのは当然であろう。それほど、日本軍が行う陰惨なシーンが出てくる。とにかくひたすら延々と日本人による理不尽な暴力が繰り返されるだけのシーンが続く。かといって、そうした極悪非道の日本軍を倒して、溜飲を下げる出来事があるわけでもなく、日本人が見ても、中国人が見ていても気持ちのいいものではないだろう。

 ニコ動で見たので、流れ出てくるコメントは、ほとんどが「日本はこんなことはしない」「こんなことをしたら軍法会議ものだろ」という批判や否定が多い。この映画の監督によると、膨大な数の日本兵の日記を読み、そこにこうしたことが書かれていた、決して荒唐無稽な作り話ではないという。

 この映画は、一方的な中国側の視点ではなく、一日本兵の視点から描かれた話になっているという。確かに、良心的な一日本人兵士が登場し、日本軍が行う残虐行為に葛藤し苦悶する話にはなっている。しかしながら、この日本兵士の視点というものが、それほど深くは感じることができない。これはおそらく、この映画の中の「日本」にリアルさを感じることができなかったからだろう。私としては、この兵士に、感情移入がし難い。なぜもっと深く、重く、日本人が共感できるような、この日本人兵士の内面を描いてくれなかったのだろうか。

 むしろ、感情移入ができたのは、中国人女性が慰安婦の募集に対して、躊躇しながら手を挙げるシーンだ。自分が慰安婦になることで、他の女性たちの安全が確保されると考え、この女性は自ら手を挙げる。日本側からすれば「自発的」になるのだろうが、どう見てももこれは「強制」である。この女性の姿に感動を感じるとともに、いかに日本軍が醜悪な連中であることを感じるシーンになっている。慰安婦制度というものを置くことによって、(それら以外の)女性たちは安全が保証され、暴力の恐怖から逃れることができる(といっても、あくまでも表面的なものではあるが)ということがよくわかるシーンだった。

 この映画は、日本軍が行う残虐シーンは、かなり強烈なシーンとして映しているのであるが、良心的な一日本兵士の心情の葛藤があまり深く描けていないように思う。これで、この映画は「一日本兵の視点から描かれた話になっている」と言われても困るであろう。やはり、この映画の重点は戦場における残虐性であろう、ただし、戦場の残虐性がメインテーマであるのならば、どの国でも行われてきた戦争そのものの罪悪を映し出すということになるが、この映画では日本軍が行った戦争の罪悪という、「日本軍が行った」という点に焦点があてられている。

 戦場において、非人間的行為が行われることは事実である。おそらく、監督が読んだという日本軍兵士の膨大な数の日記には、そうした戦場での非人間的行為が書かれていたのであろう。便衣兵と一般市民の見分けがつかず、大量の捕虜の扱いにも困り、捕虜も一般市民も誰もかれも、とにかく全員まとめて建物の中に押し込めて、ドアに鍵をかけて火をつけて建物ごと焼き去るということや、子供を窓から放り投げて殺すということも、個々の場面でいうのならば、そうしたことがあったということは十分考えられる。もちろん、そうした行為は軍紀違反であり、軍法会議になるはずであるが、そういうタテマエの話にはならなかったことは数多くあったであろう。その意味においては、日中戦争のある側面をリアルに描写していると言える。

 この映画では、日本軍に30万人が殺戮されたとしている。今日よく言われているように、虐殺された数が30万人だったというのは考え難い。いわゆる南京で起きたという日本軍による30万人の大量虐殺は、いわば日本軍の非人道的行為を糾弾する政治的なサンプルとして作られた話であったというのが今日の常識的な判断と言われている。

 しかしながら、それでこの話は終わりなのではなく、こうした非人道的な行為を、南京だけではなく中国大陸の各地で、日本軍はやったということは紛れもない事実であり、その歴史は残る。この歴史を日本人はどのように考えるのかという話は、南京大虐殺と呼ばれるものはなかったとしても残り続ける。南京で殺戮されたのは何人だったのかとか、南京大虐殺はあったのか、なかったのかということは、いわば枝葉末節なことであり、こちらの方がずっと大きな課題である。戦前の時代、アジアの各地で、人々に尊敬される立派な日本人は数多くいた。しかし、その一方で、日本人は他のアジア人に対して過剰な攻撃性や残虐性を表してきた。このことをどのように考えればよいのだろうか。戦争だからこうだった、とは一概には言えないものがある。

 この映画を見て中国のみなさんはどう思うか。国が弱かったから、こうした外国の侵略を受けたのだ。国は強い軍事力を持たなくてはならないと思うであろう。現在の中国が行っている、外国の国々から見ると理解し難い程の異常な軍事力増加への傾斜、領土権の主張の背景には、この想いがある。欧米や日本は、中国に国際法の遵守を言うが、中国からすれば、お前たちはこれまでさんざん国際法を無視したことをやってきて、なにを言っているのだという感があるだろう。

 この映画はフィクションである。中国の映画は、検閲を通らなくては公開できない。そう考えてみると、この映画は過去にある国が自国に行ったことの反感と憎悪をかき立てると同時に、現在の軍備増強を正当化させるものになっていると思えなくもない。何れにせよ、今の中国の軍拡の意思の背後にあるものの一つは、近代史における侵略された側の想いがある。

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