「明治日本の産業革命遺産」について
「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録について、先月の21日、岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相の会談では、韓国側は日本に対して強制労働があった事実を施設の説明に併記することを求めた。これに対し、日本側の対応は以下の通りである。
「日本は、戦時中に朝鮮半島から労働者が動員された徴用工の問題は、遺産が対象とする時期より後だとして、当初はこうした説明も必要ないとの立場だった。ただ、世界遺産の登録には韓国の理解が欠かせないと判断し、韓国の主張に配慮。一部の施設で徴用工が働いていた事実を日本が自発的に説明し、韓国も反対しない方向で調整することになった。」
つまり、日本が、である。日本が「徴用工が働いていた事実を日本が自発的に説明」するというものであった。日本は、この通りに対応し、かくて日本の「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への登録は韓国の賛成のもとで行われ、めでたし、めでたしで終わる話であるはずだった。
ところが、この日本が自発的に行った「徴用工が働いていた事実」を、日本側は、これは強制労働を意味するものではないと主張し、あたかも強制労働の記載をすることなく世界遺産の登録をすることを韓国は了承したはずであるのに、不当にも韓国はその約束を反故にし、直前になって強制労働があったことを記載せよ、しないのならば登録は認めないと述べてきたと言い出した。日本はしかたがないので「forced work(働かされた)」と記載した。これは強制労働を意味するものではない。という話にすりかえたのである。
このように見ると、韓国側が日韓外相会談での合意を反故したわけでもなんでもないことがわかるであろう。べつに韓国に悪いことはなにひとつない。むしろ、日本側のあくまでも強制労働を認めまいとする辻褄合わせだったのだ。
この、日本側の強制労働を一切認めない、認めまいとする、いじましいまでの努力をなぜやっているのか。ここが私にはさっぱり理解できない。
今日の国際社会では、当時、日本が膨大な数の朝鮮の人々に強制労働をさせていたというのは周知の事実である。そして、だからといって、日本に対してなにがどうというわけではなく、あの時代はそういう時代だったというのが国際社会の認識である。もちろん、「強制労働」をされられた側の朝鮮(韓国・北朝鮮)は日本を非難している。これは当然だ。非難されることを過去の日本はやったのだから。ところが、世界で唯一、日本政府だけが、そんなことはやっていないと言っているのだ。
「against their will」(自分たちの意思に反して)、「forced to work」(強制労働させられる)というのは、そういう人もいたということで間違いでもなんでもない。これは河野談話での従軍慰安婦について述べたことと同じである。この表現こそ、日韓外相会談で双方が了承した「韓国の主張に配慮。一部の施設で徴用工が働いていた事実を日本が自発的に説明し、韓国も反対しない方向で調整することになった。」ことの現れである。日本側がこうしたことをするということで、韓国側は国内の反日意見を抑え、世界遺産の登録を賛成した。この対応について、日本と韓国の双方どちらもおかしいところはまったくない。
何度も申して恐縮であるが、日韓外相会談で世界遺産の登録は日本が「徴用工」を記載するということで日韓は了承したのである。そのことは上記のように、その時の報道でそのように報じられている。であるのに、なぜ、今になって韓国が裏切ったかのような報道をしているのであろうか。
ちなみに、世界遺産に登録されると、その保全計画をユネスコ世界遺産センターへ報告しなくてはならいのであるが、日本のこの「強制労働を認めたわけではない」発言もあり、世界遺産委員会は施設の保全計画ともに、ここでの朝鮮の人々についての、その歴史の全体像が分かる説明などの計画も2017年12月1日までにユネスコ世界遺産センターへ報告しなくてはならない。この説明の内容がどのようなものになるかでまたひともん着あるであろう。
なにしろ、この国の政府は「強制労働はなかった」と言っているのである。「強制労働だった」とする国際社会が納得できる内容のものができるのであろうか。その内容がユネスコ世界遺産センターが(そして韓国が)承認できないものであった場合、世界遺産の登録は抹消である。
日本政府が「強制労働ではなかった」とするのならば、世界遺産の登録抹消は明らかであり、また韓国のせいにするのであろう。しかし、登録から抹消されるわけにはいかないということで、説明文の英語と日本語で内容を分けるという見苦しい手をまたもや使うものと思われる。
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