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February 15, 2015

世界はテロリストと交渉している

 ビデオジャーナリストの神保哲生さんがやっている「ビデオニュース・ドットコム」というインターネットのニュース専門の放送局がある。先日ここで「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載された論文で「身代金に関する4つの誤謬」というオーストラリアのウーロンゴン大学の国際テロ専門家アダム・ドルニック教授の論文が紹介されていた。

 「フォーリン・アフェアーズ」は値段が結構する雑誌で、オンライン版もそれなりの値段がする。それでもサマリーぐらいは読めるのではないかと、「フォーリン・アフェアーズ」のサイトを探してみると見つけた。また、ウーロンゴン大学のサイトにもあった。

 題名の「Four myths about ransoms: Why Governments Should Pay Up」の「ransoms」は身代金、「myths」は直接の訳は神話であるが、ここでは根拠のない社会的通念のことだ。つまり、日本語の題名にしてみると「身代金に関する4つの根拠のない考え方」とでも言えるだろう。

 最初の根拠のない考え方は、「テロに屈しない」ということはテロリストとは交渉をしないことであるということだ。欧米諸国はテロリストに身代金を支払わないことを表明しているが、デンマークやオランダのように、実際には政府が人質の家族や仲介者などを通じて、身代金の支払いには柔軟に応じていることがあるとドルニック教授は述べている。アメリカとイギリスはテロリストとの交渉を無条件で拒否する立場を掲げている国であるが、殺害にされた最初のアメリカ人人質事件の時、アメリカ政府は人質の家族に身代金を支払うのならば支払う方向で行くことを伝えていたという。またイギリスは政府のセキュリティ会社が身代金を支払う機会をつくることをしていた。ようするに、どの国でもテロリストと絶対にまったく交渉しないというわけではなく、ケースバイケースで柔軟にやっているのである。

 二つ目の根拠のない、間違った考え方は、身代金の支払いすると、さらにまたその国のものが人質にされて身代金を要求されるということだ。これは根拠のないことである。逆に、「テロに屈しない」で身代金を支払わなければ、その後、その国の人々が人質になることはないということも根拠のないことであるとドルニック教授は述べている。テロリストが人質を取るのは、場当たり的な行動でやっていることが多い。その場で、どの国が身代金を支払うから、どの国の人を人質にしようと国籍によって人質を選らんでいるわけではない。一度身代金を払うと、その国の国民はその後も誘拐の危険に晒される、だから身代金を払わないというのは根拠のない話なのだということである。

 さらに、人質事件の数多くのケースは身代金目当てではなく、政治的な威嚇やテロリストの宣伝のツールであることが多い。テロリストによる誘拐の大部分の初期の要求は、一般にグアンタナモ収容所からの仲間の解放や、イラクまたはアフガニスタンからの軍の撤退など政治的なものである。身代金の支払いは、それらの要求のプランBとして使われることが多い。身代金が目的である場合であっても、テロリストは政府が「テロに屈しない」ポリシーであることは知っていて、その上で政府は画策することも知っている。

 三つ目の根拠のない、間違った考え方は、金を払うことはテロリストを助けることになり、さらなるテロを蔓延させることになるので、身代金を払ってはいけないという考えだ。身代金の支払いは、テロリストを助けることにはならないとドルニック教授は述べている。もちろん、数百万ドルの支払いにならば、テロリストを潤わせることになるであろう。しかし実際のところ、最初は大金をふっかけて、交渉の最終段階で身代金はわずかな少額で手打ちになる。そして、身代金を支払い、人質を安全に帰還させたら、今度はこちら側はイスラム国がカネ目当ての不当な暴力集団であることを、全世界に向かってアラビア語で宣伝するのである。彼らには聖戦という大義があることで世界から若者が集まっている。そんな大義などまったくなく、ただのカネ目当ての犯罪者集団であることを世界に喧伝するのだ。イスラム国の大義名分をたたきつぶすのである。そうやって世界で行われているリクルートや、自爆テロの若者をなくさせるのである。それにはカネを受け取ったという事実がなくてはならない。このように身代金支払いは、結局、こちら側の有利になる。なるというか、「有利になる」ようにするのである。

 四つめの間違った考え方は、「テロに屈しない」というのは正しいという考え方だ。テロリストに人質をとられている場合、「テロに屈しない」「テロリストと交渉はしない」は人質を安全に帰還させることにはならない最悪の方法である。軍の特殊部隊による人質奪回作戦は成功する可能性は低く、ほとんどが失敗する。失敗した場合は、人質だけではなく、特殊部隊の兵士にまで犠牲が出る場合も少なくないとドルニック教授は述べている。交渉の余地があるのならば、交渉をするのが当然かつ合理的な対応なのである。相手が身代金を払えば解放すると言っているのだから、身代金を払うのが一番安全な対応であり、そうした交渉ができない場合の最終手段のひとつとして特殊部隊の投入がある。その場合であっても、成功のコスト計算がある。

 また、「テロに屈しない」は、ジャーナリストや医療従事者やNGOなどの活動にも、その活動を妨げ、危険を及ぼすことになるとドルニック教授は述べていることに注目したい。安倍総理は日本は人道支援を積極的に行うと言っているが、これは誘拐される危険のない安全な場所での「人道支援」を積極的に行いたいと言っているのであろう。しかし、人道支援を必要とする場所とは、まさに危険な地域なのであり、さらに言えばもはや安全な場所などどこにもない。

 もし仮に誘拐され人質になっても、政府は身代金を払います、安全に帰還できるようにします。だから、その点については安心してどんどん人道支援をしてくださいというのが政府の方針であるべきだ。政府がそうであって、初めて積極的な人道支援活動を日本は行いますと言うことができるのである。政府はあなたが人質になっても身代金は払いません、安全に帰還できるようにしません。テロリストとは交渉しません。日本国に迷惑をかけないでください。自分の意思で行ったのだから、自己責任でどうぞ死んでください。という対応で、誰が人道支援活動をしに行くであろうか。

 「テロに屈しない」という硬直的な政策は人質を安全に帰還させるものではない。背後に柔軟で巧みな対応のある交渉が、最も安全で短期間に人質を帰還させることなのである。身代金を払ったところで、それが一体なんだというのだろうか。身代金を払ったとしても、その影響はそれほど大きくはないとドルニック教授は述べている。

 ようするに、 「テロリストに過度な気配りをする必要はない」「テロに屈しない」「テロリストとは交渉をしない」と言って、実質的なことはなにもしない、なにできないのはわが国ぐらいで、他の国は裏でいろいろやっている。「テロに屈しない」と言うのは、うちはテロリストと交渉できるほどの交渉力がありませんと世界に公言しているようなものだ。

 本当の強い国は、テロリストとさえも交渉を行う。「テロに屈しない」国になるのではなく、テロリスト相手にも交渉ができる交渉力を持ち、人質を安全に帰還させることができる国が、本当の強い国なのである。身代金で解決するのならば、身代金を払う、人質を安全に帰還させる、つまり、自国民の生命・財産を守る。テロリストさえとも交渉ができる国であることを世界に示す。これが本当の強い国なのである。欧米諸国は「テロに屈しない」といいながら、実はそうしている。「フォーリン・アフェアーズ」誌のドルニック教授の論文を読むとそのことがよくわかる。

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