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February 07, 2015

イスラム国がネットを使うということ

 イスラム国は、インターネットの扱いに長けている。

 かつてこの世に、インターネットがなかった頃、中東のテロリスト集団が日本人を人質にして、世界のどこでも見ることが可能なメディアで、そのことを全世界に表明することによって、それを日本政府に伝える、ということを行うには、それそうとうの困難さがあった。

 どのようにすれば、そうしたことが可能になるのか。まず、日本人を暴力で拉致することはできるであろう。しかし、その後、その拉致したことをどうやって、伝えるべき相手に伝えたらいいのか。「拉致した」という示す証拠は、とりあえず写真であろう。では、まず写真を撮る。テープで音声を録音するのもいいかもしれない。では、テープレコーダーで音声を録音する。次に、それらの写真やテープをどうするのか。メディアのインフラを持っているのは、テレビとかラジオとか新聞とか通信社である。そうした場所に手で持っていくとか、郵送で送るしかない。

 ところが情報テクノロジーの発展が、これら諸々のことを極めて短時間でカンタンにできるようにしてしまった。外国にも通じているメディアのインフラを持っているのは、テレビとかラジオとか新聞とか通信社だけではなく、個人でも持つことができるようになった。写真を撮ったり、動画を撮影したり、文章を書いたり、音声を録音したりして、それらを世界の人々に向かって伝えることは、今の時代、スマートフォンが1台あれば誰でも可能だ。

 誰でも可能だ、の「誰でも」というのは、犯罪者やテロリストも含まれる。犯罪者やテロリストも、そうした技術があれば可能になった、という世の中になった。その昔、冷戦時代、インターネットがアメリカの国防総省といくつかの大学との共同研究から生まれたアーパネットと呼ばれていた時代、まさかこんな世の中になるとは思いもよらなかったであろう。インターネットの技術を生み出し、これを地球全体を覆う規模に広げた人々の意思は、こうしたことにネットが使われることではなかった。本来、インターネットはこうした犯罪者やテロリストに使われるべきものではなかった。インターネットは、こんなもののために生まれてきた技術ではない。

 しかし、「使われるべきものではなかった」と言っても、誰でも使えるものであるのだから、犯罪者やテロリストも使うのは当然のことだろう。中東のテロリストが日本人を標的にする。トーマス・フリードマンは『The World Is Flat』で、経済がフラット化するということは、これからの時代はテロもまた同じようにフラット化するという意味のことを書いていたが、その「これからの時代は」の時代になった。テロのボーダレス化である。

 20世紀の後半、アメリカの西海岸で生まれたパーソナル・コンピュータの思想、個人が表現のパワーを持つということが、めぐりめぐって21世紀の中東のテロリスト集団にもパワーを与えたと考えることができる。その技術が生み出された意図とは大きく異なり、その使い方によって、技術は人々に大きな不幸をもたらす。これはネットだけではなく、そもそも近代の科学技術が本質的に持っている問題だ。もちろん、ネットが人を殺害したわけではない。人が人を殺害する。しかし、イスラム国の影響力の基盤のひとつはネットである。現代の情報通信テクノロジーがなければ、今日のイスラム国の姿は違っていたであろう。

 1995年のアニメ映画『攻殻機動隊』の冒頭は、次の言葉で始まる。「企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、 国家や民族が消えてなくなるほど情報化されていない近未来」。そして、国家や民族や人々の「遺恨」や「怨嗟」がネットを通して拡散され増大化される世界。2015年の今、我々はそうした世界にいる。

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