産経新聞ソウル前支局長の起訴
産経新聞ソウル支局の前支局長が、産経新聞に掲載したコラムで韓国の朴槿恵大統領を中傷したとして韓国の市民団体に告発され、韓国の司法当局は前支局長を在宅起訴した。
この産経新聞のコラムは掲載された時に紙面で読んだ。
朝鮮日報のコラムの方は、旅客船沈没事故当日に朴大統領の動静が確認できないとされる「空白の7時間」について、野党の議員が大統領はどこにいたのかと質問したところ、秘書室長が「居場所については私は知らない」「一挙手一投足を全て知っているわけではない」と回答したことについて、こうした曖昧な回答は隠したい大統領のスケジュールがあるという意味にもとられかねないと延べ、秘書室長の国会でのこうした発言が、大統領があの日ある場所で誰かと密会していたというウワサを世間に広めた結果を招いたとしている。そして朴大統領は国家の大改革を行うというのならば、まず大統領本人や周囲の人々の改革を実行するのが必要だと述べ、秘書室長の更迭を検討する必要があると述べている。つまり、このコラムの趣旨は「空白の7時間」に朴大統領が何をしていたのかではなく、大統領の日程をきちんと把握し、外部の者に伝えることができない秘書室への批判である。
もちろん、韓国では日本のように国家指導者の日程の一部始終を公表することはしていない。しかしながら、そうであったとしても、ある程度の公開をしなくてはあらぬウワサを立てられることもある。このコラムでは、そのあらぬウワサとしてある場所で誰かと密会していたというウワサがあることを述べている。ただし、この密会は汚職や裏取引の密会であって男女の密会というニュアンスはない。 朴大統領は身の回りの改革をすることなしに国家の大改革を成し遂げることができるのかという内容のコラムだった。
ところが産経のコラムは、この朝鮮日報のコラムの趣旨があたかも男女の密会があったというウワサがあり、あれやこれやと勘ぐりをしているになっている。そうした意図をもって朝鮮日報のコラムを読めば、そう読めないこともないと思うが、素直に読めばそんなことは書いていない。これは明らかに産経の悪意のある解釈である。ウワサという未確認情報を未確認情報として流したのは、朴大統領のスキャンダルな内容だったからであろう。
産経は朝鮮日報のコラムのなにに着目したのかというと、朴大統領は国家の大改革を成し遂げることができるのかということではなく、空白の時間に男女の密会をしていたのではないかというウワサに注目したのである。このへん、なにに関心を持ったのかで書く側の意図がわかる。もちろん、なにに関心を持とうと自由だ。朝鮮日報のコラムは朴大統領に男女の密会のウワサ話があることを主題として伝えていると読むことは、いかにも日本のメディアによくある下世話感であって、いわば日本のそうしたごくふつー感覚で読んだのだろう。このへんが、いかにも産経らしい。
私はこのコラムを読んだ時、産経がこうした記事を書くことは普通のことなので、また産経がこうしたことを書いているなと思い、さほど気にもとめなかった。一方、韓国では今でも廃れてきたとはいえ儒教を基盤とする文化の国の国家元首のことである以上、こうしたスキャンダルなうさわ話にはセンシティブになる。逆に、こうしたことにはまったくの鈍感なのが日本のメディアである。
このような、ごくふつーの日本感覚と韓国の実際とのアンマッチは、日本と韓国という異文化間においてよくあることなのであるが、日韓関係がこじれる原因のひとつがここにある。産経のコラムは、あくまでも日本の新聞が日本語で書いた日本国内の読者へのコラムであり、日本感覚であってなにが悪いのかと言われれば、確かにその通りであるが、日本側の我々は悪くないの一点張りが事態をますます混乱させている。日本の国内向け報道が結果的に韓国の反体制勢力を支援したことになることは、これまで何度もあった。今回もその図式になってしまった。
今回の出来事は、言論の自由に対する重大かつ明白な侵害であるとか、韓国のメディアを引用した記事が名誉毀損になるのならば、外国の報道機関は韓国の記事を自由に書けなくなってしまうとかいうレベルの話になるとは思えない低レベルの騒動だ。もちろん、検察に起訴されるべき内容のものでもない。イルボンの産経がまた書いているなですむ話であり、産経というのはそういう新聞なのだで終わる話であったはずだ。
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