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October 2014

October 26, 2014

北京事情

 香港の民主化運動の先行きはいまだ見えてこないが、香港の初代行政長官であった董建華・人民政治協商会議副主席は24日、香港で記者会見し「人民解放軍が出動して対応することはない」と述べたという。元々、先月に始まった抗議運動について香港の今の行政長官の梁振英は北京に武力弾圧の介入を要望したが、習近平国家主席はこれを拒否したということだ。つまり、北京政は香港の騒動は香港当局に任せたいということのようだ

 習近平は今、香港に関わっていられる状態ではない。習政権が今直面している課題は、共産党内部に蔓延する汚職・腐敗の一掃することだ。

 これまで中国では、土地バブルが政治家や役人の不正蓄財のもととなってきた。共産党政権では土地の私的所有はなく、土地は人民のものということになる。人民のものというのは共産主義のタテマエであって、実際は共産党のものである。共産党は農民から取り上げた土地を民間業者にリースで転売するわけであるが、業者はその土地に商業施設や工業団地を造ったりするわけだから高額な値段で転売をする。これらのカネを投資にまわすことで、人口100万人以上の巨大な地方都市が数多く生まれてきたのが鄧小平以後の開放政策での中国経済の発展の実態である。そして、業者は開発権限を握っている地方の党書記や役人にリベートをばら撒いてきた。不正や裏取引が蔓延しているのである。

 さすがにこの不正・腐敗を正さなくて共産党政権そのものへの不満が高まり続けるということで、習近平政権は「反腐敗」キャンペーンを行い、「トラ(老虎)もハエ(蒼蠅)もまとめて叩く」というスローガンを掲げて汚職の摘発に突き進んでいる。

 その摘発された大物政治家が元中国共産党政治局常務委員の周永康である。これほどの上位クラスの政治家が立件されたことは大きな話題となっている。

 周永康の背後には江沢民がいる。習近平と江沢民一派との権力闘争があるという見方もある。汚職撲滅の大義名分のもとで粛正ともいうべき周永康の処分はすみやかに行われるだろう。江沢民一派の勢力をそぎ落とし、やがて江沢民が亡くなれば習近平の天下となる。習近平にとって共産党政権の存続と自身の権力の維持・安定が目下の最大の課題であり、北京から遠く離れた香港のことなど眼中にないであろう。

October 12, 2014

いまさら全球凍結理論を知った

 先日、ニコニコ動画でNHKスペシャルの『地球大進化』を見た。2004年の放送というから、もう10年前の番組である。

 これをテレビでやっていた時は、この番組のことを知ってはいたが、また地球の歴史もの、生命の歴史もの番組かと思って、さほど気にとめず見ることもなかった。

 同様なテーマの番組で1987年にNHK特集『地球大紀行』があった。これは好きな番組でDVDもサントラも持っている。サントラの方は今でも時々聴くことがあるが、番組の方はほとんど見直すことはない。もはや内容についてわかっているという気分があって、もう一度見るまでもないと思っていた。そういうわけで、『地球大進化』が放送された時も見ることもなかった。

 それから10年がたった。この10年、自分の関心は自然科学から離れていた。なにやら過去に大規模な氷河期があったということが最近になってわかってきたということを、なにかで読んだことがあったが、ふーん、そうなのかと気にとめることもなかった。まあ、そうした大規模な氷河期になることはあるだろう、それよりも問題なのは地球温暖化だなと思っていた。とにかく、地球科学については『地球大紀行』で十分だろうと思っていたのである。

 そうしたある日、神保町の本屋でハヤカワ文庫のノンフィクションの棚を、なにかおもしろい本はないかと見ていたら『スノーボール・アース:』という文庫本があった。手にとってペラペラとページをめくってみて、ふーん、地球全部が凍結ねえと思い、あとがきを読むと、地球科学のパラダイム転換だみたいに書かれていた。あーそうなの、パラダイム転換なの、ふーんという感じで、さほどなにを感じることもなく、そのまま本を棚に戻して、それっきりであった。

 そうしたわけで先日、ニコニコ動画をつらつら眺めていたら『地球大進化』があったので、じゃちょっと見てみるかなと思い見てみた。見てみると、これはちょっともの凄いことなのではないかと思い始めてきた。

 神保町の本屋でハヤカワ文庫の『スノーボール・アース』をパラパラとめくった時はさほどなにも感じなかったのに、なぜニコ動で『地球大進化』を見たら大きな衝撃を感じたのか。活字と映像のインパクトの違いということもあるが、ひとつは全球凍結とは地球的規模の凍結のことだけではなく、その時期をどのように生命は生き延びたのか、全球凍結の地球はなぜその状態から元に戻ったのかということを含むものであり、この出来事がその後の生物の爆発的な進化のきっかけになったということが、本屋で『スノーボール・アース』をパラパラとめくっただけでは理解できなかった。

 もう一つは、ニコ動ではコメントがつくということだ。『地球大進化』は、ニコ動のドキュメンタリー動画の中でも人気のある動画でコメント数が多いのであるが、このコメントがまたおもしろいものばかりなのだ。巨大隕石の衝突やスノーボールアース仮説の説明のシーンでは、「うそくせー」という否定コメントも数多く、コメントにつられて自分もまた「ホントかよ」という視点で番組を見る。これがおもしろい。

 テレビの教養番組やドキュメンタリーは、そこで語られていることが真実であると思い込んで見ている。もちろん真実ではあるのだろうが、特に科学番組は本当にそうなのかと思いながら見ることが必要だ。ある学説が説明され、そこに疑問が生まれ、その疑問に答えていくのが学問の基本なのである。その点、ニコ動のコメントは最適で、ハーバードやスタンフォードの学者の語ることに「うそくせー」「ほんとかよ」というコメントがつくのは見ていて楽しく、その「そうくせー」という疑問に答えられなくては科学ではないのである。

 とにかく、10年前の番組である『地球大進化』を見て、なんと!こうだったのかと驚いた。ニコ動で見た後、NHKオンデマンドでも何度も見て、なるほど!こうだったのかと思った。

 言い訳をするわけではないが、恐竜については最新の知識を入手しようとしてきた。恐竜についての新刊の本が出ればチェックし、国内、国外の博物館に行くたびに意識して恐竜の展示を見てきた。しかしながら、恐竜学のバックボーンたる地球史、生命史において、これまでの根本を覆す新しい見方、考え方が出てきていることに自分はなぜ気がつかなかったのか。カンブリア紀以前に巨大隕石落下と全球凍結で大規模な生物絶滅があったこと、地球内部のプレートテクトニクスだけではなくスーパープルームが生物の環境に関わってきたことなど、自分はいかに最近の地球科学を知らなかったことか。現在の気候変動や地球温暖化しか考えることをせず、古い時代の気候変動に関心を持つことがなかった。学問的な大きな視野を持ってこなかった。このへんが素人の浅はかさであった。

 ジェームズ・ラブロックとリン・マーギュリスのガイア仮説は、多分に生物の側から見た地球環境の見方だった。しかしながら、今、新しく惑星地球を主とした地球と生命の歴史の見方が生まれている。人間の想像を超える寒暖の繰り返しをしてきた地球環境の変化の中を生命は生き続けてきた。ガイア仮説とは違う時間スケールと観点で、地球の自然変動と生命進化が密接な関わりをもっているという見方が生まれている。まさに地球科学のパラダイムの変換なのだ。

 10年前にこうしたことがもうわかっていたことを知らずに、今まで自分はなにをしてきたのか。とにかく今、この方面の本をいくつか買い込み、読んでいる。

October 11, 2014

産経新聞ソウル前支局長の起訴

 産経新聞ソウル支局の前支局長が、産経新聞に掲載したコラムで韓国の朴槿恵大統領を中傷したとして韓国の市民団体に告発され、韓国の司法当局は前支局長を在宅起訴した。

 この産経新聞のコラムは掲載された時に紙面で読んだ。

 朝鮮日報のコラムの方は、旅客船沈没事故当日に朴大統領の動静が確認できないとされる「空白の7時間」について、野党の議員が大統領はどこにいたのかと質問したところ、秘書室長が「居場所については私は知らない」「一挙手一投足を全て知っているわけではない」と回答したことについて、こうした曖昧な回答は隠したい大統領のスケジュールがあるという意味にもとられかねないと延べ、秘書室長の国会でのこうした発言が、大統領があの日ある場所で誰かと密会していたというウワサを世間に広めた結果を招いたとしている。そして朴大統領は国家の大改革を行うというのならば、まず大統領本人や周囲の人々の改革を実行するのが必要だと述べ、秘書室長の更迭を検討する必要があると述べている。つまり、このコラムの趣旨は「空白の7時間」に朴大統領が何をしていたのかではなく、大統領の日程をきちんと把握し、外部の者に伝えることができない秘書室への批判である。

 もちろん、韓国では日本のように国家指導者の日程の一部始終を公表することはしていない。しかしながら、そうであったとしても、ある程度の公開をしなくてはあらぬウワサを立てられることもある。このコラムでは、そのあらぬウワサとしてある場所で誰かと密会していたというウワサがあることを述べている。ただし、この密会は汚職や裏取引の密会であって男女の密会というニュアンスはない。 朴大統領は身の回りの改革をすることなしに国家の大改革を成し遂げることができるのかという内容のコラムだった。

 ところが産経のコラムは、この朝鮮日報のコラムの趣旨があたかも男女の密会があったというウワサがあり、あれやこれやと勘ぐりをしているになっている。そうした意図をもって朝鮮日報のコラムを読めば、そう読めないこともないと思うが、素直に読めばそんなことは書いていない。これは明らかに産経の悪意のある解釈である。ウワサという未確認情報を未確認情報として流したのは、朴大統領のスキャンダルな内容だったからであろう。

 産経は朝鮮日報のコラムのなにに着目したのかというと、朴大統領は国家の大改革を成し遂げることができるのかということではなく、空白の時間に男女の密会をしていたのではないかというウワサに注目したのである。このへん、なにに関心を持ったのかで書く側の意図がわかる。もちろん、なにに関心を持とうと自由だ。朝鮮日報のコラムは朴大統領に男女の密会のウワサ話があることを主題として伝えていると読むことは、いかにも日本のメディアによくある下世話感であって、いわば日本のそうしたごくふつー感覚で読んだのだろう。このへんが、いかにも産経らしい。

 私はこのコラムを読んだ時、産経がこうした記事を書くことは普通のことなので、また産経がこうしたことを書いているなと思い、さほど気にもとめなかった。一方、韓国では今でも廃れてきたとはいえ儒教を基盤とする文化の国の国家元首のことである以上、こうしたスキャンダルなうさわ話にはセンシティブになる。逆に、こうしたことにはまったくの鈍感なのが日本のメディアである。

 このような、ごくふつーの日本感覚と韓国の実際とのアンマッチは、日本と韓国という異文化間においてよくあることなのであるが、日韓関係がこじれる原因のひとつがここにある。産経のコラムは、あくまでも日本の新聞が日本語で書いた日本国内の読者へのコラムであり、日本感覚であってなにが悪いのかと言われれば、確かにその通りであるが、日本側の我々は悪くないの一点張りが事態をますます混乱させている。日本の国内向け報道が結果的に韓国の反体制勢力を支援したことになることは、これまで何度もあった。今回もその図式になってしまった。

 今回の出来事は、言論の自由に対する重大かつ明白な侵害であるとか、韓国のメディアを引用した記事が名誉毀損になるのならば、外国の報道機関は韓国の記事を自由に書けなくなってしまうとかいうレベルの話になるとは思えない低レベルの騒動だ。もちろん、検察に起訴されるべき内容のものでもない。イルボンの産経がまた書いているなですむ話であり、産経というのはそういう新聞なのだで終わる話であったはずだ。

October 10, 2014

香港の雨傘革命

 先月の末から始まった香港の若者たちによる金融街や官公庁街の占拠運動は、長期化の様相になってきた。

 香港で完全な民主化が可能になる可能性はかなり低い。それは抗議運動をしている若者たちもわかっているだろう。ということになると、なにをもってこの抗議運動を「完了」とするのか。それがまったくわからず出たとこ勝負になっている。

 それは香港特別行政区政府側も同じだろう。一国二制度でありながらも、香港政府は完全な自治権を持っているわけではない。学生たちの言うこともわからないではないが、現実としてできることとできないことがある。香港政府は北京の支持に従わざる得ない。しかしながら、だからと言って強権をもって学生たちを弾圧することは香港としてはできず、世界のメディアの目もある。なにをもって、どのような点において学生たちと折り合いをつけたら良いのか。その落としどころがわからないのだろう。

 1997年にイギリスから大陸に返還された時から、いつの日かこうしたことが起こることは予想されていたことだろう。今回の香港の出来事は、それほど香港と大陸の関わり合いが進んできたということだ。このままでは大陸に併合されるという危機感と、香港は香港でありたいという要求なのだろう。民主化そのものよりも、「民主化運動」の姿をした香港のアイデンティティーの表明なのである。それは抗議運動をしている学生たちだけではなく、香港政府側もそうであり、また一般市民の人々もそうだ。港人全体の意思の表明でもある。

 だからこそ、香港政府にはもはや香港の抗議運動に対処することができないという判断を北京がすれば、今度は北京が強権をもって介入してくる。つまり、北京預かりの問題になるということだ。こうなると事態はたいへん危険なことになる。ここで国際社会の見方とは逆に、形式的にでもいいから、北京はとりあえずの普通選挙を香港で行うことを許せば、国際社会は中国の見事な統治に拍手を送るだろう。

 しかしながら、これまでの姿を見た場合、中国という国は、地域の文化・伝統をそのまま認めながら全体としての中華人民共和国を維持していくというスキルに長けてない。これからの中国に必要なことは連邦国家のような自立分権の大国になることなのであるが、その方向へ進む動きがない。

 いずれにせよ、この学生たちの民主化運動はこれからどうなるのか。香港政府はどのようにするのか。北京政府はどう動くか。動かないのか。楽観はできない。まったくの予断を許さない状況だ。

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