スコットランド独立の住民投票
スコットランドの独立を問う住民投票の結果は、独立反対の票が賛成の票を上回った。かくて、スコットランドの独立は行われないことになった。
今回のスコットランドの独立投票のことを最初に知った時、雇用や財政や安全保障など、つまり外交と経済の合理性から考えると独立などということはしない方が良いのだが、それでもやるというのはすごいなと思った。スコットランドの誇りや名誉は合理性を超えるということなのだろう。もし独立するとなると、イギリス軍をスコットランド国軍にすることやスコットランドにある核兵器をどうするのかといったことなど膨大な変更作業と混乱が予想される。それでも独立するというのならば、それ相応の理由がなくてはならない。北アイルランドならまだしも、スコットランドである。
もちろん、スコットランドは独自の文化を持った地域であり、イギリスに併合されてからイギリス政府への不信感を高めることが数多くあったのであろう。支配される側の心情は支配する側にはわからないものであることは、もはや支配する側でも支配される側でもなくなった日本と韓国の関係を見てもよくわかることだ。イギリス政府はここまでスコットランドの世論が独立を支持するとは思ってもみなかったのであろう。
8月の世論調査では独立反対の方が多かったが、今月初めの世論調査では独立賛成が多くなり、これは本当に独立ということなるかもしれないということで注目された選挙であったが、結果として独立しないということになった。
いざ投票となって、意識としてはイングランドに従属するのはイヤだが、雇用や財政を考えると独立はしない方が良いという判断をした人が多かったということなのだろう。これは当然の姿だと言える。ということは、雇用や財政に順風満帆な未来が開けていれば、人々はなに気兼ねすることなく国家政府から独立するということだ。
これが独立戦争であったのならば雇用や財政ということよりも誇りや名誉が優先する。アメリカがイギリスから独立したときは、将来の見通しなどなかったであろうが、戦争になった以上、勝って独立する以外になかった。
もうひとつの背景としてEUがある。英連邦王国に所属していなくても、EUに所属すれば広大な市場と安全保障を持つことができる。今回イギリスは独立するならポンドを使わせないと脅したそうであるが、ポンドを使わなくてもユーロがある。ただし、地理的言えばブリテン島の中でポンド圏とユーロ圏ができてしまうわけであるが、できないことではなかった。つまり、スコットランドはイギリスからの独立というよりも欧州連合への一員になることを求めたと考えることもできる。
興味深いのは、独立派が描いてた社会・経済政策は北欧のアイスランドやスエーデンやデンマークから多くを学んでいたということだ。見方によってはスコットランドはイングランドやウェールズの方ではなく、アイスランドやスエーデンやデンマークの方の地域に属すると見ることもできる。ようは、中央政府であるイングランドの社会・経済政策にスコットランドが「従わなくてならない」のは、そもそも「なにをもってそうなのか」ということを突きつけた出来事だったと言えるだろう。
この選挙でスコットランドのイングランドへの不信感が消えたわけではない。これで独立運動がなくなったわけではない。独立賛成の票が多かったグラスゴーでは独立が否決が決定したあと、中心部の広場に、独立賛成派と反対派の住民たちが集まり、一時、緊張した雰囲気に包まれたという。キャメロン首相が約束した自治権の拡大は、スコットランドを優遇するものだとイングランド出身の議員たちから批判が上がっているという。本音のところでは、イングランドはスコットランドへの分権を好ましく思っていない。スコットランドがイギリスにある限り、対立は続く。
また、今回の出来事が北アイルランドとウェールズにも影響を与えることは必至だ。彼らもまたスコットランドのように分権化を求めている。
これは帝国の末路なのだろうか。かつて世界に冠たる大英帝国がこうしたことなるとは、100年前の人々は思ってもいなかったであろう。
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