華山1914文創園区
先月、夏休みをとって今年もまた台湾へ行ってきた。去年行った時は、ちょうど台風が来ている時で台湾滞在中ほとんど毎日雨だった。今年はいかにもこの季節らしい台湾の炎天の天気で、いわば真夏の8月の酷暑の台北を今回初めて体験したわけである。台北市街は高層ビルが建ち並び、道路にはたくさんの車とバイクがガンガン走る。そうした街の中、強烈な日差しとアスファルトの照り返しの中、歩いているとすぐ疲れるしアタマがぼーとしてくる。この時期の台北に来るものではないなと思った。
今回の台湾旅行の目的の一つは今、台湾では日本統治時代の建築物を改築や改装して現代風のおしゃれなお店やカフェにしたりレストランや旅館にしたりするリノベーションが流行っているというので実際にそれを見てみたいと思ったからだ。そうしたリノベーションのスポットとして代表的とも言える華山1914文創園区に行ってきた。
ここは日本統治時代は酒工場であり、このへん一帯は「樺山町」であった。「樺山町」の「樺山」は初代の台湾総督の海軍大樺山資紀から「樺山」からきている。ここに初めて酒工場ができたのは1914(大正3)年である。以来、その規模は大きくなり、1924年には台灣總督府專賣局台北酒工場と呼ばれるようになる。1945年、日本の敗戦により中華民国になり台灣省專賣局台北酒工廠となる。1987年に工場は移転し、工場跡地はそのまま放置され、やがて工場跡の建物に絵を描く若者たちが入り込み、その後、アートイベントの場所となり、2002年に本格的に工場跡の建物を文化空間としてオープンにして再利用するようになった。さらに、カフェやレストランやショップやライブハウス、映画館などが加わり、台北の観光スポットとしても有名な場所になった。
実際に行ってみると、若者や家族づれの人々が多く集まっていた。むしろ、大陸中国からの観光客や欧米人の観光者の姿はなく、日本人の姿も見なかったように思う。酒工場の跡地が見事におしゃれな場所になっていた。
しかしながらその一方で、では何度もここへ来たいと思ったかというと、そうは思わないかった。ショップで売られているものは、いわば見栄えはおしゃれでお土産には良いが日常で使うというものではない。一度来てみて、わー雰囲気いい、おしゃれなお店だなと感じるだけでそれで終わりである。もちろん、そうしたことを感じされるのが目的であり、そうしたことを感じさせる場所なのであるが、その後はどのように顧客を集めるのだろうか気になった。見栄えで集客しているものは常に見栄えを新しくしていかなくては集客は続かない。テナントの入れ替え、改装を常に行っていく必要がある。そうなると逆になじみのお店、いつも行くお店というものではなくなってしまう。
もうひとつ気になったのは場所だ。華山1914文創園区は、地下鉄の駅から少し歩くし、周りにも商業施設があるわけではない。いわば車とバイクが走り回る中にこの一郭がある。ここはもともとお酒の工場であったわけでお酒の工場であるならばこうした場所にあって良かったであろうが、ここをアートスポットとするというのは場所的に不便と言えるだろう。つまり、リノベーションはその建築物の本来の目的とは違うものにするために、地理的な場所で見ると無理を感じさせることがあるのである。場所で言うと、華山1914文創園区は観光客相手の場所とするよりもビジネスオフィスの場にした方が良いのではないと思われる。仕事をする事務所があって、おしゃれなカフェーやバーがあるというのが合うと思う。大都会の中の広大なクリエイティブアート空間と言われているようであるが、ではなにをクリエイトするのか。それが重要だ。
日本との比較を言えば、東京でも台北のようなリノベーション活動が必要だと思う。東京には東京にしかない歴史建築物がある。それらを現代の観点で再利用することはとても必要なことだ。江戸情緒ある町並み、明治・大正の面影のある建造物、古き良き昭和の雰囲気がある場所など、それらは過去の遺物がそのままそこにあるだけでは「過去の遺物」のままである。そうしたものを「江戸情緒ある町並み」「明治・大正の面影のある建造物」「古き良き昭和の雰囲気がある場所」にリノベーションしなくてはそうしたものはならない。
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