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May 25, 2014

『天の血脈』

 安彦良和の『天の血脈』を読んでいる。現在、コミックスの第三巻まで出ている。僕はマンガ雑誌を読んでいないので、マンガは本屋にコミックスで出るものでしか買わない。『天の血脈』は第一巻が出た時に本屋で手に取って少し立ち読みをした。なんか満州辺りに石碑の調査に行く話のようで、その後、これがなにかつなながるような話だった。

 なにしろ安彦さんの作品である。『虹色のトロツキー』や『王道の狗』や『ナムジ』や『神武』や『蚤の王』や『ヤマトタケル』の安彦さんの作品である。コミックス1巻だけで読むのもなんなので、とりあえずもう何巻か出たらまとめて買おうと思って、そのままとした。それからしばらく経った先日、本屋で第二巻、第三巻と出ていることを知って、もうそろそろいいかなと思い、まとめて三巻を買って読んだ。

 時代的に言うと『王道の狗』は秩父事件から日清戦争、『虹色のトロツキー』が昭和初期からノモンハン事件までとするのならば、『天の血脈』はその間を埋めるものになっている。この時期は大変重要な時期だと思う。この時期に何がどう起こったのかでその後の日本の歴史は決まり、そのことが今日まで続いていると言ってもよいだろう。

 『天の血脈』は、一高と東京帝大の合同調査隊が高句麗の第19代の王である好太王の業績を称えた石碑を調査しに行くことから始まる。この石碑の碑文には、4世紀に倭が百残・加羅・新羅を破り支配したという意味の句があるとされた。このことは『古事記』『日本書紀』にある神功皇后が海を越えて新羅、百済、高句麗を支配したという記述とつながり、つまり大日本帝国の朝鮮侵略のイデオロギーを補完するものになった。

 ちなみに、今日ではこの神功皇后による新羅、百済、高句麗の征服、いわゆる三韓征伐は、神功皇后の実在性も含めて史実として確証されていない。征伐といっても、なにを持って「征伐」というのか。今日的な意味でいう軍事侵略や支配とは同じものではないだろう。この三韓征伐については、これはこれで別に詳しく調べてみたい。

 大変興味深いのは、この物語に内田良平が出てくることだ。アジア主義者、黒龍会主幹の内田良平は辛亥革命に関わり、インド、フィリピンの独立運動に関わり、そして朝鮮の日韓併合に関わった極めて重要な人物である。この人が何を考えていたのかということについて大変興味がある。

 ようするに日韓併合とは一体何だったのかという疑問がある。もっと大きく言うと、この時代、日本人は朝鮮をどのように思っていたのだろうかということだ。

 1910年(明治43年)、大日本帝国は朝鮮を併合した。カンタンに言うと日本は朝鮮を植民地にした。しかしながら、例えば1583年(嘉永6年)に浦賀にペリー艦隊が来た時の日本人は、将来、この国が朝鮮を植民地にするようになるとは思ってもいなかった。幕末の知識人たちが考えていたことは、アジア諸国が連携して西洋列強の侵略に対抗するということだった。その意識が明治維新後、アジア主義になる。数多くの人々がアジア主義を持って海を渡った。インドやビルマ(ミャンマー)やフィリピンや朝鮮や中国の独立を求め活躍した。アジア主義が意図するものはアジアへの侵略ではない。そのことは否定できない事実である。

 朝鮮について言えば、朝鮮の独立を本気で望んでいた日本人は数多くいた。日本と共同して朝鮮を独立国家にしようとした朝鮮の人々も数多くいた。何度も言うが、そのことは否定できない歴史の事実だ。ある一点の角度から見れば、本来の日韓の近代史は今の我々が知るものではなかった。日本と韓国はもっと違うお互いの関係を持つことができたはずだった。

 それがなぜこうなってしまったのか。ここのところがはっきりしていないから、21世紀になっても慰安婦や日本軍の残虐行為を正当化する声が後を絶たないのだ。アジア主義であったはずの日本はアジアを裏切ったと言われてもしかたがないであろう。それはなぜだったのだろうか。福沢諭吉の『脱亜論』にあるように「悪友を謝絶」したくなった気持ちはわからないでもない。また当時の世界情勢はアジア主義の理想が通るものではなかったということもわかる。しかし、その上でなお釈然としないものがある。なぜ、この国はこんな近代史を歩んだのだろうか。その「歩み」は今もなお続いているのではないか。

 安彦良和は『王道の狗』において、日清戦争で日本はすでに朝鮮と中国への侵略の意図があったとしている。日本がというのが言い過ぎであれば、陸奥宗光や川上操六は、であろう。しかし、陸奥は外務大臣、川上が軍人であって、彼らの意志がイコール大日本帝国の意志ではない(日清戦争の段階では)。では、『虹色のトロツキー』ではもはや軍事行動として当然のことになっている近代日本の総体の意志としてのアジア侵略はいつ、どのようにして始まったのだろうか。その意志の源はどこにあるとするのか。明治の話と古代の神功皇后の三韓征伐の話が交互して進む物語になっている『天の血脈』でその間を埋めて欲しい。

 第三巻では日露戦争勃発の前である。日韓併合まで話しが進むのかどうかは今はわからないが、今後の進展が楽しみだ。

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