アメリカが朝鮮半島から撤退する日
中長期的に見て、アメリカが朝鮮半島から撤退することもありうるという興味深い見方を日経新聞の鈴置高史氏が『中国という蟻地獄に落ちた韓国』という本の中で書いている。この本は日経ビジネスオンラインでの鈴置高史氏の連載コラム「早読み 深読み 朝鮮半島」を本にまとめたものだ。
まず今のアメリカには北朝鮮核問題を解決する力もその意思もない。アメリカは東アジアの外交トラブルメーカーである北朝鮮にはできるのならばもう関わりたくないと思っている。北朝鮮に影響力を及ぼすことできる国は現状、中国である。そこで韓国としては隣国の核兵器をなくしたいが故に、中国に北朝鮮核問題の解決を全面依存する。そこで中国は北朝鮮の軍部にクーデターを起こさせ、親中政権を樹立し核兵器を廃棄させる。そして、北朝鮮に核の脅威がなくなったので、韓国に在韓米軍の撤退を求める。アメリカは朝鮮半島という重荷から解放されるので在韓米軍を撤退させる、というシナリオだ。
このシナリオは大変興味深い。これは米中韓いずれにもに利益をもたらすというシナリオだ。アメリカは、朝鮮半島にあまり価値を置いていない。ベトナム戦争はアメリカが望んで介入した戦争であったあが、朝鮮戦争はアメリカが望んで行った戦争ではない。アメリカは朝鮮半島から撤退しても、アメリカ国内の世論的には大きな反対の声が出ることもなく、むしろ重荷であった韓国の防衛から解放されることになる。地政学的に言えば、これが正しい。世界の警察官をやめた、つまりアジアの警察官もやめたアメリカには、遠く離れた朝鮮半島にわざわざ軍事力を置く必要がないからだ。
2015年12月に韓国軍の戦時の作戦統帥権がアメリカから韓国に返還される。在日米軍は自衛隊の指揮下には入らないように、在韓米軍も韓国軍の指揮下には入らない。となると、在韓米軍がそのままの編成であるかは疑問である。北朝鮮は核兵器を持つようになる(軍事兵器として使いものになるかどうかは別の話だ)。このことを考えてみると、今の朴槿恵政権の対中傾斜にひた走るのも韓国の安全保障としてうなずけることだ。日本のように対米従属一辺倒ではなく、そうした米中双方に二股をかける韓国の態度にアメリカは警戒心をもっている。また韓国もいざとなったらアメリカが助けてくれるとは思っていない。韓国には日本以上にアメリカへの不信感がある。
アメリカが朝鮮半島から撤退して、一番大きな利益を得るのが中国である。北朝鮮を非核化させ親中政権で支配ができ、かつて日本が日清戦争の時にやったように韓国を「外国軍(米軍)を入れない」「中立化する」といいながら属国にすることができる。つまり日清戦争前の中国の冊封国であった李氏朝鮮に戻るのである。北朝鮮から核がなくなればロシアも喜ぶ。かくて東アジアは、アヘン戦争以前に戻るのである。
今のところ韓国は米中の間でゆれている。アメリカが朝鮮半島から撤退する日が本当に来るのかどうかはまだ明確にはなっていない。しかし十分可能性のある予測である。韓国の反日路線はその米中の間のゆらぎであり、その背後にある米中関係、日中関係がその実体である。
このことで一番不利益をこうむるのが言うまでもなく日本だ。だからこそ、いつまでもアメリカが世界の警察官をやってもらいたがっている人は多い。辺野古に在日米軍がいてもらわなくては困る人が多い。しかしながら、リアルな世界はそうはならない。アメリカなき東アジア、中国が朝鮮半島を掌握した東アジアに日本は直面することになる。韓国の反日路線はその現れのひとつなのである。
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