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December 30, 2013

2013年をさらっと振り返る

 人民日報英語版の12月29日の社説「Abe's shrine visit a flagrant denial of justice」を読んで笑ってしまった。安倍総理の靖国参拝は第二次世界大戦以後の国際社会の秩序への対抗であるかのように書いているが、それでは防空識別圏の設定はどうなのであろうか。日本の防空識別圏は敗戦後の占領時代にアメリカ軍によって設定されたものである。日本は、それをそのまま継承した。であるのならば、これこそ第二次世界大戦以後のアジア圏の秩序のひとつであると思うのだが、それを変更したいとしているのが今の中国なのだ。

 自分たちの都合のいい時だけ、日本は第二次世界大戦以後の国際社会の秩序を壊そうとしている云々と言われるスジアイはない。このように、無理を通して道理をひっこめさせるのが中国のやり方だ。

 ただし、これは中国だけではなく、かつての日本もそうだったし、アメリカもそうだった。さらに言えばドイツもそうだったし、フランスもそうだったし、ロシアもそうだったし、イギリスもそうだった。およそ、ある覇権国の覇権の下で勢力を拡張するためには、無理を通して道理をひっこめさせることをやらなければならない。覇権国が作った秩序にそのまま従っていたら、いつまでたっても秩序を作る側に立つことができない。今日、先進国と呼ばれる国は、多かれ少なかどの国も過去にそうしたことをやってきた。今、それを行っているのが中国なのだ。

 古来中国は、常に北方の脅威にさらされてきた。漢族の社会は、幾度となく周辺の遊牧民からの侵略を受けてきた。中国大陸が遊牧民に支配され、遊牧民の帝国になったことは何度もある。満州族の帝国であった清朝の末期、国民党も共産党の漢族の政治集団であった。その中国共産党が作った中華人民共和国は、漢族の帝国である。今の中国では漢族以外のウイグル族、チベット族、モンゴル族などは自治区として治められ、中共政府の管理下にある。さらに清朝時代から中国の国境を脅かしてきたロシアは、今や往年の帝政ロシアのような露骨な国境侵犯を行う軍事力はない。

 かくて中国は21世紀において歴史上初めて、北方からの脅威にさらされることがなくなった。軍事力を増強し、経済は日本を抜いて世界第2位になった中国は、もはや自分たちの国はアメリカ、ロシアと対等の国だと思っている。

 歴史上、中国は海洋にさほど関心を持ってこなかった。海洋交易をしなくても、中華帝国は大陸での交易で充分豊かだったからである。ただし、例外的に14世紀から15世紀にかけて中国の交易船がアフリカ大陸の喜望峰を越えていた。明朝になって巨大な交易船の建造が禁止され、以後中国は東南アジアの向こうとの海洋交易の関心を持たなかった。

 その中国が東の海に目を転じたとき、そこにあるのはかつてはイギリスが、今はアメリカが地域覇権を持つ東シナ海と南シナ海である。これらの海域を中国の管轄下に置き、自由に進出することができるようにすることが、今の中国の課題であろう。

 防空識別圏の設定は、その第一歩であった。これに対して、アメリカはこれを排除することをしなかった。軍事的に言えばこの海域は、今でも実質的にアメリカ海軍の影響力下にある。しかしながら、国際イメージ的には中国の防空識別圏の設定は「中国の勝ち」になったと言えるだろう。こうして一歩一歩、中国は「無理を通して道理をひっこめさせること」を行い、アメリカの覇権を崩していく。

 今年は中国の経済成長に陰りが出て来たという意見が見られるようになってきたが、陰りが出ようが出まいが中国はさらに経済発展をしていく。中国国内の資源、市場は膨大である。習近平は官僚や役人の不正や汚職を摘発し、沿岸部と内陸部の格差を縮めようとするだろうが、官僚組織や沿岸部の都市はそれに反発するだろう。格差社会が人々の不満を高め、共産党政権は数年後に崩壊するだろうという声をよく聴くが、中国共産党政権はそう簡単には終わらないだろう。共産党は強力な公安警察と人民解放軍を持っている。また、共産党に変わりうる強力な政治組織が今現在存在していない。数多くの問題を抱えながら、それでも中国はチャイナ・ウェイを歩み続ける。

 何度も繰り返すが、第二次世界以後の東アジアこそ、アメリカの覇権力があってこその安定した地域であった。この地域にある日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮、そしてロシアがこの半世紀間、それなりに大規模な軍事衝突をしてこなかった(大陸での国共内戦や半島での朝鮮戦争があったが)のはアメリカの影響力があったからだ。南米や中近東やアフリカでのアメリカの介入はことごとく不幸な結果になったことを思うと、東アジアでのアメリカの介入は(数多くの問題はあるが)それなりに機能してきたと言っても良い。このことは日本を東アジアのアメリカン・ヘゲモニーの拠点としてきたことも良い結果をもたらしてきたと言えるだろう。それが大きく変わろうとしている。

 中国の防空識別圏への日米の対応の違い。また、安倍総理の靖国参拝に対するアメリカ・オバマ政権の嫌悪的な反応は日米関係の実体を変え始めている。もちろん、日本とアメリカの安保同盟は続き、来年も中国に対して様々な対応が日本とアメリカで行われるであろう。しかしながら、それらは表面的なものであって、中国に対するアメリカの対応は必ずしも日本の世論にそうものではないことを日本人は感じ始めている。

 日本の右派は、今回の安倍総理の靖国参拝に対するアメリカの態度に大きな不満を持っている。中国に対するアメリカの曖昧な態度に、アメリカは日本の信頼しえる同盟国なのであろうかという疑問が日本人の中に生まれ始めている。

 もともと日本では親米保守というグループがあるが、保守でもネット右翼は反米であり嫌米である。日本のナショナリズムは周辺のアジア諸国、特に中国、韓国に対して排他的であり、アメリカはそれを望まない。このように中国の台頭は、日本とアメリカの関係を変え始めている。今回の安倍総理の靖国参拝に失望したという声明を発表したアメリカに対して、アメリカ大使館のFacebookには激しい非難が殺到している。

 最近、「活米」という日米同盟を強化し、中国の脅威に立ち向かうという声があるが、そうしたことは成り立たないことがこれでわかるであろう。日米関係の実体はそんな簡単なものではなく複雑である。日本が軍事志向になればなるほど、アメリカはそれを抑えようとする。また、アメリカは日本の憲法改正も認めない。それは日米安保のもうひとつの目的、東アジアにおける日本の再軍備化を防ぐことという敗戦後の占領時代の目的が今でもアメリカにはあることにつながっている。

 今年、安倍総理の発言や行動は日韓関係や日中関係だけではなく、日米関係を大きく悪化させたが、と同時に日本人の中にある潜在的な嫌米意識が表面化し始めたと言えるだろう。

 では、今年のアメリカはどうであったろうか。今年、アメリカは世界の警察官であることをやめたと世界に向かって述べた。シリアのアサド政権への軍事介入をしなかった。オバマ大統領は国民に軍事介入の必要性を述べたが、人々の側はそれを必要だと思わなかった。今年最もアメリカなき世界を感じたのは、サウジアラビアであったろう。

 今年のオバマ政権は、盗聴事件、オバマケア問題、無人攻撃機への批判、等々のさまざな失態があり、オバマ大統領の支持率は低下した。その一方で共和党は、かつてのような求心力を持てなくなっている。保守革命と言われた時代はとうの昔の話だ。共和党がティー・パーティーに引きずられているのは、もはや共和党が今のアメリカ社会と合わなくなってきているからだ。

 オバマという大統領を作ったのは、今のアメリカである。今のアメリカが分裂しているのは、オバマが大統領をしているからではない。オバマが大統領でなくなりさえすれば、かつてのアメリカが戻ってくるかのような見方は間違いである。大統領がオバマであろうと誰であろうと、アメリカは分裂する。次の大統領が共和党になっても変わらない。

 軍産複合体や大手資本は、政治を自分たちに有利なように動かそうとする。メデイアもまたそれに従う。しかしながら、アメリカではそうしたものに対抗しようとする市民意識が高い。いわば体制側と反体制側の言論がせめぎ合うのがアメリカの論壇であり政治である。シリアへの軍事介入にストップをかけたのは、議会が同意しなかったイギリスではなく、アメリカの議会であり、メディアであり、世論である。

 ネット社会では、軍産複合体や大手資本が世論を操作し難くなってきている。もはや今のアメリカは、かつてのようにネオコンが主導し、マニフェスト・デスティニーを掲げ、巨大な軍事力でパックス・アメリカーナを施行する国ではない。それはオバマ以後も変わらない。アメリカは変わり続けている。この底流での変化に気がつくことが必要だ。

 オバマを批判しているのは、過激なティー・パーティーと共和党右派、そして民主党の左派である。このこと自体がアメリカの分裂状態をよく表している。有権者は白人中年男性だけではなく、アフリカ系やその他もいる、女性もいる。そうした人々にアピールするためには、これまで以上に中道にならざるを得ない。しかしながら、中道であるということは、どのグループの要求にも完全に満たすことはしないということだ。かくて、世論は分裂する。オバマ的な右往左往が、オバマ以後も続けざる得ない。それが今のアメリカなのである。そうやって、アメリカは世界の覇権国から徐々にフェイドアウトしていく。今の国際社会は、これまでのようなアメリカ単独の覇権による国際秩序ではない国際社会システムを模索している。

 東アジアは、中国の台頭とアメリカの覇権力の低下による混乱の中で2013年を終えようとしている。しかしながら、これらは確かに大きな問題ではあるが、ボーダーレス経済と情報通信技術でリンケージされている地球社会はアメリカよりも大きい、中国よりも大きい。我々は惑星地球の住人である。アメリカや中国以外の国々もあって人類社会はある。アメリカはそのことに気がつき始めた。あとは中国がこのことに気がつくかどうかだろう。

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