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December 23, 2013

唯一のとりでは日本だ

 先週のニューズウィーク日本版2013.12.24号の「特集:中国の最終目標」の記事「中国の野望を止めるのは日本」は大変興味深いものだった。

 この記事は、中国のアジア支配を止められるのはどこか。考えられるのは4カ国、ロシア、インド、アメリカ、日本だけであるというと述べる。しかし、ロシアはアジアでは中国に大国できる影響力はなく、インドは中国に対抗できる経済力がない。さらに言えば、中国の対外進出はもっかのところ太平洋側に向けられており、その意味ではインドは脅威を感じることがなくすんでいる。となると、残るはアメリカと日本である。だが、アメリカは巨額の財政赤字を抱えており、中国の米国債の購入に支えられていると言っても良い。そもそも、何度も言うがアメリカは中国との対立を避けようとしている。アメリカ国民の大半はアジアのことより中東の方が関心が高い。かくて、中国を相手にする国は唯一日本だけになるのである。この記事はこう述べている。

「従って私の考えでは、中国の覇権に対する唯一のとりでは日本だ。本当の意味で有能で第一線に立つ国は日本しかない。実際、アジアの歴史において中国の支配に対抗してきたのはもっぱら日本だ。その地政学的構図は今も変わらない。」

 実際のところで言うのならば、アジア史において日本は中国の支配に対抗してきたとは言い難い。しいて言うのならば、元朝の侵攻を防いだ13世紀の文永の役と弘安の役ぐらいだろう。あとは日本海に守られて中国からの直接的な軍事的圧力を受けずにきた。日本が中国と本格的に対面せざる得なくなったのは19世紀以後のことである。良きにせよ悪しきにせよ、日本は中国と関わってきた。第二次世界大戦の終わりから今日に至るまでの約半世紀はたまたま中国と関わらずにやってきたわけであるが、これからはいやでも中国とまたもや対面せざる得ない。かつて日本が対面した中国は、東亜病夫の国だった。しかしながら今度は、アジアに覇権を唱え、世界経済第二位の大国になった国である。

 アメリカは同盟国として頼りになるのだろうか。対中国については頼りにならないと言って良い。便りにならないと言うか、何度も言うようにアメリカの目的と日本の目的は違うのである。パックス・アメリカーナよりも、地政学的な要因が大きな意味を持つ時代になったのである。

 この記事は最後にこう書いている。「日本がアメリカ任せの防衛を続けるには中国は大きくなり過ぎた。」と。またしても、ここでも「いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ」なのだ。

 同じ特集の中の記事「オバマの対中政策は迷走中」での「アメリカのアジア外交を迷走させているの大きな理由は、国家安全保障会議(NSC)と国防省のアジア専門家の間における見解の違いだと言っていい。」というのはその通りだと思う。アメリカがアジア政策について日本や韓国が納得できる程の優れた政策を打ち出すことができないのは、オバマ政権には中国についての優れた専門家がいないからである。

 その意味では、中国との関係がアメリカよりも長いイギリスのキャメロン首相の親中政策の方が優れていると言わざる得ない。ダライ・ラマとの会見をして中国政府から反発を受け、当面、中国・イギリスの首脳会談は一切なしかのような扱いを受けたが、キャメロン首相は100人規模のイギリスのビジネス関係者を率いて訪中し、習近平国家主席と会談し、「チベットは中国の一部」とさえ述べた。これからはイギリスは中国語教育に力を入れると言い、結局、防空識別圏や人権問題などに触れることは一切なかったという。

 もちろん、キャメロン首相が中国が気に入るようなことを行っても中国側は表面は笑顔で、内心は冷たく警戒しているであろうが、そもそも外交というものはそういうものなのである。それはイギリス側もよくわかっている。この「そもそも外交というものはそういうものなのである」ということがわかっていないのが日本なのである。

 外交というのはその時、その時の状況に応じて硬軟の双方を使い分ける必要があり、親中である側面もあれば反中である側面も必要だ。その意味で日本の対中認識は嫌中一辺倒であり、こんなことではまもとな外交などできず、まっとうな国の対外認識ではない。「中国の野望を止めるのは日本」だけであることはその通りなのであるが、その日本はもっかのところ子供じみた嫌中感情しかない。防空識別圏についての日本の対応についての国際社会へのきちんとした意思表示も今だない、おそらくこの後もないだろう。

 日本の対中認識が嫌中一辺倒なのは、いざとなったらアメリカが守ってくるという意識があるからである。中国を相手にした外交ができる能力を持っていないので、「嫌中」というカプセルに籠もっているのが今の日本だ。

 本当に自国ひとつで自国の国益を守らなければならなくなったら、いつまでも嫌中一辺倒をやっていればいいわけにはいかなくなる。バイデン副大統領やキャメロン首相のように本心はいやでも親中っぽい態度を取らざる得なくなる。しかし、親中のようで警戒は怠らない。硬軟を使い分ける。それは当然のことであり、当然のことだから国民も「中国に屈するのか」と騒ぐことはない。

 そうした当たり前の国に、なぜこの国はなれないのだろうか。

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