朴槿恵大統領について
韓国の去年の大統領選挙は世代闘争だったとも言われている。保守のセヌリ党大統領候補の朴槿惠(パク・クネ)は財閥、中高年、高齢者層からの支持があったのに対して、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)は中小企業や若者層からの支持があったという。今、韓国では既得権益を持った層とこれから社会で働いていく若者たちの間で利害の不一致がある。
今の韓国では日本と同様に社会の旧態化が進み、若者の就業機会の減少が問題になっている。韓国では大学に入学するのは、日本より競争が激烈である。その激烈な受験競争を勝ち残って大学を卒業しても就職難になっている。この背景には様々なことが言えるが、ひとつは大学生の大企業志向があることが挙げられるだろう。韓国の大学生には、サムスン電子や現代自動車といったに財閥系・大企業に就職できなくては勝ち組になれない意識がある。事実、韓国経済は財閥系・大企業が主体であり、そのピラミッド的構造が強くある。これが韓国経済の強さでもあり、この強さをもって日本との競争に打ち勝ってきたとも言える。しかし、大学生の大企業志向は、そうした世の中であることの反映であり、当然のことながら、そうした大企業に就職できない、しない若者の方が多い。そうした若者が実力を発揮できる場がない。
朴大統領は就任影説の中で「第2の漢江(ハンガン)の奇跡」を成し遂げると述べた。しかし、これはおかしなことだ。父親の朴正煕大統領が行った財閥を中心とした輸出志向型工業化政策であり、独裁政権下の政府主導の経済政策だ。「漢江の奇跡」が今日の韓国の経済を作ったとも言っていい。だが、今の韓国がこの方法をやめて、新しい経済政策に転換しなくてはならない時期にきている。この「漢江の奇跡」こそ、もうやめるべきことであり、またやろうと思っても、もはやこんなことができる時代ではない。今の時代は、お金も人も物も情報も国境を越えて自由に流れている。韓国経済が新しいステージに進むためにも、「漢江の奇跡」という考え方を変えなくてはならい。
ところが、朴大統領はこれをやると言っている。これは朴大統領が当選した時からわかっていたことだ。従来の旧体制が、自分たちを守るために朴大統領を選んだのだ。もちろん、朴大統領は父親の「漢江の奇跡」と同じことをやろうというわけではないだろう。新しい試みも数多く行うであろう。だか、「第2の漢江の奇跡」とわざわざ言うところに、旧体制を守り、経済を変革する意思はないことがわかる。韓国には中国という広大な市場と膨大な労働力がある。中国を頼れば、今の体制を維持していくことができるかもしれない。あるいは「第2の漢江の奇跡」はできるのかもしれない。しかし、それが韓国にとって良いこととは私は思わない。
もう1点、朴大統領についてわからないことは、「3・1独立運動」の94周年記念式典で演説での「加害者と被害者という歴史的立場は1000年の歴史が流れても変えることはできない」という文言だ。人類の歴史の中で、ヨーロッパだろうとアフリカだろうと中近東だろうとユーラシアだろういと南北アメリカだろうと、どこでも陰惨な出来事は無数にある。では、例えばドイツとフランスはどうせよというのか。アメリカとイギリスは。イギリスとインドは。こんなことを言っていたら、なにもできない。まともな人は、こんなことは言わない。もはや話にならない低レベルの見解としかいいようがない。さらに言えば、もしこのセリフを言いたいのならば、日本には言って、なぜ中国には言わないのか。
このままでは韓国は、日本の「失われた20年」のようになる。だからこそ、今回の大統領選挙はその変革の始まりの一歩になるはずだった。しかしながら、結果は旧体制の勝利であり、このままでは韓国の旧態依然とした経済構造は変わらない。
日本を追い抜き、世界に大きく躍進した今こそ、韓国は脱工業化社会へと進んでいかなくてはならない。製造業以上に、ITや金融、科学技術、文化、映画・音楽等々のコンテンツ産業が国の経済の主体になっていかなくてはならない。新しいビジョンを掲げ、国の産業構造を変える政治のリーダーシップが必要だ。
韓国はこれからの10年で、アメリカから離れ、日本を見下し、中国に従うだけのただの小国になるか、韓半島に独立自尊して立国し、アメリカ、中国、日本、その他どこの国とも対等な関係を持つ脱工業化したクオリティ国家になるかどうかが決まるだろう。それが「第2の漢江の奇跡」とか「1000年の歴史が流れても変わらない」とか言った低レベルなことを言っている大統領で大丈夫なのだろうか。
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