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March 03, 2013

韓国は中国を選択する

 先日、『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』(鈴置高史著日経BP社)を読んだ。この人の本は『朝鮮半島201Z年』が出た時に読んでいるが、この時はなるほどこうしたこと(韓国は米韓同盟をやめて中国側につく)はありえるかもしれないなと思った程度だったが、それからわずか2年後の今、この『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』を読むと、これは極めて現実感のある話になったと強く実感した。以下、本書を踏まえ韓国について考えてみたい。

 去年の韓国で大統領選挙に当選した槿惠氏が最初に会った外国の大使は一番目が駐韓米国大使であり、その次は中国大使であったという。これまでの通例としては、二番目は日本大使であった。ところが、今回、日本大使は中国大使の次の三番目だった。もはや、韓国では日本より中国の方が重要な国になった。

 なぜか。理由は二つある。

 一つ目は、当然のことながら、韓国での日本の存在意義は著しく小さくなり、中国の影響力が著しく大きくなったからである。東アジアでの日本の地位の没落はここ数年で(本当にここ数年で!)大きくなった。日本経済の国際競争力は弱くなり、中国・韓国との領土問題での日本政府の対応を見て「日本はなにもできない」と(中国・韓国も含めた)東アジア諸国は思うようになった。竹島や尖閣諸島についての韓国や中国の態度を見て、日本人の多くが「日本は中国や韓国からなめされている」と感じているが、。しかし、「なめられている」というのは、本当はこっちは強い力があるのに、相手から弱いヤツだと思われているという意味があると思うが、実際に韓国や中国からすれば日本は弱くなっているので、日本を弱いヤツと見るのは当然というか当たり前のことになっている。それほど、外国での日本の位置は低くなっている。この事実が、日本の中でごく普通に暮らしているとわからない。

 二つ目の理由は、アメリカの衰退である。アメリカは北朝鮮に対して、やっていることは経済封鎖ぐらいで実質的に有効な対応をしていない。日本の領土問題にも直接的な介入はせず、距離を持って傍観しているだけだ。これは、傍観せざる得ないからだ。中近東と東アジアの両方にアメリカの意向を徹底させるほど、財政問題を抱えた今のアメリカに力はない。オバマのいわゆる「アジア重視」演説があるが、今月から始まる強制的予算削減で真っ先に削られるのが東アジアの兵力であるので、いわばはったりをかましたようなものだ。

 実際のところ、オバマ政権、というか今のアメリカは軍事的にアジアを重視していない。冷戦以後のアメリカがアジアに関心があるのは経済であり、北朝鮮の核武装を阻止することでもないし、急速に膨張する中国の軍事力に正面から対抗することではない。そんな余裕がもう今のアメリカにはない。オバマ外交はなにもしないオバマ政権によりアメリカはますますダメになったとよく言われるが、これはオバマ外交、あるいは民主党政権が悪いのでない。仮にに共和党政権になっても同じだ。アメリカそのものが弱体化しているのである。アメリカの望みはミャンマーに民主主義国家が誕生することと、北朝鮮を懐柔し、中国支配から脱却させることだろう。あとは、フィリピン、ベトナム、マレーシア、そして日本の近海に巡視船を派遣することぐらいである。それで、なんとかアメリカの影響力を維持しようとしている。

 アメリカの衰退を最も強く感じているのは韓国であろう。韓国は小国だ。地続きで北朝鮮があり、中国がある。中国の台頭をまさに肌で感じるように実感せざる得ない場所にいる。韓国の仮想敵国は北朝鮮である。その北朝鮮に影響力を行使できる国がアメリカではなく中国になりつつある今、アメリカ側につくか、中国側につくかの選択を韓国は迫られている。そして、韓国の選択は中国へと向かいつつある。もちろん、すぐにはそうならない。当面は、アメリカと中国の双方にいい顔をする二股外交になる。二股外交でありつつ、じわじわと中国側へ組み込まれていくだろう。

 アメリカの意向は米日韓による中国の軍事力への牽制である。現状の日本はその路線に従っている。しかしながら、韓国はそうはいかない。米日韓の三国による軍事関係の強化を妨げているのは中国であり、中国の意向がそうである以上、韓国は日米と密接な関係を結ぶわけにはいかない。

 特に大きく変化したのが日本との関係である。今、韓国は実行支配をしている竹島のことで日本を刺激したり、日本大使館の前に従軍慰安婦の像を建てて、ことさら対日関係を悪化させているのは、これまで経済で日本を追い抜いた解放感もあるであろうが、中国へのアピールでもある。韓国に対して日本が圧倒的に強かった時代には、そんなことをする必要はなかった。しかし、今や日本は弱くなった。中国は韓国に反日であることを求め、韓国は反日であることで中国側につくことを中国に示している。従って、今後も韓国の反日路線は変わらない。

 強調しておきたいのは、韓国は好きでそうしているわけではないということだ。遠い昔、朝鮮国がこの世にできてから、否応なく朝鮮は大国中国からの侵略と蹂躙と支配を受けてきた。大日本帝国による朝鮮統治は数十年であるが、中国は千年にわたって朝鮮の宗主国であり続けてきた。そして2010年代の今、韓国経済は日本以上に中国に依存している。軍事力についてはもはや話にならない。領土紛争については、日中間の尖閣諸島など子供のケンカと思える程の激しい衝突が韓国と中国の間では起きており、常に中国の横暴に押しまくられ、泣き寝入りするしかない出来事がいくつも起きているという。それが韓国の現実なのである。

 日本の親米は媚米とも呼ばれるが、日本が媚米である以上に韓国は媚中にならざるを得ない。日韓併合して日本がいかに朝鮮の発展につくしたかとか、韓国の今日の発展は日本のおかげである、しかるに韓国は反日をやっているのはなにごとかのような論調が多いが、そんな韓国批判は時代遅れも甚だしい。今の韓国がどうであるかだ。今、韓国は中国のくびきの中に押し込まれようとされている。日本が中国に対して依然として上位であり、韓国に対して影響力を持つ国であり続けていれば、韓国もまた中国に従うことはなかった。

 ところが、韓国は、反日であっても国の経済は成り立つようになった。それほど、ここ数年で韓国経済における日本と中国の位置が急激に逆転した。東アジアにおける中国の台頭の日本の没落は、中国経済そのものが大きくなったというより、本来、日本経済が得るべき利益を中国が得るようになったとも言えるだろう。ここでもし日本が中国経済のターゲットとは違うポイントに移り、そこで韓国でも影響力を持つようになれば、日本は依然として韓国にとって重要な国であり続けた。しかし、そうした産業構造の転換をすることなく日本経済は没落の一途を辿っている。

 近い将来、韓国が中国に完全に組み込まれた時、次の標的は日本になるのではないかと思う。その時、アメリカは今よりも衰退しているだろう。中国は日米同盟破棄を求めてくるかもしれない。日本企業は中国から離れ、東南アジアと関係を結ぶという意見もあるが、日本企業が世界のどこで何をやろうと、結局、中国が立ちふさがってくるだろう。

 アメリカが衰退していく中、巨大になった中国にどう対応すべきなのか。韓国が今直面していることはこのことであり、韓国は中国に従っていくことを選択した。次は日本の番だ。日本と韓国(朝鮮)は歴史が違う。日本は韓国のように中国に従うことはしない。そもそも、できない。しかし、中国は様々な圧力をかけてくる。頼ってきた強いアメリカはもはやいない。ではどうしたらいいのか。日本が考えるべきことはこのことであり、密接な日米同盟を持つとか、米日韓の共同で中国に対抗するとか言っていてもなんの解決にもならない。

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中国に立ち向かう日本、つき従う韓国作者: 鈴置高史出版社/メーカー: 日経BP社発売日: 2013/02/21メディア: 単行本 前著「朝鮮半島201Z年」と同じく、韓国を通じて中国を見るというのが基本コンセプト。 韓国自身の分析も入っているが、韓国を見れば見るほど、中国の影響から逃げられないことがよく分かる内容になっている。 ... [Read More]

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