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March 11, 2013

2年目の3.11

 去年の1年目の今日は台湾にいたので実感もなにもなかったが、今年の今日はこうして東京の自宅にいて、2年前の出来事のことをボンヤリと思い出している。もう2年たったのか。

 東京都民である私には3.11の震災とか津波とかの体験はない。東京都民の大多数にとっては、この日は大地震や津波があった日ではなくバスや電車が止まった日になるのだろう。このことについては、これはこれで考えてみたい。

 しかしながら、なによりも考えるべきことは東北にあれほどの大きな地震と津波とそして原発事故が起きたことだ。そして、さらに考えるべきことは、2万人もの人々が亡くなったということだ。

 あの日以後、テレビやネットの映像で津波の映像を数多く見てきた。船が、車が、家が濁流に流されていく映像を何度も見てきた。救助された人の体験談を聞いてきた。ただ、ここで出てこないものがあった。それは人の死であり、物体としての遺体だ。

 昨日、石井光太著『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)という本を読み始めた。神保町のタリーズでアマゾンでKindle版を購入してKindleで読み始めたのだが、そのあまりに生々しい内容のためがどうかわからないが、気分が滅入ってきて、腹も痛くなり、窓の外を見ると風もかなり強いので、これは家に帰るかと、早々に自宅へ帰った。帰ってまた読み始めたが、読んでいて辛かった。辛かったが、これは読まなくてはならないと思った。昨日、三分の二まで読み、今日残りを読み終わった。

 この本を読みながら、色々考える。死者と生者を分けたものはなんだったのだろうか。この日、釜石にいたということ、津波巻き込まれる場所にいたということ、それだけで人生が終わってしまった、ということをどう受け止めればいいのだろうか。

 印象に残ったシーンがある。震災のあった日の夜、消防団員の人々が、生き残った人がいないかと夜の海辺を歩いていると、遠くから「助けて」という女性の声が聞こえた。海に浮いた浮遊物の上に乗っている、泳げないし暗くて何も見えないという。消防団員の一人が、自分が泳いで助けに行くと言うが、消防団のリーダーの人がそれを引き止める。「今行ったら、お前が死ぬぞ。どうやっても、彼女を助けてやることが出来ない」と。彼は助けを求める女性に声をかけるが、やがて女性の声は海の闇の中で聞こえなくなったという。

 本書のあとがきにこうある。

「震災後間もなく、メディアは示し合わせたかのように一斉に「復興」の狼煙を上げはじめた。だが、現地にいる身としては、被災地にいる人々がこの数え切れないほどの死を認め、血肉化する覚悟を決めない限りそれはありえないと思っていた。復興とは家屋や道路や防波堤を修復して済む話ではない。人間がそこで起きた悲劇を受け入れ、それを一生涯十字架のように背負って生きていく決意を固めてはじめて進むものなのだ。」

 復興ということが、もし震災前の状態に戻ることであるのならば、それはできない。戻ることはできない。亡くなった者たちは戻らない。復興よりも、その前にこの2万人の死を受け止め、受け入れることなく、次のステップである復興はできない。

 この国は3.11があっても、2万人の死者があっても、変わることはなかった。そして、被災地以外の場所、例えば東京はこの震災を忘れようとしている。もとより東京は、10万人が死んだ関東大震災も東京大空襲も忘れている。同様に、3.11も忘れられるだろう。この「忘れる」ということはやむを得ないことだ。しかしながら、変わることがなかったのは、この震災で亡くなった人々を、その遺体を、見るということをしてこなかったからだ。「見る」というのは、実際に目で見る、体験するだけではなく、想像力で、意識で「見る」ことができる。この社会は、その「見る」ということをしていない。

 だからこそ、我々は自分が体験しないこと、直面したわけではない物事を、こうした本を読み、想像力で「体験し」「直面する」ことを行っていく以外に方法はない。

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