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February 17, 2013

アーミテージとナイにノーと言おう!

 (悪の)中国・北朝鮮と対抗する(正義の)日米(そして韓国)同盟という構図が大好きなのがリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイJr.だ。ワシントンDCに、国際戦略研究所(CSIS)「Center for Strategic and International Studies」というシンクタンクがある。昨年ここからリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイJr.らの研究グループによる報告書が発表された。

 この二人は、これまで何度も彼らが中心になって作成した日米同盟についての報告を出している。それらの報告は、例えば在日米軍の兵士による日本国内での犯罪をなくすにはどうしたらよいのかという内容のものではなく、日本の軍事力を高め、自衛隊を米軍の指揮系統の中に置き、アメリカの軍事戦略に従わせるにはどうしたよいのかというものになっている。

 実際のところ、今、世界の国々でアメリカ軍が一番多く駐留している国は日本である。そして、日本はその負担金の大半を支払っている。在日米軍を養っているのはアメリカの納税者ではなく日本の納税者である。そうした観点から在日米軍はどうあるべきかを論じるべきだと思うのであるが、アーミテージとナイにはそのつもりはまったくないらしい。

 去年の8月に出されたレポート「日米同盟 アジアの安定のために」の冒頭は、今の日本は衰退している。アメリカは一流国であるが、日本はこのまま二流国になるのならば、我々のいう提言に耳を傾けることはないというような意味の内容で始まる。衰退しているのはアンタの国だろ、他人の国より自分の国を心配しろと思わざるを得ない。

 日米同盟を強化して中国に対抗しようと言っている人々の特徴の一つは、アメリカは今でも、そして将来も世界最強のスーパーパワーの国であると思っているということだ。この、今の、そしてこれからのアメリカの支配力はどうなるのかという認識は、その人の国際社会観の基本である。この「アメリカをどう考えるか」は実際のところ、今のアメリカ国内の論壇でも絶えず議論されていることであり、「衰退していない」「衰退している」の双方の意見が乱立している。

 これまでも衰退論は数多くあったが、それらの多くは気分的なものだったと思う。数多くの人々がアメリカの時代の終わりを述べているが、その理由の大半が曖昧だった。なんかよくわからないがアメリカは衰退しているのではないか、あるいはアメリカのような超大国は衰退して欲しい、世界は数多くの国々が協力しあって管理していくべきなのだという願望や見方の偏りがあったと思う。

 しかし、今のは違う。今の変化ははっきりとしている。21世紀になり、中国の台頭により経済的にもアメリカのパワーは衰退していることが明らかになった。ITの発達による情報革命は経済を大きく変えたが、今やその変化が国際政治も変え始めている。中国も含めた世界の国々の人々は、生活の豊かさを求めている。

 今、アメリカの国としての力は衰退しつつある。その逆に大きなパワーを持っているのが大学や研究機関やグローバル企業だ。第二次世界大戦後のアメリカ、米ソ冷戦時代のアメリカは確かに世界をリードする超大国だった。超大国としてのゆとりと寛容さがあった。今のアメリカにはそうしたものがなく、イラク戦争で証明されたように、ただの単独主義を突き進んでいる。それが結果的に、アメリカの国としての力の衰退を招くことになった。国としてのアメリカは衰退しているため、ヨーロッパの国々と強調することができないのだ。べつにアメリカがホッブズ的世界にいるからではない。アーミテージはともかく、ジョセフ・ナイほどの優れた国際政治学者が、なぜこれがわからないのだろうかと不思議ではならない。

 アーミテージとナイの報告は、最後の方で日本への提言(Recommendations for Japan)がまとめられている。ざっと読んでみて、私のコメントを述べてみたい。

"Cautious resumption of nuclear power generation is the right and responsible step for Japan.Restarting nuclear reactors is the only way to meet Tokyo’s ambitious carbon dioxide emissions cuts of 25 percent by 2020. A restart is also sensible to help ensure that high energy costs coupled with a high-valued yen do not drive vital energy-dependent industries out of Japan. Taking on board lessons from Fukushima, Tokyo should resume a leadership role in promoting safe reactor designs and sound regulatory practices."

原発の再稼働は日本政府が望む2020年までCO2の排出を25パーセントカットすることができる唯一の方法で、原発をやめて電力コストが高くつくと日本企業は海外に移転するから原発を再稼働すべきだという。福島の原発事故で学び、日本は安全な原子炉を設計する指導的役割をすべきだとあるが、こうした出来事が起きた以上、日本はエネルギー政策をいったん白紙に戻して、根本から作り直すことを行うのが日本政府のやることだと思うがアーミテージとナイはそうは思わないようだ。

"Tokyo should continue active engagement in multinational efforts to combat piracy, protect Persian Gulf shipping, secure sea-lanes, and confront threats to regional peace, such as those posed by Iran’s nuclear program."

ペルシャ湾での海賊掃討やシーレーンの防衛、イランの核兵器製造による平和への脅威に日本も積極的に関わるべきというが、日本の自衛隊は、仮に将来、国防軍という名称になったとしても、本来そうしたことを行う組織ではない。

"In addition to entering TPP negotiations, Japan should examine more ambitious and comprehensive negotiations, such as the proposal for a CEESA, described in this report."

TPPだけではなくCEESAにも参加せよということか。TPPそれ自体についても、もっと検討が必要だろう。

"For the alliance to realize its full potential, Japan should confront the historical issues that continue to complicate relations with ROK. Tokyo should examine bilateral ties in a long-term strategic outlook and avoid issuing gratuitous political statements. To enhance trilateral defense cooperation, Tokyo and Seoul should work to conclude the pending GSOMIA and ACSA defense pacts and continue trilateral military engagements."

とにかくアメリカは日韓に良好な関係を持たせ、米日韓で中国に対抗したいらしい。まあ、韓国と仲良くせよというのは、大いにうなずけることだ、別に中国に対抗するためでなくても、円満な日韓関係は東アジアの安定のために有益だ。この点についてはアーミテージとナイに同意したい。むしろ、アメリカの介入なしに日韓が友好であるのがいい。ただし、双方の国民感情はそう簡単に仲良くなることはできないだろう。

"Tokyo should continue engagement in regional forums and with democratic partners, particularly India, Australia, the Philippines, and Taiwan."

ようするに、日本はインド、オーストリア、フィリピン、台湾といった民主主義の仲間と仲良くせよと言っている。中国は「democratic partners」ではないから仲間に外すということか。では「democratic partners」で仲間を分けるのではなく、東アジアでまとまれば、みんなまとまるではないかと思う。ただし、それだと今度はアメリカが仲間はずれになる。では、いっそのこと太平洋諸国とするか。

というか、全世界はグローバルにつながっているのであり、それを敵、味方に分けることがおかしい。 democratic partnersであるから仲良くしよう、 democratic partnersではないから敵である、という考え方自体がそもそも時代遅れなのである。今の時代、世界の各国は軍事紛争を避けるようになってきている。この流れは今後ますます大きくなり、やがて主流になるだろう。そうした時、今の「軍事力による力の均衡が平和をもたらす」などという考え方はまったく通じなくなるだろう。

"In a new roles and missions review, Japan should expand the scope of her responsibilities to clude the defense of Japan and defense with the United States in regional contingencies. The allies require more robust, shared, and interoperable ISR capabilities and operations that extend well beyond Japanese territory. It would be a responsible authorization on the part of Japan to allow U.S. forces and JSDF to respond in full cooperation throughout the security spectrum of peacetime, tension, crisis, and war."

ここでのポイントは「that extend well beyond Japanese territory」つまり、日本国の領土、領海を越えた外国で日本は新しい役割と使命なるものを果たせということだ。そのために米軍と自衛隊は十分な協力を行うという。いわゆる集団的自衛権である。自衛隊はアメリカ軍のいち下位機関として、アメリカの戦略に従って世界で活躍せよというわけか。

At the first rhetorical sign or indication of Iran’s intention to close the Strait of Hormuz, Japan should unilaterally send minesweepers to the region. Japan should also increase surveillance of the South China Sea in collaboration with the United States to ensure freedom of navigation.

ホルムズ海峡への掃海艇派遣、 アメリカと共同で航海の自由を守るために監視活動を行うべきであるというが、そもそも自衛隊はそうしたことを目的とした組織ではない。それらをやれというのならば、かなりの改変が必要になる。その費用は誰は支払ってくれるのだろうか。

Tokyo should enhance the legal abilities of the MOD to protect bilateral and national security secrets and confidential information.

防衛省の機密保持の法的権限を高め、日米の情報の漏洩を防げということか。それはまあ当然だな。

To enable fuller participation in PKO, Japan should extend the latitude of peacekeepers to include protecting civilians and other international peacekeepers, with force, if necessary.

とにかくアーミテージとナイは、自衛隊にPKOに出て欲しいようだ。しかしながら、今の日本は国の内外にやるべき問題が山積し、それらのことをやるゆとりもカネもない。

 以上、どれもこれもアメリカ(の米日韓で中国に対抗しようと言っている人々や軍産複合体)に都合がいいことだらけだ。

 しかしながら、だからアーミテージとナイは悪い、間違ったことを言っている、というわけではない。これが彼らの仕事なのである。彼らはアメリカ人として、日米同盟に関わるアメリカ側の当事者として当然のことをやっているだけだ。問題なのは、こうしたアメリカにとって都合がいいことを、さも日本にとって良いことかのように言う大手メディアなのである。

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