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February 10, 2013

ヘリテージ財団のクリングナー報告について

 前回書いた「ワシントンDCではタワゴトとしかいいようがない扱いになっている」ということについて、もう少し考えてみたい。

 アメリカは、大きな枠組みで云えば増大する中国の巨大な軍事力に対抗すると同時に、またその巨大な経済力と結びつき共存共栄をしていこうとしている。その一方で、アメリカは中国に対抗するにあたって、第二次世界大戦の敗戦国であり、その後アメリカの同盟国として東アジアの対共産主義の前線基地でもあった日本を有効活用しない手はないとしている。つまり、アメリカにとって日本は、ミクロレベルでは今では衰退しつつあるアジアの小国であるが、マクロ的にはアメリカのアジア戦略にとって今でも重要な意味を持つ同盟国である。

 例えば、ヘリテージ財団 (Heritage Foundation)のクリングナー報告と呼ばれるものがある。ヘリテージ財団というのは、石原慎太郎前東京都知事が「尖閣諸島を都が買います、文句ありますか」と発表スピーチを行ったワシントンDCにある保守系のシンクタンクである。

 このクリングナー報告「U.S. Should Use Japanese Political Change to Advance the Alliance」(アメリカは日本の政治的な変化を利用して同盟を強化すべきである)が今の日本について最も注目していることは、日本人の政治意識の変化だ。どのような変化なのかというと、中国の台頭が日本人にナショナリスティックな感情を持たせ、それが日本人自身の手による憲法の改正と、より強力な軍事力を持つこともためらわなくなってきたという変化であるという。日本人は強力な政治リーダーを求めるようになった。そして、この変化は日本がかつての大日本帝国のような周辺諸国を圧倒しアメリカに対抗する軍事大国になるわけではなく、アメリカ寄りの現在の関係は変わることがないとしている。この流れの上に、今回の自民党の圧勝と安倍政権の誕生があるという。

 クリングナー報告は云う、

"Making clear that Japan cannot continue to rely solely on others to defend its overseas interests. Tokyo should accept greater international security responsibilities commensurate with its status as a major nation. Japan could, for example, enhance efforts to defend sea lines of communication."

「日本はもはや他国に依存するだけで海外での国益を守り続けることはできないということをはっきりさせよう。日本政府は、大国としての地位に見合った国際的な安全保障上の責任を受け入れるべきだ。例えば、日本はシーレーンの防衛の努力を高めることができる。」

"Urging Tokyo to increase defense spending to fully meet national and allied security requirements. "

「日本政府に対して、自国の防衛と同盟国の安全保障を十分に果たすことができる防衛支出を増大させるよう求めよう。」

"The next step would be a greater willingness by Japan to assume greater responsibility for its own defense as well as addressing international security concerns. The United States should encourage this new trend, as it is consistent with America’s own national security objectives."

「次のステップは、日本が自国の防衛に対する大きな責任を負う強い意思を持ち、国際的な安全保障の脅威に対処することだ。アメリカは、アメリカの国家安全保障上にも沿う、この新しい流れを促すべきである。」

 興味深いのは、このクリングナー報告は安倍晋三を高く評価しておきながら、韓国との不和を招くような歴史修正主義的な言動は慎むようにとしていることだ。安部政権は「河野談話」の見直しをしようとしているそうであるが、アメリカはこれをやらないようにして欲しいとしている。つまり、日韓関係がもめるのは困るということだ。クリングナー報告が主張したいことは、米日韓の三国による軍事同盟によって中国に対抗しようということだからである。そのためには日本と韓国が不仲になってしまっては困るのである。

"greater South Korean-Japanese military and diplomatic cooperation. For example, implementing the bilateral GSOMIA intelligence-sharing agreement would enhance allied deterrence and defense capabilities against common threats."

「より強固な韓国と日本の軍事と外交の協力を促進する。例えば、日本と韓国との軍事情報に関する包括的保全協定(GSOMIAのような情報共有協定は、同盟関係を深め、日韓共通の脅威に対応する防衛能力を強化する。」

 すなわち、クリングナー報告の主張していることは、現在の日本のナショナリズムの高まりに乗じて、アメリカは日本に自国の防衛と東アジアの安全保障に十分に対処できる軍事力を持つことを促すべきであり、日米同盟のさらなる強化と日米韓の三国で中国に対抗する方向へ進ませるべきである、ということだ。

 この報告を一読して思うのは、日本が憲法を改正し、強力な軍隊を持ったとしても、それは中国に対してであり自分たち(アメリカ)には逆らうことは決してないという見方や、韓国ともめ事になることは避けるべきだということなど、日本人のナショナリズムを、ずいぶん自分勝手というか自分たちに都合がいいように解釈している。例えば、日韓秘密情報保護協定は昨年、日本と韓国の間で結ばれる予定であったが、今現在、結ばれていない。韓国のナショナリズムは日本とそう簡単に手を結ぶことを拒んだのである。日本も韓国もアメリカの思い通りにはならない。

 CIAは自国に有利になるように外国で様々は工作を行ってきたし、今も行っているが、現実はアメリカに都合がいいようにはならなかったという事例は数多くある。クリングナー氏はもともとCIAの韓国支局長だったそうであるが、韓国の国民感情についてよくわかっていないようだ。日本についての考察も、よく調べてはいるが、いかにもCIA的な分析だと言えよう。

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