アメリカの財政に依存する日本の安全保障
アメリカの大統領選挙はオバマが僅差で勝利した。実際のところ、民主党オバマも共和党ロムニーも政策的には大きな違いはなく現実中道路線とも言うべきものだった。このへんは保守とリベラルの二つのアメリカの伝統的論壇のどちらからも大いに批判があったが、有権者としてはカリスマ的魅力があり、この4年間の実績があるオバマを選んだ人の方が多かった。それだけと言えば、それだけの大統領選挙であり、前回のアンチ・ブッシュと「チェンジ」のスローガンに大いに盛り上がった選挙とはうって変わった選挙だった。
アメリカの政治論壇は世界最高の知的論壇であり、アメリカ政治の背景にはこれがある。しかし、当然のことながら実際の政治と政治論壇は違う。ブッシュ前政権の誤りは現実感覚を失い保守派論壇に引きずられたことである。これに対して、オバマは民主党左派寄りの理想主義者として大統領になったが、この4年間やってきたことは共和党穏健派が言っていることと同じだった。現実の政治は。中道・穏健にならざるを得ない。
その意味で、オバマはくどいようであるが前政権のような間違いをせず、きわめて現実感のある人と言える。逆から言えば、アメリカの政治といえども、もはや保守やリベラルのイデオロギーや建国の理念がどうこいうという話で決まっていくものではなくなったということだ。
数多くあるブッシュ政権の負の遺産の中で最も大きいものが財政問題であろう。
産経新聞11月17日朝刊の「土曜日に書く」コラムの「同盟国脅かす米の「財政の崖」」は興味深いコラムだった。アメリカが財政上の理由から日米同盟の規模を縮小せざる得ないことは、かなり昔から言われていることであり、産経新聞は今頃何を言っているのかと思ったが、産経新聞ですらこの話を無視することができなくなったということなのであろう。
アメリカは、財政上の理由から日米同盟の規模を縮小せざる得ない。これは合衆国大統領が民主党になろうが共和党になろうが同じである。よく中国贔屓の民主党ではなく、共和党が政権を担えば日米同盟は強化されるという意見があるが、そうしたことは日米同盟関係者や日米同盟で利益を受ける人々の希望であり願望にすぎない。増大化する中国の脅威に対応するために日米同盟をより強固にする必要があるとかいう声があるが、そう願っているのはその人個人の話であって、とうのアメリカ合衆国にはそんなカネもゆとりもない。それほど、アメリカの財政は危機的状態になっている。この危機的状態を作ったのはブッシュ前政権であり、不幸にもオバマはそれを受け継いでいかなくてはならなくなったのがこの4年間だった。
上記の産経新聞のコラムは、アメリカの「財政の崖」に直面しているが故に、日本の防衛と国民の安全も崖っぷちに立っているとしている、
しかし、これはおかしな話だ。アメリカの財政に、日本の安全保障が依存しているというのである。アメリカという他人の国の財政状況を日本がどうこうできる話ではない。つまり、我が国がどうこうできるものではないものに、我が国の安全保障がかかっているということなのだ。そうした状態であることに疑問を感じないのだろうか。
本来は、アメリカの財政状態がどうであろうと日本の安全保障は万全であるということになるべきであろう。このことを踏まえれば、中国の軍事的脅威があるのならば、だから日米同盟を強化せよという話にはならない。
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