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November 2012

November 18, 2012

アメリカの財政に依存する日本の安全保障

 アメリカの大統領選挙はオバマが僅差で勝利した。実際のところ、民主党オバマも共和党ロムニーも政策的には大きな違いはなく現実中道路線とも言うべきものだった。このへんは保守とリベラルの二つのアメリカの伝統的論壇のどちらからも大いに批判があったが、有権者としてはカリスマ的魅力があり、この4年間の実績があるオバマを選んだ人の方が多かった。それだけと言えば、それだけの大統領選挙であり、前回のアンチ・ブッシュと「チェンジ」のスローガンに大いに盛り上がった選挙とはうって変わった選挙だった。

 アメリカの政治論壇は世界最高の知的論壇であり、アメリカ政治の背景にはこれがある。しかし、当然のことながら実際の政治と政治論壇は違う。ブッシュ前政権の誤りは現実感覚を失い保守派論壇に引きずられたことである。これに対して、オバマは民主党左派寄りの理想主義者として大統領になったが、この4年間やってきたことは共和党穏健派が言っていることと同じだった。現実の政治は。中道・穏健にならざるを得ない。

 その意味で、オバマはくどいようであるが前政権のような間違いをせず、きわめて現実感のある人と言える。逆から言えば、アメリカの政治といえども、もはや保守やリベラルのイデオロギーや建国の理念がどうこいうという話で決まっていくものではなくなったということだ。

 数多くあるブッシュ政権の負の遺産の中で最も大きいものが財政問題であろう。

 産経新聞11月17日朝刊の「土曜日に書く」コラムの「同盟国脅かす米の「財政の崖」」は興味深いコラムだった。アメリカが財政上の理由から日米同盟の規模を縮小せざる得ないことは、かなり昔から言われていることであり、産経新聞は今頃何を言っているのかと思ったが、産経新聞ですらこの話を無視することができなくなったということなのであろう。

 アメリカは、財政上の理由から日米同盟の規模を縮小せざる得ない。これは合衆国大統領が民主党になろうが共和党になろうが同じである。よく中国贔屓の民主党ではなく、共和党が政権を担えば日米同盟は強化されるという意見があるが、そうしたことは日米同盟関係者や日米同盟で利益を受ける人々の希望であり願望にすぎない。増大化する中国の脅威に対応するために日米同盟をより強固にする必要があるとかいう声があるが、そう願っているのはその人個人の話であって、とうのアメリカ合衆国にはそんなカネもゆとりもない。それほど、アメリカの財政は危機的状態になっている。この危機的状態を作ったのはブッシュ前政権であり、不幸にもオバマはそれを受け継いでいかなくてはならなくなったのがこの4年間だった。

 上記の産経新聞のコラムは、アメリカの「財政の崖」に直面しているが故に、日本の防衛と国民の安全も崖っぷちに立っているとしている、

 しかし、これはおかしな話だ。アメリカの財政に、日本の安全保障が依存しているというのである。アメリカという他人の国の財政状況を日本がどうこうできる話ではない。つまり、我が国がどうこうできるものではないものに、我が国の安全保障がかかっているということなのだ。そうした状態であることに疑問を感じないのだろうか。

 本来は、アメリカの財政状態がどうであろうと日本の安全保障は万全であるということになるべきであろう。このことを踏まえれば、中国の軍事的脅威があるのならば、だから日米同盟を強化せよという話にはならない。

November 03, 2012

洋上の岩っころのこと

以下のrobitaさんのブログ「幸か不幸か専業主婦」の2012年10月28日 (日)の記事「目をさませ」へのコメントです。長くなったので、自分のブログに載せました。

robitaさん、

 村上春樹さんは「東アジア地域における最も喜ばしい達成のひとつは、そこに固有の「文化圏」が形成されてきたことだ。そのような状況がもたらされた大きな原因として、中国や韓国や台湾のめざましい経済的発展があげられるだろう。」と書かれていますが、これはなにも中国や韓国や台湾がめざましい経済的発展を遂げた現代だけの話ではありません。

 私たち日本人が倭人と呼ばれ、穴を掘って住居にして暮らしていた時代から、東アジアには中国文明を中心とした広大な中華文化圏があり、今日に至るまでずっとあり続けていました。東アジアでそのことを知らなかったのは私たちだけです。その文化圏の中に日本国の経済と文化を組み入れ、広く交易を行い、さらなる発展をしようとしたのが平清盛や足利義満です。

 この数千年間、東アジアに脈々と続く中華文化圏に住むみなさんが、これまで漠然と思い続け、今もなお思い続け、これからも思い続けていくだろうということが「釣魚島は、どこの国ものかと言えば、こりゃやっぱ中国だろうよ」ということです。

 昔から中国のものってどこに書いてあるですかとか、島の上に表札とか置いてあったんですかとか、しかるべき組織に書類を出したんですか、まず証拠を出せよ!!とか言われるかもしれませんが、そんなものはありません。あるわけがありません。

 とある洋上に小さな無人島があり、その付近の漁師さんとか船乗りさんとかが目印にしてきて、その近くの大文明国がたまたま中国だったから「この島は中国のもんだな」と思いましたという漠然とした庶民の感情です。その近くの大文明国がインドだったら「この島はインドのもんだな」と思ったでしょうし、ペルシャだったら「この島はペルシャのもんだな」と思ったでしょう。アジア的な領土概念というのは、そうしたなんの根拠もない漠然としたものです。

 その、アジア的領土概念というものが良くない、そういう根拠もない漠然としたものでは困ります。きちんとした近代の国際法に基づいての話をして下さい、というのはよくわかります。領土問題は近代の国際法に基づくべきですし、尖閣諸島についてもそうであろうとしているわけですが、その一方で、大陸中国だけではなく、東アジアの中華文化圏に住むみなさんには、そうしたアジア的な感情が漠然としてあります。日本人が「そんな感情など知ったこっちゃない」と言いましても、我々が倭人と呼ばれ洞窟の中で原始的に暮らしていた(しつこいか)(笑)その昔から、尖閣諸島は海の上にあり、みんなでその島々を営々と使ってきたのですから。

 そして、そうした漠然とした意識がある上で、21世紀の今日、日本が尖閣諸島を実行支配しています。別に尖閣諸島が日本の領土であろうと中国の領土であろうと、大陸中国とか香港とか台湾とかシンガポールとかに住むみなさんは別にどうでもいいなと思っているんですけど、それでもやっぱり大声で「尖閣諸島は日本の領土だ!!おまえ達、勝手に入ってくるな!!」って言われると、なんかムカッ腹が立つな、ということなんだと思います。

 だから、戦後60年間、自民党政権は、国内的には「尖閣諸島は日本国の領土である」としながら、中国には「どの領土かわからないので、お互い正面から扱わないようにしましょう」でやってきました。中国側もそうです。国内的には「尖閣諸島は中国の領土である」としながら、日本に対しては「お互い正面から扱わないようにしましょう」でやってきたんです。日本も中国もこれは難しい問題であることがわかっているので、周辺諸国に向かって「尖閣諸島はうちの領土である」と堂々と言うことはしてこなかったんです。

 何度も申しますが、尖閣諸島は日本国が実行支配をしています。尖閣諸島は日本国の領土になっています。このことは石原都知事が「東京都が買います」と言う前からそうでした。石原都知事が何を言おうと、尖閣諸島は日本国が実行支配をしていました。尖閣諸島は日本国の領土になっていました。では、都知事はいったいなんのために「東京都が尖閣諸島を買います」と言ったのでしょうか。これは「東京都が尖閣諸島を買うぞ!!どうだ!!文句あるか!!」と言いたいがためにやったとしか思えません。実際、ワシントンでこのことを最初に言った時、石原さんはそう言っていましたね。文句ありますか、と。

 この、アメリカのワシントンDCで、しかも日本語で言っていた「文句ありますか」は、一体誰に向かって言っていたのでしょうか。当然のことながら、アメリカ人に向かってとか、国際社会に向かってではありませんね。中国人に向かってでもない。これは、同じ日本人に向かってこう言ったのだと思います。

 中国に対して、なんかこー外交的弱腰な態度の政府に向かって言ったのだと思います。軟弱なおまえらとは違って、オレは毅然とこういうこと(東京都が尖閣諸島を買うこと)やるぞ、文句あっか!オレはこうやって尖閣諸島は日本の領土だと公言してはばからないぞ。どうだ、オレ様はすごいだろう、ということです。ようするに石原さんの私憤ですね。石原さんの私憤から始まったのが、今回の日中間の騒動です。

 政府はこの東京都による尖閣諸島買収に慌てふためき、事態を収拾するために国が国有化するということになったわけですが、結果的にこれが中国政府のメンツをつぶしたことになり、今回の日中間の不和を招きました。その後、中国各地で反日デモが起こり、日系企業は多大な損害を受けたことはマスコミで報道されて、よくご存じのことだと思います。

 石原都知事は何が間違っていたのか。中国を怒らせたから間違っているわけではありません。石原都知事は日中関係に不必要な混乱を招いたから間違っているのです。石原さんいち個人の私憤で日中関係が悪化しました。竹島にやってきた韓国の李明博大統領と同じですね。迷惑以外のなにものでもありません。

 日本政府は「尖閣諸島は東京都が買おうと買うまいと、日本国が実行支配しています、文句あるか!騒ぐんじゃねえ!」とむしろ石原さんにそう言うべきだったのではないのですか。中国のメンツを保ちつつ、日本国の実効支配を粛々と続行していけばいいのです。

 なんで中国のメンツを保たなくっちゃならならないのか、日本の領土であることを公言して何をはばかることがあるのかと言う声があります。特に民主党政権になってから、この声が強くなりました。要するに、この領土問題の実情を知らないのです。その意味では、民主党政権も石原都知事も同じです。みんな、「ここはオレの土地だ!おまえ達、勝手に入ってくるな!文句あるか!」と言いたいのでしょう。

 中国の兵法書「孫子」に次の一節があります。「利に非ざれば動かず、得るに非ざれば用いず、危うきに非ざれば戦わず。」利益のない争いすべきではない、得るものがない争いはすべきではない、さしせまった危険がなければ争いはすべきではないということです。しかしながら、今の日中間は、双方にとって利益のない争い、得るものがない争い、さしせまった危険のない争いをやっています。いっそのこと尖閣諸島で日本と中国の政治家を集めて、孫子の勉強会でもやったらどうでしょうか。中国のみなさんはご先祖様に学ぶべきだし、日本人は倭人の頃の昔に戻って中華に学ぶ意識を持ってもらうのがいいのではないでしょうか。そうすれば、ああっこんな洋上の岩っころのことで、日中双方が争い合うのは愚かしいことだなと気がつくことでしょう。

 台湾は領土権の主張というよりも、漁業権の主張をしています。この海域は、日本の排他的経済水域内になっているので台湾が操業することができないのです。これはへんな話ですね。この場所は、昔っからみんなで漁業をやってきたのですから。「おまえ達、勝手に入ってくるな!!」と言われると、やっぱりムカッ腹が立ちますよ。先祖代々漁をやってきた海で、なんで漁ができないんですか。

 地下の埋蔵資源はどうするのですかと言えば、これは本当に埋蔵資源があるのかどうか不明です。あるのかどうか。あったとしても、どのくらいの量なのか。よくわかっていないものをあてにして、他国と戦争をするのですか。もし周辺海域で原油などの資源が出たら日本と中国の企業がビジネスとして話し合えばいいんです。国がしゃしゃり出る話ではありません。ナショナリズムの話ではありません。

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