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April 28, 2012

『平清盛』の視聴率が低いこと

 NHK大河ドラマ『平清盛』の視聴率が低いという。「NHK大河 視聴率11.3%  清盛 苦戦」(東京新聞)

 そもそも視聴率を気にしなくて番組放送ができるのがNHKの強みであったはずなのだけど、テレビ番組である以上、どうしても視聴者の反応を気にしなくてはならないのかと思う。

 上記の東京新聞の記事にはこうある。

「批判的な意見をまとめると、こうなる。

・これまでの清盛像と違いすぎる違和感

・話の助走が長く、主人公がスカッと活躍しないモヤモヤ感

・登場人物が多く、とくに朝廷や貴族の関係が複雑

・映像が暗くて汚い印象

 これらをNHKの磯智明チーフプロデューサーにぶつけると、同局に寄せられた投書やメールにも同じような指摘があった。だが、そうしたマイナス評価の根拠は、逆に高い評価の理由にもなっているという。例えば「人物が多彩で面白い」「映像がリアルだ」-などという評価だ。」

 僕もこうしたマイナス評価部分が、逆にこの番組を気にいっている点になっている。これまでに清盛像と違うことに興味を感じた。この時代の知識は高校の日本史で習った程度のことしか知らないので、改めていろいろと本を読んでみると「こうだったのか!」と思うことばかりだ。

 「こうだったのか!」ということは「なんかよくわからん」と対になっていて、今のところ僕のこの時代についての理解は「なんかよくわからん」の状態にある。

 歴史というのは、過去に起こった出来事の理解である。しかも、現代のように記録がしっかりとした時代のことではなく、いわば断片的な情報しかない時代の理解である。従って、その解釈がいかようにできる。このへんが、理学や工学とは違う。しかしながら、いかようにも解釈ができる、では困るので、実証に基づいて考えていこうとするのが近代の歴史学である。

 ちなみに、高校の日本史は実に完結、単純にできていて、おもしろいものであるかどうかは別にして、ああいう歴史理解は、あれはあれでアリなんだと思う。しかし、あれが真実なのかというとそういうわけにはいかなくて、あくまでも高校の日本史程度の理解になる。

 で、高校の日本史程度の理解で、今回の『平清盛』を見てみると、とたんに「はあああ?」という感じになる。これまでの清盛像と違う、なんか話がスカッとしない、登場人物が多いし、しかも源のなんとかとか、平のなんとかとか、藤原のなんとかとは名字が同じでわからない。朝廷や貴族の関係が複雑。そしてなによりも画面が暗い、汚い。主役の顔も格好も汚い、みたいな感じになる。

 これらはもう、この通りというか。そういう時代だったとしか言いようがないんだけど。じゃあ、過去の大河ドラマの『平家物語』とか『義経』はそうだったかというと、そうではなかったわけで。今回の『平清盛』は別なんですと言うしかない。

 一般的に、ある物事を多数のみなさんに伝える時は、完結・単純に伝えなくては伝わらない。会社なりなんなりで行う説明やプレゼンでは、コレコレはこうです、と表現する。世間に数多くある「情報の伝え方」とか「プレゼンのしかた」なんか、みんなそうだ。しかしながら、『平清盛』のおもしろいところは、「なんかよくわからん」あの時代のあの出来事を、「なんかよくわからん」けど、番組を撮るということで決めなくてはならないので、とりあえずこうしました、みたいな試行錯誤がある。

 このスタイルは、きわめて基礎学問的だと思う。学問を学ぶということは、学んでいくことにより、これまで、こうだと思っていた考え方、概念がガラガラと崩れ去り、あとに残るのは「なんかよくわからん」という感覚だけになる。実際のところ「なんかよくわからん」ことが「わかる」ようになるのが「学ぶ」ということだと言えよう。

 逆に、このへんに視聴率が低い理由があるのだろう。プレゼンみたく、ビジュアルに、コレコレはこうです、と伝えなくては「伝わらない」のが今の時代なので、こうしたスタイルは今の世の中ではウケないだろうなと思う。

 『平清盛』には、実に数多くの歴史学のテーマが含まれている。藤原摂関家、院政、王家、武士の発生、軍事貴族、河内源氏、伊勢平氏、平家一門の勃興と没落、鎌倉幕府の成立、関東武士団、等々、どれもこれも、踏み込んでいくと奥が深い、日本史の「こうだったのか!」と「なんかよくわからん」状態がある。

 最近、僕はこうしたことについての本を読んでいるのだけど、大学の文学部史学科の学生さんになった気分で実に楽しい。

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Comments

私は10歳の頃「大黄の日日」を見てから歴史が好きになり、大河ドラマを良く見るようになりました。視聴率など関係なく、自分が興味を持った「時代、人物」に引き込まれていきます。現代社会にはないものの考え方、リーダーシップ、すべてが勉強です。平清盛にして言えば、私にはとても興味深く、また父親忠盛の清盛に対する愛情、率直に言えば、血のつながらない清盛にどうしてそこまでして愛情を注ぎこむ事が出来たのか、母親の私にはとても勉強になります。歴史から学ぶこと・・・大いにあると思います。

マスミンさん、

今回、中井貴一の演じた平忠盛は良かったですね。

清盛を棟梁とする平氏一門が天下を掌握したのは、もともと祖父正盛、父忠盛の積み重ねがあって、その路線をさらに清盛が進んでいくことで成し遂げられました。

先日、NHKオンデマンドで1回目を見直しました。正盛は中村敦夫が演じましたけど、これも良かったですね。父正盛のもとで、己が武士であることに悩む頼りない若者の忠盛が舞子と出会い、白河法皇に立ち向かう舞子の姿を見て、その子を自分の子供として育てる決心をする忠盛を改めて見て、ああ、やっぱりこの父あっての清盛だったんだなあと思いました。

忠盛は、舞子の子を我が子として育てることを、自分がこの世に生まれてきた証としたのだと思います。彼は、平氏の棟梁平正盛の嫡子としてこの世に生まれたことに悩んで苦しんで、自問自答し、そして忠盛の時代にできることを精一杯やって、後は子の清盛に託してこの世を去ったのだと思います。

今回の『平清盛』のテーマのひとつは、家族なんじゃないかと思います。王家でも藤原摂関家でも源氏でも父親と息子の確執があって、それらがやがて保元・平治の乱という大きな社会変化になっていきます。歴史から見れば人の一生は短いものです。その短い時間の中で、人はある時は息子であり、娘であり、あるときは父親になり、母親になります。大河ドラマは、それを大きな枠組みで見せてくれて僕も学ぶことが多いです。

これから清盛が、重盛や宗盛にどう接していくのか楽しみですね。後の世にいる僕たちは、その後の平家がどうなったかを知っていますけれど、それが清盛の家族のありようと関わっていたのか、関わっていたのならばどう関わっていたのか、そのへんが見れたらいいなと思います。

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