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November 14, 2010

中國人不是東亞病夫

 ドニー・イェンの最新作映画『精武風雲・陳真』が日本で公開するのかどうか危ぶまれている。いや「危うい」と思っているのは、私のような李小龍と甄子丹のファンだけの話で、日本の配給会社としては「売れる」か「売れない」かというビジネスの話なのであろう。つまり、ビジネスの話で言えば、この映画は日本では「売れない」と判断しているわけだ。

 なぜ、「売れない」のか。「尖閣問題が起きたため、反中感情の激化を恐れた日本の映画会社が配給権を買おうとしない」のだという。なにしろ、この映画はモロ抗日なのである。簡単に言えば、悪逆非道な日本軍を中国武術の達人の中国人が叩きのめすというもので、中国のみなさんとしては愛国心が高揚して、アクションのキレもいいので爽快感もあるという、これはヒットしないわけないではないかという映画で、事実、この映画が9月の中秋節での興行収入がトップになったという。

 一方、日本のみなさんとしてはどうか。日本の李小龍と甄子丹のファンは、この映画を見るだろうが、これはつまり「その人数しか見ない」ということであり、「その人数しか見ない」となると「採算がとれない」ということになるのであろう。私は、そもそも映画の収益とは、観客の数でまかなう、つまり観客が多ければ多い程収益が上がる、観客が少ないと収益が下がる、という映画産業最盛期の頃のビジネスモデルを今でも続けていることに無理があるのではないかと思っている。しかしながら、外国の映画を買って、日本で公開商売をする側としては、ある一定以上の観客が獲得できなければ赤字になるという損益分岐点みたいなものがあるのであろう。今の日本で、この映画がどれほどの人数を獲得できるか判断するというのもわからないでもない。抗日映画が日本でウケますかと言えば、そりゃあウケないでしょうなあと言わざるを得ない。

 この映画は、藤原紀香が香港で映画のプレミアパーティに参加して、向こうの主演俳優から「釣魚島は中国の領土だ」と言われたという一部で報道があった、その映画である。釣魚島とは、尖閣諸島の中国名である。しかしながら、実際のところは、甄子丹が藤原紀香にそう言ったわけではなく、甄子丹は共演の舒淇に、香港の南Y島は俺たちのものだと彼女に言ってやれよと冗談を言っただけだったそうだ。南Y島とは、香港の離島のひとつで、別に領土問題でもめている島でもなんでない。もちろん、甄子丹のこの冗談のウラには、今の日中間の尖閣問題があることはあるだろうが、だからと言って別に政治的な意味があったわけではない。ちなみに、この後で舒淇は藤原紀香と会話したわけでもなく、甄子丹も藤原紀香と話すらしていないそうだ。そもそも、藤原紀香はこの会場へなにをしに行ったのかわからん。香港の大きな映画パーティなら、なんでもよかったのであろう。

 さて、この「悪逆非道な日本軍人もしくは日本武道家を、中国武術の達人の中国人がボコボコに叩きのめす」のストーリーは、中国の映画では数多くある。しかし、台湾映画では見ないような気がする。これは日帝時代の台湾の統治は良かった云々とかいう話ではなく、映画のジャンルとして台湾映画は、そうしたアクション映画を扱わないのではないかと思う。台湾映画において、ナショナリズムはどのように扱われているのか考えてみたいテーマだ。ちなみに、韓国映画にも、この手の話の映画はいくつかある。

 おもしろいのは、対欧米についてはどうかということだ。「悪逆非道な欧米人を、武術の達人のアジア人がボコボコに叩きのめす」という話の映画があるか。まず中国映画では、当然のことながらある。最近では『葉問2』はまさにそうした内容だった。韓国映画ではどうあろうか。うーん、韓国映画では、ちょっと浮かばない。日本映画ではどうか。これはあるような気がする。具体的に、どの映画がそうだったとパッとは出てこないのだけど。しかし、最近の日本映画では皆無だな。今の日本映画や韓国映画では、露骨に正面から欧米を「敵」にするのは、物語上の必然性をつくるのがむずかしい。やはり、悪の西洋人(とか日本人とか)を叩きのめす映画を、今でも堂々と作り、それにたくさんの観客が喝采を送るのは中国だけなのではないかと思う。

 このへんに、今の中国の今の中国らしさがある。

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Comments

そうですね、こういう話はいつまでもつらい。

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