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October 30, 2010

『葉問』『葉問2』

 六本木ヒルズで開催されている東京国際映画祭で『葉問』『葉問2』を観た。どちらもDVDで何度も観ているのだが、これを映画館で上映するというのならば観ないわけにはいかない。映画というものは、DVDでチマチマ見るものではなく、映画館の巨大スクリーンで観るものなのだ。しかも、日本語字幕付き、である。ワタシの語学力ではまだ完全に聴き取れることができん。

 というわけで、平日の金曜日の昼間の上映なので、会社は年休をとってお休みとし、雨が降りそうな寒い空の下、六本木へ行ってきた。

 六本木ヒルズ行くのは、毎年2月26日に行われる押井守監督の例年のトークイベント以来のことだ。今回、地下鉄日比谷線の六本木駅から、「六本木ヒルズはこっち」みたいな目印に従ってそのまま歩いて行ったら六本木ヒルズへ着いた。なんと地上の道を歩くことなく、六本木駅からそのまま行けるのであった。六本木ヒルズができた時から、このルートはあったんだろう。自分が知らなかっただけのことだ。

 まず、『葉問』について

 サイモン・ヤムが演じる周清泉は、葉問のお兄さんなんだとずーと思っていたが、今回改めて見て、実際のお兄さんではなく、葉問の親友だったということを知る。光耀も実際の甥っ子ではなく、親友の息子であった。中国語は、実際の兄弟や家族でなくても「兄」とか「おじさん」とか言うので、ややこしい。

 キャストのロールで、日本の軍人三浦の副官が佐藤大佐という名前であることを発見。大佐クラスの人が副官をやるとは思えないのだが。あと、三浦がこの年代で将官になっているのもへん。もっと歳がいっていないとまだ将官にはなれんだろう。それと、葉問が日本人10人を相手に戦う時、この佐藤大佐(?)は「第5師団、1班、3班、始め」みたいなことを言うシーンがあって、はあ、ここでなんで「師団」が出てくるのと思った。日本軍の組織編成というものが、そもそもわかっていないのである。ただし、この佐藤大佐の、「上にへつらい、下に威張る」姿は、中国人から見た当時の日本人の一般的なイメージなんだろうなと思った。それを演じた、佐藤大佐の役の人、うまい。

 三浦は空手の達人という設定になっているが、この時代、日本では空手はまだ一般的に普及していない。空手イコール日本の武道という意識もまだできていない。さらに言えば、仮に三浦が空手の達人だとして、この時代の空手は、あんなハイキックをしないし、あんな動きはしない。まあ、細かいこと言うときりがないのだけど。

 葉問は、日本人なんかには、中国武術は決して理解できないと言う。前半の金山找との試合で、北の武術とか南の武術とかでなく、ようするにオマエ個人の問題なんだと言うシーンがある。それと同じく、日本人だから中国武術は理解できない、とかそういうことではなく、個人の問題なんだと思うが、なんで「日本人は」という話になるかなあ。まあなんといいますが、この映画は端々にお決まりの「抗日」テイストが満載で、このへん、しょうがないと言えばしょうがないのだけど、まあ、しょうがないですな。

 金山找は悪人というわけではなく、北の方から(言葉も違う)広東の仏山にやってきて道場を開こうとしただけだったわけで、その切実さが今回見てわかった。うーん、映画は映画館で見なくてはやはりわからん。

 アクションそのもので言えば『導火線』の方がいいが、詠春拳のグランドマスターを描いた武術映画としては、『葉問』は優れた作品である。美術セットも良くて、あの時代のストリート風景(ちなみに、ワタシはこうした「あの時代のストリート風景」って好きだよな)がいい。葉問邸の室内装飾も見事だ。

 二作目のサム・ハンの弟子のワカイモンを演じているトー・ユー・ハンは、『葉問前傳』で主役の葉問を演じているが、なんとこの一作目にも出ていたことを発見。徹底的に葉問に関わる彼なのである。トー・ユー・ハン君は、この後、武術アクターとして進んでいくのか、今後の彼に注目したい。

 葉問が言う、武術を学ぶにはカネがかかるという言葉には、あーそうだよなとうなずくワタシであった。

 次に『葉問2』について

 一作目と二作目では微妙に感じが違う。

 ホヮン・シャオミンは、この映画で初めて見たが、あの目がいい。かっこいい俳優だ。最近見た『スナイパー』という映画にも出ていて、どっかで見た人だなと思ったら、あの弟子第一号のにーちゃんであった。師父は強いと言う弟子の黄梁に、「今は強いかも知れないが、20年後はお前の方が強いだろう。誰でも歳を取る。だから心を鍛えるのだ」と言う言葉は、今回字幕で、こう言っていたのかとわかったが、なるほど、確かにそうだよな。この黄梁が、後に李小龍を実際に指導する人になることを思うと、この人もこういう時期があったんだなあと思う。思えば、師父の葉問だって、かつては弟子であり、武術を学ぶ身であったのだ。武術に限らず、諸芸一般において、先生とは、かつて、その先生の弟子であり、先生の生涯においては、常に「その先生の弟子」なのである。

 香港の道場主たちと試合をするシーンで、二人目に出て来る師父は、あれは八卦掌ということになっているそうだが、とても八卦掌には見えん。というか、香港では八卦掌とはああいうものだと思っているのであろうか。

 サム・ハンとの試合のシーンは、今回の「2」で楽しみしていたシーンで、期待通り見事な格闘シーンを演じている。まあ、格闘としては『SPL』の方が「必然性のある動き」をしていて、こっちはいかにも「映画的」なのであるが(武術の「必然性のある動き」だけやっていたら映画にならない)、それでもいい。あんな打ちまくったら、武術の達人だって、いくらなんでも息が切れるだろ、それがまったなくないのはいかがなものかとも思うが、それでもいい。

 冒頭のシーンで、サイモン・ヤムが日本の兵士に銃で頭を打たれるシーンがある。あのシーンを見て、あの(お兄さんと思っていた)人はこうやって死んでしまうのだなと思っていたが、記憶障害になって出てきて、あれそうなのかと思った。頭を打ち抜かれていたように見えたのですけど、傷跡すらないのはなぜ。

 『葉問』と『葉問2』に共通してあるのは、中国ナショナリズムである。しかしながら、詠春拳葉門派はいまや世界中に広がっている。世界の数多くの人々が詠春拳を学んでいる。このへん、どう考えればいいのか。

 日本語字幕については、ふーん、あれをこう字幕にしますか、という箇所が何カ所かあって、まあ、これは映画の字幕としてよくあることだ。

 『葉問2』の方は単館上映が決定したようだ、来年の1月なのだけど。観客動員数5000人を超えたら『葉問』の方もやるとのことである。あの新宿武蔵野館で観客動員数5000人を超えられるかどうか、うーむ。

 『葉問3』が果たして作られるのかどうかさだかではない。もし作られるとしたら、話の内容は当然のことながら李小龍の話になるであろう。葉問門下としての李小龍については、非常に関心がある。葉問派において、李小龍はもっとも有名な弟子である。しかし、詠春拳から遠く離れた(元)弟子の李小龍を、葉問派はどう評価しているのか。これをぜひとも知りたい。

 『葉問2』の上映後、往年のアクション俳優の倉田保昭と香港映画評論家の知野二郎さんのトーク・イベントがあった。下ネタ満載の倉田さんで、いやあ、なんと言いますか。ブルース・リーも気さくでラフな人だったそうで。そうだよなー、手作り映画作りだよなあ。

 ここで、李小龍の弟の李振輝(ロバート・リー)が顧問になって制作された映画"Bruce Lee, My Brother" の予告編が上映された。また、李小龍の伝記映画かと思ったが、『十月圍城』に出ていた梁家輝(レオン・カーフェイ)が父親を演じていて、これはなんかすごいっと思った。没後40年近くたっても、李小龍は語り継がれているのだ。しかしまたもや、アクションシーンが、李小龍はJeet Kune Doを創る以前なのに、映画のような動きをするのはなぜという疑問がてんこ盛りの内容になりそうである。香港では来月11月に公開予定だそうだ。これも日本で公開される可能性は低い。あるいは、単館上映になるのでははないか。

 李小龍、ブルース・リーが今の香港映画界を見たらどう思うであろうか。映画を通して、中国拳法を世界に広めることは、彼の目標のひとつであった。今や、中国拳法は世界の人々が知るものになり、香港映画は今や世界的な映画になった。この香港映画が開いた道を、中国本土の映画がさらに広げようとしている。香港映画は中華電影のひとつになるのか、それとも、これからも独自のジャンルを持ち続けるか。

 このトークショーで見た予告編をyoutubeで見つけた。

"Bruce Lee, My Brother"

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2010年9月、鳴り物入りで刊行された話題の「眞傳 詠春拳教本」に待望の最新号となる第2号が刊行された。今号では第1号に続いて更に詠春拳が詳細に解説される。これを読めば詠春拳の全てが分かるマニア垂涎の一冊である!

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