薩頂頂のファンです
甄子丹(ドニー・イェン)主演の最近の映画で『錦衣衛 』というのがある。例よって例のごとく、この映画も日本公開はないので、例よって例のごとく、僕は香港の通販サイトでDVDを購入して、この映画を観た。この映画そのものの話は別の機会に書くとして、この映画のラストで流れる歌が、なんかすごく良かった。そこで、サントラCDが出ているのならば買わねばと思い、ネットで調べてみた。そして、この歌は薩頂頂(サー・ディンディン)という中国の女性アーティストが歌っているということを知った。
これが、僕が薩頂頂を知った始まりであった。
薩頂頂は、中国系の父とモンゴル系の母のもと内モンゴルで生まれ、幼少期をモンゴルで過ごした。モンゴルで少数民族の音楽から影響を受け、さらに仏教への関心からチベット語とサンスクリット語を学ぶ。長じて、北京の中央音楽学院で哲学と音楽を学んだ。彼女の曲は、一般的なチャイニーズポップとは違う。よくぞ、こうした音楽を作ってくれたという感がある。
今のチャイニーズポップは、アジア圏や欧米圏にも「売れる」ことも念頭においた音楽作りになっていて、いい意味にせよ、悪い意味にせよ、ジャパニーズポップやアメリカの流行曲のような音楽になっている。それはそれでいいし、どんどん洗練された良いものになっていると思い。しかしながら、音楽とは本来そうしたものだけではなく、スピリチュアリティなものを含んだものをある。1980年代に欧米で、ニューエイジ・ミュージックというジャンルが現れるのも、そうした音楽本来が持っている精神的なものへの回帰だったのだろうと思う。そのジャンルに、中国から新星のごとく現れたというのは意外だった。中国の音楽シーンは、ここまで来たのかという感じであった。
彼女の音楽には、一種独特の宗教的な雰囲気すらある。彼女は、自分で作った言語でも曲を作るのだ。しかし「言語」としてどうなのかは、よくわからん。自分の言語能力では、なんとなく中国語(北京語)ではないなということしかわからず、チベット語とサンスクリット語の違いすらわからん。ましてや、彼女が自分で作った言語なのかどうかもわかるわけがない。ちなみに、彼女はモンゴル語もできるんだろうなと思う。
彼女の音楽は、チベット仏教を電子音楽に乗せて、新しいカタチで表現して現代によみがえさせる。それは見事というほかない。実は、薩頂頂の前に、彼女のような曲を作る左佐樹(サージュ)という中国女性アーティストがいた。左佐樹はアルバムを2枚出して、1998年のアニメ映画『スプリガン』の主題歌は左佐樹が歌っている。その後、チベットで事故にあい重傷をおったため、しばらく音楽活動から遠ざかっているそうだ。左佐樹の音楽にはチベット音楽が大きく影響していた。薩頂頂の音楽にもチベット音楽が大きく影響している。ただ、薩頂頂の音楽の方は現代風なポップさがある。
おもしろいことに、薩頂頂の音楽活動の、もともとの始まりは、今のようなアンビエントものではなくダンスミュージックだった。モロ、欧米のポピュラーではないですか、ということなのだ。さらには、フツーの歌謡曲のシンガーとして音楽活動を開始している。そして、そうして始めた音楽活動の中で、これからもダンスミュージシャンとして、あるいはフツーの歌謡曲のシンガーとして、このまま続けていくのかどうか迷った末に、今のスタイルを確立したという。
チベット音楽の影響があるからといって、瞑想的な神秘的な音楽なのかというとそうではなく、全然、欧米風の音楽なのである。だからこそ、イギリスで絶賛されるのだろうなと思う。この彼女の音楽スタイルの変化には、音楽活動のレーベルがUniversal Music Groupになったということも関係している。Universal Music Groupは、彼女の中に、彼女の本来の音楽スタイルを「発見」し、彼女もまたその方向へ進んでいったのだと思う。かくて、サー・ディンディンが誕生した。異なる民族文化が融合し、現代のグローバルシーンでも通用するスタンダードさも持つ、ということに、これからの中国のもうひとつの進むべき方向があると思う。彼女の音楽に、これからの中国が進んでいって欲しい方向を僕は感じる。
薩頂頂の東京ライブの公演は、むずかしいだろうなと思う。1980年代のサブカルチャー全盛の頃の日本の音楽シーンであるならば、彼女の曲は高く評価されて、日本でもライブ公演をやるであろうけど、今の日本で彼女の曲で人が集まるとは思えん。ファーストアルバムは、日本でも発売されたが、セカンドアルバムは日本での発売はないようだ。つまり、ファーストアルバムが日本では売れなかったということなのだろう。さらに言えば、日本ではファーストアルバムはすでに廃盤になっている。よっぽど、売れなかったのであろう(まあ、僕もドニー・イェンの映画で知ったわけであるが)。となると、ライブを見に行くには中国とかイギリスとかに行かなくてはならんな。
Recent Comments