中国はチャイナ・ウェイを歩く
News Week紙(Dec 8, 2009)の記事"Why China Won't Rule the World"について考えたい。
このタイトルは、イギリスのジャーナリストのマーチン・ジャクスの新刊本"When China rules the World"からきているのだろう。この記事が言わんとすることは、簡単に言えば次の二つである。ひとつ目は、中国にはまだまだ数多くの問題があるということであり、もうひとつは、そのことを当の中国人自身はよく知っているということである。ミンシン・ペイのこの指摘は正しい。
正しいが、例えば、政府系の投資ファンドの中国投資有限責任公司(CIC)を、まるで取るに足らない、いち投資ファンドであるかのように見ているのは間違っている。その意味では、古森義久の『アメリカでさえ恐れる中国の脅威!』の方が、というか、アメリカ議会の常設政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の方が、CICの存在を大きく見ている。国のカネをバックにして、採算を度外視して、政府の方針に従って投資を行うCICは、自由資本主義を前提とする今の国際金融の中でいかにやっかいなものであるか、ミンシン・ペイはそのことが理解できていないようだ。
外交について言えば、時に国際法を無視しても自国の利益を追求する巨大な国家がここに発生した、ということの本当の意味が理解できていない。ミンシン・ペイは、Another puzzle: if China is so strong, why doesn't it show more leadership in addressing global problems? だから、中国は国際的なリーダーシップをとることができない、と書いているが、こんなことはpuzzleでもなんでもない。そもそも、中国は、欧米が定めたルールに、すべて従う意志は毛頭ありません、という国なのである。欧米が定めたルールに基づいたリーダーシップなど、とるわけがないではないか。
このへん、同じNewsWeekで、国際版編集長のファリード・ザカリアは、中国は超大国になるのだから国際社会のルールに従い、世界の先進国の仲間に入るべきだみたいに書いているが、そんなことを中国がやるわけがない。中国は、堂々と(笑)インターネットに検閲や規制をかける国なのである。
我々は、思想や情報の自由や表現や交換こそ文化の中核であると考えている。しかしながら、中国はそうは考えない。少なくとも、今の中国政府はそう考えていない。だからこそ、グーグルは中国から撤退したのだ。グーグルの中国撤退は、たんにビジネスの話しだけではなく、欧米と中国の社会思想の違いとしても捉えたい。ただし、ネットは欧米の普遍性とも違うワールドだ。いかなる国家も、ネットを管理することはできない。中国ができるものならやってみろ!である。
かつて19世紀、東洋の小国日本は、欧米の中国侵略を見て、自国もまた近代国家になり、欧米列強の仲間に入ろうとした。その具体的な方法として、日本は欧米が作った国際社会のルールを学び、そのルールに従い、そのルールの上で、帝国主義をやろうとした。このあたりは、いじらしいほど、日本は欧米が作った国際社会のルールに協調してきた。(しかしだからといって、侵略された側はたまったものではなかったが。)
しかしながら、今の21世紀の中国はそうではない。中国は、欧米が作った国際社会のルールに協調しつつも、中国のやり方で国際社会に関わっていくだろう。中国は、チャイナ・ウェイを歩く。
中国には、中国の普遍性がある。今、起きていることは、中国という新たなパワーが出現したので、欧米の普遍性に基づき世界覇権がアメリカから中国に移動する、もしくは移譲する、ということではなく、欧米の普遍性とは別種の普遍性が、この地球社会に表れわれた、ということなのである。
中国は欧米の普遍性に同意し、その上でのリーダーシップをとる意志はないだろう。中華帝国としての中国の世界覇権とは、中国が自ら覇権国として行動するのではなく、(その昔は、朝鮮とか倭国とかいった)周辺の国々の方から自ら進んで、中国皇帝の前で頭を垂れ、中華文明に徳化されることを求めるといことである。今の中国が求める未来の夢は、燦然と光輝く中国の前に、欧米が自ら進んで頭を垂れ、中華文明に徳化されることを求めるということであろう。
大陸的規模で市場を持ち、豊かな天然資源を有し、膨大な人口を抱える中国は、現在の世界覇権国であるアメリカを越える可能性が高い。ちなみに「越える」と明確に言うのが、例えばNewsweekに最近よく書いているマーチン・ジャクスである。今の私は「越える可能性が高い」としか言えない。その理由は別途書きたい。
いずれにせよ、100年のタイムスパンで見た場合、政治的にも経済的にも軍事的にも、弱小パワーとなる欧米が中国の普遍性を前にしてどうするのかということなのである。
これはもはや、国際社会でのリーダーシップを中国がとるとか、とらないとか、そういう低レベルの話しではない。
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