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June 01, 2009

イーストウッドの『グラントリノ』を観る

 GWに中国へ行く前のことである。用があって実家へ帰った。実家では、おそらく私が生まれる前から読売新聞を購読している。自分は自宅で新聞をとっていないので、実家に帰るたびに、その数週間前あたりから当日までの読売新聞を片っ端から読む。その時、その読売新聞の映画紹介の記事に、クリント・イーストウッドの新作映画の紹介があった。

 その映画は『グラントリノ』といって、イーストウッドは朝鮮戦争の英雄で、戦争後フォードの自動車工場に長く務めてきて、定年退職して余生を過ごしている老人を演じている。妻を亡くし、息子たちに同居を勧められてもわずらわしく、とにかく50年代の良き伝統を無くした今のアメリカで、見るもの聴くものみんな腹ただしくてしょうがないという頑固で保守な老人である。そうした老人の隣の家に、アジア系の一家が引っ越してくるという話の物語であるという。

 これは見なくてはならんなと頭の片隅に記憶をしながら、中国に行っている間はすっかり忘れていて、そして帰って、さあスタトレの新作映画を見に行こうかと思ったその時、おーそういえば、イーストウッドの映画もあったなと思い出して、じゃあ行ってみようかと思って見に行ってきた。

 ようするに、その程度の、あまり内容を事前に調べることなく、時間があったので映画館に見に行ったということだけだった。

 ところが、である。これが良かった。

 あのラストシーンを事前に知ることなく、この映画を見たことは幸運だった。とにかく、イーストウッドが最後にああしたということが衝撃だった。

 力に対して力で対抗するのは、アメリカの建国以来のスタイルである。これに対して色々なことが言えるが、こうでしかありえなかったというのは(それは不幸なことであったが)アメリカの歴史である。だからこそ、銃がアメリカ人の魂のようなものになっている。銃を持って自分の身を守る。イーストウッドは、『ローハイド』や『荒野の用心棒』の時から、まさにアメリカのこのスタイルそのものであり、彼は自分の信念を、国や権力や体制に頼ることなく、自分の力(銃)で貫く男を一貫として演じてきた。それは『ダーティハリー』でも『許されざる者』の時でもそうだった。そのイーストウッドが、老いた先に出した「結論」がこうだったということが、かなり重く心に残った。

 アメリカはもともと移民の国であった。みんな移民の子孫たちである。その国が、今は国内のアジア系やヒスパニック系やアラブ系などに拒絶感や不快感を示す国になっている。そうした人々への教育や就職の援助は極めて低い。今のアメリカは、受容する心を失っている。911以後から、その傾向が強くなり今に至っている。

 もうひとつの問題は、アメリカが過去に起こしてきたアジアや中近東での戦争だ。アメリカは他国を蹂躙し、多くの一般市民に犠牲者を出した。その罪を贖うことない傲慢なアメリカの態度が、世界で反米・嫌米感情をもたらしている。テロという暴力に戦争という暴力で対応することが、新たなるテロを生む土壌を作っている。

 暴力が暴力を生む、この負の連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのか。彼は、それはアメリカ自身が変わらなくてはならないと言っているのである。“CHANGE”. 初のアフリカ系大統領が誕生した今のアメリカで、奇しくも同じ考え方をイーストウッドが言っていることは、たんなる偶然ではない。結局は、今のアメリカが抱える数々の問題を前にして、アメリカ人自身が見い出すべき道は、保守もリベラルもない。真実に対して誠実であるのか、どうかの違いだけなのである。

 イーストウッドは保守主義者である。その彼が、こうした「おとしまえ」を自分でつけるということに、最高の保守主義を感じる。このラストシーンは、確かに彼のこれまでの映画の「スタイル」、アメリカの「スタイル」とは別のものだ。しかし、その姿に『ダーティハリー』や『許されざる者』と同じ「男」を感じる。その意味で、クリント・イーストウッドは一貫とした、確固たる保守主義者であり、今でも荒野を独り行く、魂のガンマンである。

 今のアメリカで、本当の保守であるということは、どういうことなのかということを、この映画は教えてくれるのである。

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Comments

<<アメリカはもともと移民の国であった。みんな移民の子孫たちである。その国が、今は国内のアジア系やヒスパニック系やアラブ系などに拒絶感や不快感を示す国になっている。そうした人々への教育や就職の援助は極めて低い。今のアメリカは、受容する心を失っている。911以後から、その傾向が強くなり今に至っている。

この環境を作っているのがリベラルの方々です。これまでの移民は”アメリカに来ること=アメリカ人になること”特に、子孫の代になるとアメリカ人以上にアメリカ人になること。これが成功への近道であれ、求められた事です。

リベラルの方々はこの成功論を否定し、教育の場ではヒスパニック系にはスペイン語での教育を強要し、英語を教えない。政府のサービスも英語では行わず、もともと来た国からの言葉での対応。すなわち、アメリカにいながら、アメリカ人になる必要が無い環境を作り、政府に依存しなければ生きていけない人たちを作っていった。結果として、アメリカ人になった元移民とアメリカ人になれない現移民と格差が作られている。

格差社会から抜け出す手段を持つチャータースクールを否定して黒人が格差社会から抜け出せない構図を作り続けるのと同様、移民も格差社会から抜け出せない環境を作る。

リベラルエリートは自分の子供たちは公立の学校に送らず、格差の上に立つ環境を作る。

より平等な豚になることに専念しているわけだ。 そして、その実態を報告する人が出てくると、それを否定し、その人を村八分に追い込む。これが、真魚さんの発言でもある。”拒絶感や不快感を示す国”はリベラルの社会で起こっている。リベラルの社会が彼らのやり方を拒絶する人が、”違和感や不快感を示す”などと。

アメリカのマルクス化で格差を作るリベラルの方々が問題の起源だ。

MikeRossTky

Posted by: MikeRossTky | June 01, 2009 at 08:01 AM

格差については、2008年のノーベル経済学賞受賞者のPaul Krugmanの"The Conscience of a Liberal"(日本語訳『格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』早川書房)を読むのが良いです。

この本を読むと、ニューディール政策によって、第二次世界大戦後のアメリカ社会は、貧富の差が少ない平等な社会でしたが、貧富の格差が大きくなったのはレーガン以後であることがわかります。原因は人種差別です。この時代から、共和党はお金持ちの権利を擁護し、キリスト教の教義を重んじ、人種差別的で、福祉を嫌う政党になりました。これが最大の間違いでした。共和党は税金の累進化を軽減してお金持ちを優遇し、社会福祉プログラム削減して貧困階層をより貧困にしてきました。共和党が国民医療保険制度には反対しているのも、そのためです。

Posted by: 真魚 | June 02, 2009 at 01:20 AM

格差社会を作った原因が人種差別なのであるなら、その張本人はリベラル思想でしょ?ワシントンDCの学校制度はアメリカで一番とされていた。しかし、リベラルの政治家がワシントンDCで行った政策がアメリカ最悪の教育制度にしてしまった。同じことが、アメリカの都市部のほとんどの教育システムで繰り返された。共和党は全く都市内では関係が無いですよね。都市部の教育システムを壊し、関わっている庶民に格差をもたらしたのはリベラルの方々です。

Paul Krugmanはノーベル賞をもらったかも知れませんが、政策とその結果については現実を無視しています。

ちなみに、その都市部で唯一良い教育システムを維持したのが、カトリック系の学校。その都市部で良い教育システムを作ろうとしているのが、キリスト教系のチャータースクール。これは真魚さんが言う”共和党はお金持ちの権利を擁護し、キリスト教の教義を重んじ、人種差別的で、福祉を嫌う政党になりました。”ではありません。

共和党は個人の権利を擁護し、キリスト教の教義を重んじる人たちが集まり、人種差別を基にした政策は行わず、福祉が最大限個人が行う政党です。

民主党は個人の権利を踏みにじり、キリスト教を弾圧し、人種差別ありきの政策を行い、個人の福祉活動を抑制する政策を進める政党です。

真魚さんが”キリスト教の教義を重んじ”を共和党のネガティブと並べる事で判るように、リベラルの方々は世界のマルクス主義の社会で宗教を許さない、宗教は悪いとする。キリスト教徒ほど、福祉活動を行っている人口はないですよね。そのキリスト教徒が集まる政党が共和党。福祉活動を嫌う政党に集まりますか?

リベラルの方々は矛盾が沢山。福祉を行わなかったオバマ氏は大統領になろうとして初めて福祉にお金を。民主党のベースにアピールする必要が無かったって事は?それとも、政府が主催する”福祉”のみが”福祉”ですか?

MikeRossTky

Posted by: MikeRossTky | June 02, 2009 at 06:17 AM

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