映画『ブッシュ』を観る
オリバー・ストーンの映画『ブッシュ』を観た。史上最低の大統領と呼ばれるジョージ・W・ブッシュの伝記映画だ。
ここでこんなことを書くと、それはウソでしょうと言われるかもしれないが、ワタシは基本的にアンチ・ブッシュではない。そもそも、この人には合衆国大統領の職は無理なのであると思ってきただけだ。今のアメリカを悪くしたのは、ジョージ・W・ブッシュであるというのならば、それは酷な話であろう。アメリカを今のような悪い状態にしたのは、2000年の大統領選挙で不正選挙を行ってまでブッシュを大統領にしたかった「ある勢力」というか「ある人々」であって、ブッシュその人ではない。ブッシュその人は、その「ある勢力」というか「ある人々」に、巧みに利用されただけなのである。もちろん、だからと言ってブッシュその人に責任がないというわけではないが。
では、その「ある勢力」というか「ある人々」とは一体何であったのか。オリバー・ストーンのこの映画は、そこには触れない。この映画は、ブッシュその人に焦点を合わせ、かくも父親へのコンプレックスに悩んでいた人物であったかということを物語る。ジョージ・W・ブッシュは、祖父プレスコット・ブッシュが上院議員、父親ジョージ・H・W・ブッシュが上院議員であり、そして第41代合衆国大統領であるという名門の長男として生まれた。しかしながら、まるで絵に描いたような典型的なバカ息子であった。親のコネでイェールとハーバード大を出る。親の関係する石油会社で働くが、現場の仕事が辛くてすぐに辞める。何をやっても上手くいかない。これに対して、弟のジェフは勉強もできるし、フロリダ州知事になる。こうした諸々のことから、彼はアルコールに救いを求め、神への信仰に救いを求めるようになる。父親への反発は、神からの啓示という形になって、彼にテキサス州知事への道を歩ませ、そして大統領選挙への出馬に向かわせる。
これらはみな喜劇以外のなにものでもない。映画の中でも出てくるセリフであるが、人はそれぞれ器がある。ブッシュは大統領になる器ではなかった。とにかく、ブッシュ政権時代の2001年から2008年までのアメリカは最悪だった。
リチャード・ドレイファスが演じるディック・チェイニーがうまい。ジェフリー・ライトが演じるコリン・パウエルが「なぜ(911とは何の関係もない)イラクを攻撃するのか」という問いに対して、結局は石油の確保のためというチェイニーの説明は、もはや常識といってもいいイラク戦争の目的のひとつだ。大量破壊兵器が見つからなかった時のブッシュの反応が痛々しい。それは己の愚かさが招いた過ちであるが、その過ちを前にして何をすることもできない、その姿は哀れでさえある。大量破壊兵器など何ひとつなく、イラクを混乱と無秩序にし、アメリカを世界の嫌われ者にしたその罪を反省せよと言っても、そういうレベルの話ですらなかったのだ。
私は、オリバー・ストーンの『ニクソン』で、ケネディへのコンプレックスのカタマリであったニクソンの姿を見て、ニクソンへの評価を変えた。同じく『ブッシュ』を観て、ブッシュの評価を変えたい。ジョージ・W・ブッシュは喜劇であり、悲劇の人であった。今のアメリカがこうなってしまったことに反省すべきなのは、こんな人物を合衆国大統領にした者たちであり、そして、こんな人物が合衆国大統領になっているアメリカを支持した者たちなのである。
« 映画『スタートレック』は見事な出来だ!! | Main | イーストウッドの『グラントリノ』を観る »
幸せですね。
Posted by: MikeRossTky | May 31, 2009 10:07 PM
Oliver Stoneの『ニクソン』と『ブッシュ』は必見ですが、Mikeにはアカデミー賞になった”Born on the Fourth of July”をぜひとも見て欲しいです。これはベトナム戦争の傷痍兵の物語です。イラク戦争でも同じです。戦争に行った若者たちの真実を知ってもらいたいものです。
Posted by: 真魚 | May 31, 2009 11:10 PM
もしかして、ゴア氏の”ドキュメンタリー”と同様にOliver Stoneの映画をドキュメンタリーとして見ているのでは?違いはわかりますよね。
Mikerosstky
Posted by: MikeRossTky | June 01, 2009 08:20 AM