民主党の時代の始まり
2008年のアメリカは、イラク戦争の泥沼化や金融危機といった大きな問題に直面していた。これに対して、共和党は72歳の老人マケインと、アフリカを国名だと思っていたというアラスカ州知事のペイリンをもってくることしかできなかったということに、もはや勝敗は決まっていた。メディアがオバマ支持に偏向していたと言われているが、基本的にアメリカのメディアはリベラル系と保守系に別れている。リベラル系のメディアがオバマを支持するのは当然であろう。結果として、民主党のバラク・オバマが大統領に当選した。合衆国史上初のアフリカ系の大統領である。連議会の上下両院選でも民主党が、上院・下院ともに過半数を大きく上回った。以後、アメリカは民主党の時代になる。
ただし、だ。「もはや勝敗は決まっていた」とも言える程、マケインの勝利はなかったのであるが、実際の選挙結果を見てみると、オバマが大量投票数をもって勝利したわけではない。こんな「マケイン・ペイリン」であるのに、それでもなおも共和党に投票する人が数多くいた。オバマが圧倒的多数の支持で大統領になったというのは、獲得選挙人の数であって、投票率では、オバマは53%、マケインは46%であった。オバマは選挙人が多い州で、票を獲得しただけだ。その意味では、選挙戦術が巧みであった。このへんが、アメリカのアメリカたるところであろう。全米の46%もの人々がマケインがいいと判断したのだ。逆から言えば、それほどアメリには多様な考え方があるということだ。アメリカは、全部が一色になることはない。
富裕階層からの増税は可能なのか
第44代大統領がオバマになろうと、マケインになろうと、アメリカが抱えている次の問題から逃れることはない。問題とはなにか、政府にカネがない、という問題である。
そもそもの始まりは、「政府にカネがない」ということだった。大ざっぱに言えば、ベトナム戦争で敗退し、60年代のケネディ・ジョンソン政権に広げた大風呂敷のツケがまわってきた70年代あたりから「政府にカネがない」ということが大きな問題となってきていた。なぜ、カネがないのか。軍事費に膨大な予算を使っているということもあるが、簡単に言うと、福祉・社会保障、教育、公共インフラにカネがかかるということなのである。年々、膨れあがる福祉を前にして、さあ、どうしたいいのかと考えて、出した結論が、富裕階層や大企業に対して減税と規制緩和を行い、自由にビジネスを展開してもらうことによって企業の収益を上げ、結果的に税収を上げようということであり、そして、歳出である福祉や教育の予算は大幅にカットする、従って、政府の財源はこれによって増えることになる、というシナリオであった。
この政策を掲げ大統領になったのがレーガンであった。レーガン政権以後、基本的には、この路線でアメリカはやってきた。その結果、富裕階層はますます豊かになり、貧困階層はますます貧困になる格差社会がもたらされた。ブッシュ政権の8年間で明確になったことは、富裕階層や大企業を優遇することによって経済を活性化させ、結果的にそれが貧困階層も含めた社会全体の経済を上げていくということは、「ない」ということである。こんなことは、レーガン政権の時から言われてきていたが、これで本当にわかったと言ってもいいのではないか。もちろん、このことにより先端的な産業は飛躍的に進歩した。新自由主義の経済政策の功罪については、これはこれで別に考えたい。
自由競争、市場主義、規制緩和は、結果として、サブプライムローン問題を起こし、それが世界経済を揺るがすことになってしまったことは否定できない。資本主義は、自由勝手にさせるとロクなことにならないということが、証明されたようなものだ。「資本主義は、自由勝手にさせるとロクなことにならない」ということは、かつての世界恐慌の時に学んだはずなのであるが、同じ誤りを繰り返したことになる。
しかしながら、そうした共和党の新自由主義の経済政策が間違っていたところで、それでは、「政府にカネがない」という問題に対してどうしたらよいのか。
オバマ政権の経済政策は、ここから始まると言ってもいいだろう。オバマ政権は、金融機関への援助や国民健康保険制度の改善を述べているが、実際のところ、連邦政府にそのカネはどこにあるのか、ということであろう。なにしろ、勤労者世帯の95%に減税をすると言っているのだ。これを富裕階層への増税でまかなえるのであろうか。今のボーダーレスな時代は、その国では税金が高いとなると、富裕階層は資産を税金の安い国に移動させることができる。国家は、マネーを統制することはできない。企業活動も同様である。あまりにも規制を強くすると、企業はもっと規制が弱い国へ移転することが可能だ。結果的に、国の財源は減り、労働者の職場がなくなることになる。もちろん、そうしたことをオバマ政権はよく知っている。つまり、オバマ政権がやろうとしていることは、ボーダーレス経済におけるニューディールとは、いかなるものなのかということだ。そもそも、そうしたことができるのかどうか。少なくともそれは、国家と経済の関係を再定義することになるだろう。
資本主義は、自由勝手にするとロクなことにならない。しかしながら、資本主義は自由勝手でなくては大きく活動することができない。であるのならば、資本主義に自由を与える、と同時に規則の徹底化、規則違反への強力な懲罰を行う仕組みを作るしかないであろう。しかし、ブッシュ政権で始まった金融危機はオバマ政権になったから収まるというものではない。むしろ、これから始まると言ってもいい。かつて、クリントン政権の時、国民健康保険をなんとかしようという試みがあったが、とてもなんとかなるものではなくて結局もなにも改善されないままで終わってしまった。あの時期より、状況はさらに悪化している。オバマ政権は、これからそれらに直面する。
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